第128話 第一試合~七神vs久次来~①
第一試合
七神中学高等学校 対 久次来高等学校
スタジアムの電光掲示板に大きく表示されている。観客はぞろぞろと集まっており、朝九時の時点で8千人にまでのぼった。
「集まってきたね~。ここまで聞こえてくるよ」
控室。桃花がスタジアムの方を眺めながらそう言った。
各々制服から動きやすい服装に着替え、武器を手に時間が来るのを待っていた。
「先輩、作戦なんすけど、ホントにあれでいいんすか? 上手くいく気がしないんですが」
「君がそれを気にする必要はない。いつも通りやればいいさ」
「そうそう。それに面白そうじゃない? うまくいったときの爽快感はたまんないよ~?」
「……まぁ、先輩達がそこまで言うなら」
魁斗は渋々ではあるが納得した。
「そろそろ時間だ。行こうぜ」
「ああ」
スタジアムではすでに「ステージ」と呼ばれる空間が形成されていた。
「ステージ」とは、『戦闘』における戦いの舞台である。立方体の小さなキューブを既定の場所に設置し展開することで、様々な地形、天候を再現することができる。一般的な市街地から障害物のない草原までお手の物であり、選手達はその仮想空間の中で戦う。
「あれが久次来高校。近接武器使いが多い印象だな」
将希が反対側で話し合う集団を見て言う。
「大ちゃんのチームかぁ。どんな感じで来るんだろ」
「その人って、中学の時花坂先輩や剣崎先輩と一緒に戦った人ですよね?」
「そうそう。でもどんな相手だって、私達のやることは変わらない。そーでしょ花坂?」
「だね」
彼らが話す間、互いのリーダーがステージ端にて握手していた。
「剣崎です。今日はよろしく」
「坪内です。こちらこそよろしく。しかし彼が言ってた通りね。だけど落ち着きすぎっていうか」
「一応誉め言葉として受け取っておくよ」
こうして二人は去っていった。
ステージへの入り方はとても簡単。ステージの端から入るだけである。
選手達が手を突っ込む。手を入れた時は薄い膜を優しく突き破るかのような感触で、人体に何ら影響はない。ゆっくりとステージ内に踏み込む。そして、突き破った膜を纏うようにして身体も仮想体へと変化していく。
全員がステージに入ると、それぞれがスタート位置を目指す。ステージの四分の一という限られた範囲の中で、作戦に沿った配置を決めるのだ。
改めて、『戦闘』のルールをおさらいする。
試合は20分の一本勝負。体力制で一人につき200。チームは5人一組であるため、合計1000。
ステージの中で武器や魔法を用いて互いのHPを削り合う。
体力が0になった選手は戦闘から離脱。それ以上戦うことはできない。
勝利条件は以下の3つ。
1、時間内に相手チーム全員の体力を全て削る。
2、戦闘終了時、生き残った人数が相手チームより多い。
3、生き残った人数が同数の時、全員の体力を合計し、その値が相手チームを上回る。
午前9時20分。ブザーが鳴り響く。試合開始の合図だ。
今回のステージは市街地①。団地を模したものだ。天候は晴れ。
それぞれが動き出す。ある者は相手に気付かれることなく行動し、またある者はまっすぐに敵陣へと突っ込んでいく。
翔陽は後者だった。できるだけこちらの陣営にまでひきつける作戦に出る。
「よ。お前のことだから先陣切ってやってくるだろうと思ってたぜ」
だがそこで、行く手を阻むものが現れた。
「拳藤……」
開始28秒。早速エース格が対峙した。
大剣を引き抜き、ゆっくりと構える翔陽。甲冑に似た手甲型のグローブをガチガチならし、臨戦態勢をとる大輔。
そして、ぶつかり合った。
突っ込むと同時に繰り出される突き。
間一髪拳闘士は回避、懐に入り込み右の拳でえぐる。
――こいつ、前よりパワーが……!
互いにその実力は互角。だがそれは中学の時まで。
翔陽は一軒家の壁に打ち付けられながら悟った。少し考えればわかったはずなのに、甘く見すぎていたのだ。
「どうよ、ついでにこれも見せちゃおうかなっ!」
大輔がすぐそこまで来ている。しかも白色の魔法陣を展開しながら。
その場から離れる翔陽。逃がさんとばかりに追いかける大輔。
――間に合うか……?
「覚悟しろ、『火炎弾』!!」
長いこと逃げ回っていたためか、放たれた火炎弾は成人男性の身長にまで膨張していた。
まっすぐ追いかけてくる火炎弾。家々をなぎ倒しながら追い詰める。
しかし翔陽は抵抗する気配を見せない。彼の取った行動は……。
――マジかよ!? 『リフレクト』!
翔陽が逃げた先に、将希がいた。実は彼の指示で魔法陣を展開して待っていたのだ。
両手をかざし、正面から受け止める。ものすごいパワーで、踏ん張るのもやっとだ。
――うわ、はめられた?!
そして放たれる火炎弾。威力が倍になった火球は広範囲においてがれきを灰塵と化し、大輔を追い詰める。
射線外に飛び込むもよけ切れず、足にダメージを負う。
「同じグローブ使いなのに、ここまで差があるなんて……! つかリーダー、聞いてねぇぞこんなの」
「すまん、だがこっちの陣地にまで引きずり出せた。こっからだぜ」