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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第10章〜頂点を求めし者達〜
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第126話 始まり

 遥か昔、この世界が、宙に浮かぶ島々と果てなく続く青い空だけだったころ、白衣をまとった人々が現れ、そこに住みはじめました。高い頭脳と背中に翼を持つ彼らは、青い空を自由に飛び回ることができ、次々と島に家を建てました。


 これは世界の誕生を綴った昔話の一部である。科学が発展した現代ではただの神話と片付けられているが、古来より伝わる魔術師の伝記にも同じ事が書かれている。

 しかし真相はこうだ。

 かつてこの世界は、天界と魔界が互いに接するように構成されていた。そこに境目などなく、天界から落下すれば魔界に行き着き、反対に、魔界から空に向かって飛べば天界にたどり着く。

 ところが当時は魔界の存在を誰も知らず、結果、上記の記述のみが残ることになった。そしてその世界を発見したのは、ある事件を経て天界を飛び出した、二人の少年である。





 天使と呼ばれる者が住み始めて数十年後。

 広間で細剣を振るい、一人黙々と訓練に励む者がいた。


「お疲れ。今日も冴えてるな」


 そういって現れた天使の名はハル。かなりの美形で、どこからでも目立つ容姿の持ち主だ。


「そう見えるか?」


 少年は曇った顔をハルに見せる。


「何か不満でも?」


「納得がいかない。全員一律で与えられているこの細剣、俺からすれば軽すぎる」


「まぁそういうなよ。われらが主神サマは僕たちに最も扱いやすい武器を提供してくださったんだ。」


「ふーん。つか”いつもの”は?」


「ああ、彼女らなら捲いた。さすがに邪魔されたくなかったから、この時間を」


 ハルはその美形ゆえに多くの取り巻きがいる。彼の一挙手一投足に惚れたのだろうが、本人はまったく気にしていない。


「じゃ、やりますか」


「仕方ないな」




 どこかから聞こえてくる剣撃音。ふと気になり、彼女は音のする方へと吸い寄せられるように歩く。それまで何をするにも退屈だった彼女が、半年ぶりに興味を示した。

 金色に輝く髪と瞳を持つその少女は、主神の後継者候補の一人だった。

 現在その座にいる初代主神の命は、もう長くはなかった。また彼自身結婚もしておらず子供もいないため、このままでは一代で途絶えることになる。そこで、似た素質を持った8人の男女を王宮に招き、一から学問を学ばせた。出自は様々で、一般民から選ばれることもあった。

 彼女はそこそこ良いところから選ばれた候補者で親からの期待も厚かったが、突然候補に選ばれ突然家族と離ればなれになり、突然たいして興味もない学問を学ばされたためか、次第にどうでもよくなっていった。かといって逃げ出すわけにもいかず、しぶしぶと学んでいたのである。

 そんな彼女が、剣撃音に興味を持った。訓練時間と学習時間は同時で、なおかつ距離が離れていたこともあって、彼女にとって新たな刺激となった。


――ここだ。


 テラスに出て身を乗り出す。

 人気のない広間には、細剣を交える二人の少年。競り合いになったかと思えば互いに一歩退き、再び斬り合う。

 一人は他の天使が騒いでいたから知っていたが、もう一人には会ったことがなかった。だがその容姿を見て、彼女はふと思い出した。


――翼のない天使。


 この少年は、天使でありながら翼を持たない、要は天使もどきであった。

 両者とも注目される身でありながら、自らの置かれた状況を気にすることなく、ただひたすらに、剣を交えている。

 翼のない少年が宙を舞った。身体をひねり、次の攻撃に備えようというのか。軽やかな身のこなしに目を惹いていると、


「誰だ!?」


 ふいに翼のない少年が声をあげた。

 あの一瞬でこっちを見ていたのか。

 そう思うや否や、身体を伏せて身を隠すも、


「バレバレだよ」


 もう一人の天使がここまで飛んできていた。


「ずっと見てたのか。ここ俺達だけの秘密の場所だと思ってたけど」


「みたいだね」


 少女はゆっくりと立ち上がる。ついた土を手で払うと、意を決して聞いてみた。


「あ、貴方達は、誰なの?」


「誰っていわれても」


「ここの訓練兵、としか言いようがないね。そういう君は?」


「わ、私は……その……」


 彼女の悪い癖だ。訪ねられると萎縮してしまう。

 しかし彼らは咎めることなく、彼女の答えを待った。


「しぇ、シェイラ。シェイラ・ブライトよ」





「……どうしたデュオン。いつになく静かだぞ」


 黒魔術師、剣崎翔陽。彼は地界の守護者である生命体、デュオン・ブレイドとコンタクトをとることができる。


『……夢をみた』


 生命体はそれだけ言った。

 デュオンは姿を現さず、声だけで会話している。故に言葉だけで彼の考えていることを読み取らなければならないのだ。


「守護者も夢を見るのか。どんな夢だ?」


 それ以降、デュオンが話すことはなかった。

 話せないのか、はたまた話したくないなにかがあるのか。いずれにせよ、この生命体が放つ言葉は少なく、まともに会話ができない。


――いつになれば会話できるのやら。

「行くか」


 翔陽は玄関の扉を開け、大舞台への一歩を踏み出す。

 2023年7月15日、土曜日。『戦闘』の公式戦が始まる。

 各地から多くの出場者が集結し、日本一をかけて戦うのだ。

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