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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第9章〜日本の精鋭達〜
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第124話 前夜

「いよいよ明日か」


 翔陽の父、雄治が調理場で後片付けをしながら問いかける。

 東京の剣崎宅。一軒家のとなりには道場が設置されており、毎週土曜日には稽古が行われている。


「ああ。中学以来の本番だ」


 翔陽は鞄に必要なものを詰め込みながら答える。


「お前の"片割れ"には気を付けろよ? 以前仕留め損ねたんだ、何してくるかわかんねぇぜ」


「わかってるさ親父」


 準備を整え、「お休み」と自らの部屋へ向かう。

 ベッドと勉強机、衣類を入れる棚のあるシンプルな部屋。入るとすぐにベッドに寝転がった。


――そうだ、日記読も。


 勉強机の引き出しにしまわれた手帳を取り出す。

 赤一色のその手帳には、日付と天気に加えその日あったことが記されている。


『3月17日水曜日。天気(曇り)

 四歳になった翔くんを連れて、山梨の魔術師集落へ。長老の若杜さんは相も変わらずお元気そうでよかった。そういえば翔くんと同じくらいの子がここに居た気がする。明日会ってみようかな。』


『3月18日木曜日。天気(晴れ)

 挨拶周り、という名目でお宅訪問をしてみました。皆さん生き生きしていてよかった。昨日思い出した女の子にも会えました。紫の瞳をキラキラさせてこちらを見る姿がとてもかわいかったなぁ。』


 日記を書いたのは、(ひいらぎ)香帆(かほ)。翔陽の母にして、先代黒魔術師である。


「母さん……」


 ふと言葉が漏れていた。気づいたときには、涙が溢れそうだった。





――天使の反応、にしては遠いな。


 蓮聖高校生徒会長鎌野(かまの)秀一(しゅういち)は、死神と契約を交わした男である。もとは普通の人間出会ったが、ある時神隠しに遭い、死神との契約をしたことで、一時的に魔法を使うことができるようになった。


『北海道辺りか。離れすぎて向かうことができん』


 死神の名はクロウ。魔界を統べる王であった存在だ。今は秀一の中でその力を蓄えている。


「今の生命力では遠出ができないからな。まぁしばらく放置しても問題はないだろう」


 ペンを持ち、白紙に図を書いていく。秀一は『戦闘』の作戦を練っていた。


『近頃死者数が減りつつあるな』


「どうした急に」


『気になっただけだ』


「医療技術の発達によるものだろう。良いことじゃないか」


『だが魂が集まらない。復活できなければお前との契約も果たされなくなる』


「わかってる」


 契約の内容はこうだ。

 「魂を一定数集める変わりに、身の安全を保証する。」

 シンプルだが、死神にとっては自らの復活のために人間の力を借りていることになる。


『……待て。この感じ、普通の天使ではない。もっと高次のものだ』


 急に早口になるクロウ。その心情を、宿主である少年は体感で理解していた。


『……シェイラか?』


「シェイラ? 誰だそれは」


『天界を治める帝……になるはずだった女だ』





「まずいわ、もう身体に限界が……」


 北海道の楓城学園。中等部の教師である金髪の女性アリシア・ベルイット。明朗快活な彼女が珍しく、浮かない顔をしていた。


「次の身体を"作る"にも、タイミングが悪いわね……。あと半年、3月まで持ってくれると良いけど」


 そう言うと自らの胸に手を当て、力を込めた。発現した光が彼女を包み込み、そして静かに消えていった。


「さて、もう一息頑張りますか!」


 背伸びをして目の前の仕事に手をつける。





 7月15日、土曜日。埼玉県に新設された総合競技場。今年の『戦闘』の舞台だ。

 全国からの戦士達が優勝を目指し、二日間の闘争に飛び込んでいく。

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