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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第9章〜日本の精鋭達〜
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第123話 狙い

――『戦闘』高校生大会、か。いよいよ上にも焦りが見えてきたようだな。


 2023年7月14日金曜日、午後10時。ネット記事をみながら、小泉(こいずみ)大地(だいち)はそんなことを考えていた。

 対天魔特別対策部隊。二つの異世界「天界」「魔界」から人間のすむ世界を守るため、日本政府が独自に設立した組織である。通称陽軍、陰軍。

 日本はヨーロッパに次いで「天界」「魔界」による被害件数が多く、死者行方不明者はあわせて三万人を越えていた。これらをきっかけに1889年に設立され、今でも出現の度に出動し、迅速な対応を行っている。


「またその記事っすか? 隊長も物好きっすねぇ?」


 あまりにも没頭していたため、一人の隊員が声をかけたことに気づかなかった。今年入隊したばかりの新米で、言葉遣いに未熟さが残っていた。


「どうも気になってな。しかし君も珍しいじゃないか。いつもなら消灯時間きっかりに寝ているというのに」


 小泉大地、三十三歳。第四部隊の隊長を長く務めているだけあって懐は深く、多少の無礼には動じない。かるく受け流して用件を聞く。


「オレも調べもんっすよ。あ、そうだ隊長。明日は東京湾沖で合同演習っすからね、早いとこ寝たほうがいいっすよ」


 「天界」「魔界」の侵攻は世界中で度々発生しており、これと似た組織が世界各地にも置かれている。数年に一度合同演習を開催し、双方の防衛力を高め合う。


「もちろん覚えてるさ」


「なら良さそうっすね。じゃ失礼します」


 若き隊員は自らの宿舎に戻っていった。

 再び記事に目を通す。手元のコーヒーに手を伸ばし一口含んだとき、彼は予感した。起こり得そうで、しかし起こってほしくないと思うような、そんな予感を。


――まさか、まだ子供の彼らに、この世界の未来を託すのか……!





 大地の嫌な予感は、的中していた。

 『戦闘』主催団体には陽軍、陰軍の幹部も噛んでいる。そして大会当日にはその幹部や大隊の隊長らが視察に来る。こうなることは、最初から決まっていたのだ。


「でだ、主の見立てでは今年の大会で優秀なる者を募ることになっておるが、相違ないな?」


 大会の主催団体の会長相沢(あいざわ)弘文(ひろふみ)が尋ねる。やや古風な喋り方が特徴的だ。


「はい。中高生はまだ身体が未発達。そして飲み込みも早い。なおかついくらかの恩恵を与えばそれを目指そうと本気になるのは明白」


「早い段階から戦士として育成させる、というわけだな」


「おっしゃる通りです」


 面と向かうは対天魔特別対策部隊の総長、須賀(すが)有朋(ありとも)。書類と弘文を交互に見ながら話す。


「だが彼らに怪我などされれば批判は逃れられぬ。その対策もとらなければな」


「もちろん陽軍、陰軍は付き添いで参戦してもらうつもりです。彼らには後方支援にあたっていただきます」


 有望な戦士といえど子供。当然ないがしろにはできない。


「あとは魔術師、ですね。第四部隊の隊長の尽力によって、日本にいる魔術師の実に六割が協力することになっております」


 ここで弘文が眉をひそめた。有朋はその軽微な反応を見逃さなかった。


「魔術師はこの戦いの鍵を握る存在。あまり面には出したくないのだが」


「それがですね、あの高校生の中には、攻撃に特化した魔術師が多く在籍しているとのことでして……」


「何!? それは本当か!」


「はい、しかも彼らの中心、"黒魔術師"がいるとの情報も……!」


 黒魔術師。これこそこの交渉において有朋が用意した切り札だった。

 全ての魔術師を統率し、勝利へと導く者、それが黒魔術師。この存在はしばらく幻となっていたが、過去の事件から存在が発覚。有朋はこの好機を物にし、今回の計画に盛り込んだのだ。


「……完璧だ。天界と魔界との因縁が、やっと終わる……!」


 どうやら自らの計画は了承されるようだ。有朋はホッとした。

 明日の大会が楽しみになった二人は、そのまま計画を進めていった。

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