第121話 南西の攻撃手
栃尾実業高校。福岡の北九州市に位置する公立高校である。この学校は普通科以外では初めてとなる『戦闘』出場校で、多くの猛者が集っている。
「よーし! 今日はうまく行ったな?」
「うん、やっとお互いが分かってきたって感じだね」
黄色のストレートヘアーを揺らし、チームメイトに語りかける杖使いの少女。ステージから出てすぐ水筒を手に取る。
「中学の頃では考えられなかったなあ」
「あんときはアンタが一方的に嫌ってただけだろ? アタシは最初から分かり合おうとしてたってのに」
「イメージが払拭できなくって」
青緑の髪の少年が苦笑いする。彼の使用する武器は大型のハンマー。力強い攻撃が持ち味の攻撃役だ。
「ところでチームのみんなは?」
「あそこで休憩中。益田曰く、腕痛ぇってさ」
「あはは。グローブ使ってるとそうなっちゃうよね。『戦闘』のシステム的には生身に何の影響もないのに」
『戦闘』は仮想ステージの中で行われる。ステージを囲む薄いバリアのような壁に入るとすぐさま選手の身体も、生身を包み込むようにして仮想体へと換装される。それまでは専用の防具をまとって戦っていたが、安全性を考慮した結果現在のシステムが生み出された。
「それを言うなら鎚本はどうなんだぁ?」
「うぉっ益田!? 聞こえてたのか?!」
「丸聞こえだっつの」
小屋の壁にもたれかかっていた益田賢太が大声で問いかける。
「それよりどうなんだ?」
少し考える健心。と、ある言葉が天から降ってきた。こっそり綾乃と目くばせを交わす。
「僕も疲れるよ。身体の中身まで換装してるわけじゃないからね。長時間振り回してると手の感覚がなくなってきてさ……」
「そうそう。それに十分間動き続けるわけだから足も痛くなってなぁ、腕と足両方の筋肉が悲鳴を上げて、終わった時には立つのもやっとの状態で、しまいには……」
「おおおおいおいおい、わかった、もうわかったから! やめろ、二人してそのやつれたような顔やめてくれ!!」
その場で飛び上がり、必死に止める。
賢太は怖いものが苦手で、ホラー映画はおろか怪談話を聞くだけでもおびえてしまうほどだ。
「またやってるよあの三人」
「元気なのはいいことですよ。特に杖光寺センパイと鎚本センパイは小学校からの付き合いと聞きますし」
同じく三年の飯盛七海と二年の百地芳樹が休憩を終えて帰ってきた。彼らも健心達と同じチームで、二人とも銃を武器にしている。七海が拳銃、芳樹が散弾銃だ。
このチームは中近距離に特化したチームである。チーム内で常に二人一組になって戦う戦術をとり、絶妙なコンビネーションで相手を翻弄する。
「よーし、じゃあもっかい確認すっか! でも覚えてないから健心言って」
「仕切っといてそれはないよ。もう、しょうがないから言うね。高校の『戦闘』は全員の体力が300で、時間もその分長くなってる。僕らは近距離型の武器が多いから、長期戦はまず無理。だから開始直後に真っ先に動いて、相手をひるませつつ攻撃する。一瞬で距離を詰められれば、スキが生まれるからね」
ひとつずつ、各々の取るべき行動を確認する。健心はガサツなリーダーの代わりに指揮を執る参謀で、誰にでもわかる言葉選びを心掛けている。
「よーし! チーム杖光寺、夏の本番に向けて、頑張ろーぜ!」
グラウンドに掛け声が響き渡る。九州の戦士は、今日も汗水たらして励んでいる。