第118話 学園の裏
魔術師はあふれるほどの生命力をその身に宿し、またそれを感じ取ることができる。受け取り方は人それぞれだが、共通して魔法の色ごとに感じ方が変わるという特徴がある。
「このあたりなら大丈夫だろう」
書類を提出した後足早に校舎裏に移動した三人。周囲には誰もおらず、緩やかな風が吹き込んでいるだけだ。
「じゃ話すぞ、この学校の正体と、三摩に何があったのかを」
「悪魔だらけの高校」
掲示板に書かれたこの記事。「友人が目の前で食われた」「周りのやつの頭がおかしい」という主旨のコメントが多く書かれている。
一見誹謗中傷のように思えるコメントだが、どれもほぼ事実なのである。
卒業後消息を絶った者たちは、いまだに姿を現さない。捜索が続いている者がいれば、捜査もむなしく時効により死亡となった者たちもいる。仮にコメントが事実なのだとしたら、行方不明者は全員悪魔に魂を奪われ、食われてしまったことになる。
中学時代、秀一は七神高校に進学するつもりだったが、その書き込みを発見し、書かれたコメントから高校の名前を特定、調査のためにその高校への進学を決めた。
入学式、校長先生の式辞を聞きながら、横にいる生徒をちらっと見た秀一は、その異質な雰囲気を感じ取った。禍々しさをまとった"それ"は並みの魔術師が浴びれば卒倒ものではあるが、秀一からすれば"それ"は身に覚えのあるものだった。
そしてその渦の中に、生命力の反応が一切なかった生徒がいることに気付いた。これにより、彼はこの学校の生徒事情を把握、自らの行動指針を固めた。
――過半数が悪魔。さらには教師も。これでは「悪魔育成校」じゃないか。
この学校の第一印象がそれだった。
学校にも慣れてきた六月。視線がだいぶ集まっていることに気付いた。
悪魔も広義における魔術師の一部で、同じように生命力を感知することができる。この時点で生命力の少ない一般人はすでに狙われていた。
そして遂にちょっかいをかけ始めた。購買に買いに行かせるといったよくあるものから始まり、月を経るごとにエスカレートしていく。それはもはやいじめと変わらないものであった。秀一は心眼という、相手の心を読むことができる力があるため、次々と回避した。水をかけられることもあったが、それも読んで未然に防いだ。
これらはすべて、他の一般人に危害を加えないための行動である。秀一自身を気にくわない存在とすることで、彼らの矛先を向け、安全を確保するのだ。
「よう。さすがにわかってるよな、今の状況」
昼休み。いつのまにか数多くの男子が少年の周りを囲んでいた。少年は黙ったまま動かない。
「あんだけ歓迎してあげたのに、ことごとくかわしやがって。そんなに嫌か?」
「……」
「まただんまりか。せっかくの好意をよぉ。まあいいや。問答無用でやるだけだ。力こそすべての、俺たちなりの歓迎をよ!」
その途端、男子達が一斉に飛びかかった。中には魔法陣を展開する者もいる。
誰かが少年の肩を掴む。
「……『カサラ』」
つかんだ瞬間周囲から突風が吹き込む。
耐えきれず吹き飛ばされる男子達。
展開していた魔法陣もその衝撃で消えた。
「どうなってる……なぜ闇魔法が使えるんだ!」
「お前達と同等、とだけいっておこう」
「そんなことあり得るか!!」
再び飛びかかる。今度は隠し持ってたナイフでだ。
少年は右、左、また右と、軽々と避け続ける。
人間のことを学んだといえど、所詮は力が全ての悪魔。単純な攻撃しかできないでいた。
隙だらけの男達に一発、また一発と殴っていく。みぞおちに一撃を見舞われた男はその場に倒れた。
「どうした、歓迎したかったのではないのか?」
一対大勢。圧倒的不利な状況を、この少年は軽々と覆した。
うつ伏せや仰向けのままピクリとも動かない生徒達。まるで屍のようだった。
「力こそ全てなら、俺は少なくともお前達よりは強いことになる。どうやら主従関係もそれで決まるらしいしな」
「く……人間に、負けるだなんて……」
「じゃあ一つ命令だ。これ以上魔術師でもない人に関わるな。搾取や恫喝も無しだ」
男達は頷いたが、なんとも不服そうな顔をしている。その少年、秀一は教室へと戻っていった。先程の赤い眼とは違う青紫の瞳を、屍に似た生徒達に向けながら。