第117話 蓮聖学園生徒会
私立蓮聖学園。名古屋市に位置する併設型中高一貫校である。駅から東に10分歩いたところにそれはあり、周囲には住宅地が広がっている。グラウンドは芝生で、『戦闘』練習においてもそれを利用したステージ形成が多い。
工業科、商業科に加え、六年前に普通科を導入。中等部、高等部を合わせた総生徒数は714人で、中高一貫校としては小規模である。だが施設や環境は整っており、生徒達は何不自由なく過ごすことができている。
「では、生徒会を始める」
6月7日水曜日の放課後。一室に集まった五人の生徒が円形に並べた席に座る。
「魔術師の存在が日本中に認知されたとはいえ、受け入れられたのは年の近い子供だけ。大人はかたくなに認めようとしねぇ」
「そうね。まあこの学校の場合ほとんどが魔術師だから、いまさら驚くことはないわ」
挨拶を済ませるとすぐ話し始めた二人の男女。副会長の天井悠平と、会計の三摩澄佳だ。
「魔術師に関しては政府が認知のための政策をとっている。彼らが珍しく躍起になっているんだ、気長に待とう」
「会長の言うとおりです。僕たちも待ちましょ?」
那木脩人が賛成する。五人の中で最も背が高い彼は、二年生で書記を務めている。
「ところで、今日は何を……?」
恐る恐る聞いてきたのは、二年生の花坂藍華だった。七神高校に在籍する花坂美姫の妹で、生粋の魔術師でもある。紫の召喚魔法を使用する他、最近は黄緑の治癒魔法を覚えたようだ。
「そうだった。会長、今日は何をするんだい?」
悠平が会長に向き直る。
「今日は『戦闘』に出場するチームを決めるための方策を考える。あと一ヶ月だからな」
「七神みたいな選抜試験は? 貴方そこ出身でしょ?」
「そうしたいのは山々だが、それを許さない生徒がいる。納得いくような方法が必要だ」
「あー、そういやそうだったな」
「え、ええ」
二人の顔が引きつっている。あきらかにおかしい。後輩二人は表情から読み取った。
「そこで提案なんだが、トーナメント形式で決定しようと思う。力のある者、チームが晴れて出場できる、というわけだ」
「わかりやすくていいかも」
「そうですね。私も賛成です」
「ほか二人は?」
「「異議なーし」」
「OK。じゃ書類は俺が通すから、ゆっくりしていてくれ。では解散」
「鎌野先輩、僕も手伝います!」
「わ、私も!」
部屋を出たところで後輩達に呼び止められた。
「わかった。助かるよ」
それを生徒会長、鎌野秀一は了承した。抱えた荷物を等分し、二人に持たせる。
もともとリーダーシップのなかった彼だが、中学時代二つの集団を統率した男のそばに居続けた結果、並大抵のことは指揮できるようになった。そして今、全生徒を指揮する立場にまで上り詰めたのである。
「しかし、副会長たちの様子がおかしかったですね。なにかにおびえているみたいな。なあ花坂」
「そうね。鎌野先輩が、許さない生徒がいる、ていったあたりから」
「ああ。そのことか。まあ無理もない」
「「無理もない……?」」
「実は、この学校の八割は悪魔だ。そいつらが人間に化けてる」
後ろからバサッという物音が聞こえた。振り返ると、後ろにいる二人が凍り付いていた。足元には書類などが散乱している。
「な、なな、何すかそれ!?」
「そ、そうですよ! 八割が悪魔って……!」
「知らなかったか? 特に花坂は」
「もやもやしたのは感じていたけど、それが闇魔法だなんて思わないですよ……」
「もともとこの学校は、卒業生の何人かが行方不明になるという事件がおきている。しかも質が悪いことに、そういった事実はほとんど報道されていない」
「隠ぺい……ですか?」
「そうだ。推測の域を出ないが、原因は同期の生徒に襲われたとみてる」
「そんな……」
後輩二人の顔が真っ青になる。秀一は落とした書類を拾いながら話をつづけた。
「天井も三摩もそれを知っている。三摩に至っては二年前に何人かに襲われかけた」
「「はぁ!!??」」
突如発せられた大声。北舎へと向かう生徒が立ち止まってこちらを見ている。それだけではない。周囲の教室にも何人かいたらしく、ドア越しにこちらを除いている。
「驚きすぎだ……場所を移したい。早く書類を持っていくぞ」
秀一が足早に職員室に向かう。顔をしかめていた。明らかに不穏な空気だ。それを感じた二人はおいて行かれまいと、駆け足で後を追った。
道中、異様な雰囲気をいたるところで感じ取った藍華。そこら中に闇魔法を使う悪魔がいることを痛感した。この空気は苦手だ、早く出よう。彼女は青紫の髪を揺らす男の背中を追った。