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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第9章〜日本の精鋭達〜
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第115話 講演会

 伏宮麗奈は悩んでいた。友人関係ではなく、家系について、だ。

 中学生時代、彼女は母親とともに東京へ移住し、母方の旧姓「弦葉」を名乗って過ごしていた。学校は文武両道の名にふさわしいほど立派な場所で、よき友にも恵まれた。幾多のトラブルはあったが、彼女は家のことを忘れ満喫することができた。

 だがそれらはすべて、父親が与えた、たった三年間の休息でしかなかった。

 もともと父親は娘を北海道から出すつもりはなかった。今回の件も高校入学と同時に帰郷することを条件に、私立中学校への入学を認めたに過ぎないのである。

 そして2021年3月。麗奈は北海道へと帰ってきた。中学で取り戻した感情は、つく頃にはまた消えていた。





「……さん、伏宮さん!!」


 ふいに自分を呼ぶ声がした。雲一つない空の下、その場にいるのは麗奈自身とそのチームメイトである紗玖良だ。


――そうだ、今一緒に登校してて……。

「ごめん」


「もう、また考え事ですの? 今日はとても楽しそうな一日になりますのに……」


「あれ、なにかあったっけ?」


「特別授業ですよ! 卒業生の方がお越しになって、講演を開いてくださるの!」


「あー、そっか」


「そうですよ! もう今から待ち遠しくて……早く行きましょ!」


「えっ、朝早くから!?」


「はい!!」


 紗玖良に手を引かれ、駆け足ぎみになる麗奈。レンガ造りの大きな校門は、もうすぐそこだ。




 朝礼を済ませてすぐ、講堂へ移動する生徒達。ここは約1000人収容できるほど広く、壁にはところどころに彫刻が彫られており、細部にまでこだわる意匠ぶり。赤色のじゅうたんが通路全体に敷き詰められており、見た目も触りごこちも良く高級感があふれている。正面には赤黒の暗幕が垂れ下がっており、あの奥の壁には十字架がかけられている。


「大きな拍手で、お迎えください」


 ある先生のアナウンスに合わせ、先ほど通ってきた正門から、引き締まったスーツを身にまとった三人の男女がやってきた。生まれた環境は同じだが、それぞれがなすべきことを見つけており、学園の卒業生として恥じないふるまいを続けてきた。ある者は政治家として活動し、またある者は役員となって集落の再生を図ってきた。

 彼らの講演はつつがなく進行した。生徒達は彼らの言葉に耳を傾ける。当初の予定が早く終わってしまったため、トークタイムという名の雑談に突入した。先生は黙認している様子。


「そういえば彼、どうしてるかな? ほら、当時首位だった」


「ああ、小泉君? そういえば同窓会にも参加していないわね?」


「あの生真面目な方のことだから二つ返事で参加しそうなものなのに……。やはり忙しいのでしょうか」


「あ、もしかしたら秘密にしていることがあるかも」


「それって、結婚とか、でしょうか?」


「さすがにそれは……あ、結婚で思い出した! あたし少し前に結婚申し込まれたんだ!」


 その場にいた全員が驚愕した。


「といってもお見合いなんだけどね」


「お見合いですか。私も受けたんですけど、殿方との相性が合わなくて蹴っちゃいました。皆さんもよく考えてくださいよ? 人生を左右するものですから」


「そんな重く考えなくても」


 生徒から笑みがこぼれた。リラックスした顔つきで、楽しんでいる様子だった。





 ただ一人の女子生徒を除いて。





「見合いの日程が決まった」


 そう言い渡されたのは、高校三年生に進級する数週間前のことであった。相手は同じ、皇族の遠縁だという。

 三つ上の姉も同じことを経験したが、決定を前に首都圏の大学へ行ってしまった。奨学金をいつの間にか取っていたという。父親はそれが許せなかったのだろう、必ず出席するよう念を押した。家に帰るたびに、何度も、同じ話をした。

 これが当日まで続くのだと、少女は観念した。諦めた。自分には未来を決定する権限などないのだとさえ思うようになった。そして、現状を作り出した姉を憎んだ。

 最近はこの一連の感情が順繰りになって襲いかかってくる。学校に行っている間もずっと。少女はそれでも耐え続けた。せっかくできた友達を不安にさせたくなかったのだ。


「会いたいな……剣崎君……」


 講演の最中、彼女は人知れずそうつぶやいた。

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