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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第9章〜日本の精鋭達〜
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第113話 黒の鉄拳

「借りてきたよ」


 『戦闘』開始前の昼休み。翔陽の言う通りデータを持ってきた美姫。メモリを受け取った翔陽はさっそくパソコンに接続した。


「プライバシーの観点から一時間が限度だけど、それだけあれば十分だ」


「戦い方を見るんでしょ? 対策するつもり?」


「それもあるけど……あった」


 再生ボタンを押し、映像を眺める。

 『戦闘』中の映像は開始されるたびに自動的に録画、保存され、三か月経つと削除される。データの貸し借りはその間可能で、スポーツ選手が自分のフォームを見て改善するのと同じように、戦い方、戦闘スタイルを客観的に見つめなおすことができる。

 再生して1分。突如映像に映る魁斗が雄たけびを上げた。それを皮切りに、攻撃をよけつつカウンターを仕掛けていた魁斗が攻撃的になり、相手に反撃のすきを全く与えなくなった。


「すご……こんなに変わるんだ」


「ああ。ここまでの変移だと、対策しにくい」


 猛攻を続ける魁斗。画面の外からは様々な声が上がっていた。圧倒される者、委縮する者……。中には疑問を呈する声まであった。


「人が変わったよう」


 この言葉は動画の中で発せられた一生徒の声だが、この時の彼の様子をうまく表している。


――そういうことか。


 翔陽は目を閉じて指を重ね、顎を置く。

 昼休みも折り返し。食堂を出、たわいない話し声が聞こえてくるが、集中している彼には届いていない。

 美姫には翔陽が、ただ『戦闘』の対策を考えているだけとは思えなかった。彼の頭の中には、それとは別の何かがあるのかもしれない。限られた情報だけですべてを理解してしまいそうで、彼女は怖くなった。


「サンキュ。俺が後で返すよ」


「えっ、あ、ありがとう」


 メモリを引き抜いて電源を落とし、部屋を出ていった。

 午後一時。その時は、刻一刻と迫っていく。





「なぜ君が、「魔法」を使えるんだ? それも橙の、『幻影魔法』を」


 剣士の放つ言葉に、誰もが驚きを隠せないでいた。

 「魔法」。人間の持つ生命力を駆使し引き起こす、摩訶不思議な現象。これは並みの人間には扱うことができない。唯一使用できるのは……。


「先輩、それはオレが「魔術師」だって言っているようなもんっすよ?」


「なぜ使えるか、としか聞いてないぞ。どうなんだ?」


「……そうっす、オレ使えるんすよ。魔法」


 再び攻撃を仕掛ける。

 これ以上ダメージを受けられない翔陽は紙一重でよけ続ける。


「その幻影魔法をっ、自分自身に使う人はっ、聞いたことがない! 下手をすれば命を……」


「そんなの知らないっす。この力が公になった今、オレは誰よりも高い場所に行ける。先輩も欲しくないっすか? 意外に効力はあるんすよ?」


「俺は端から使うつもりはない」


「もったいないっすよ? ていうか先輩黒魔術師なんだから、やろうと思えばいくらでも」


 すかさず大剣を振り下ろす。最後まで言わせないとばかりに。

 ダメージを受けられないのは魁斗も同じ。ひらりと躱す。


「逆ギレっすか?」


「そうじゃない。確かに黒魔術師だが、君は意味をはき違えている」


「はき違える? いやいやいや、みんなもう知ってるんすよ? 『黒魔術師はすべての魔法が使える』って」


「……」


 翔陽は黙ったまま左手の平を正面に向ける。

 相手は本気だ、これで決める気だ。

 魁斗は決めさせまいと突っ込んでいった。


「黒魔術師は、得ると同時にいくつかの魔法が消える」


 手のひらから展開される魔法陣。そのあとが早かった。

 突如魁斗の視界が真っ黒になり、(ひら)けたと思ったら身体が宙を舞っていた。

 訳も分からぬまま、彼はあおむけになった。




「なんでも使えるのは、間違いだ」





「――い。おーい、大丈夫か?」


 誰かが自分を呼んでいる。その声で、魁斗は目を覚ました。

 柔らかく冷たい触感。自分がベッドの上にいることはすぐに分かった。

 

「やばかったぜ? お前殴られたんだ、でっかい"手"に」


 周りには昨日初めて会った先輩達の姿があった。

 少しして魁斗はすべてを思い出した。


「俺、負けたんすね……」


「そうだ」


 カーテン越しから先ほどまでの対戦相手の声が聞こえる。やはり感情の変化が見られない。あの激戦後でよく平然としているなと、半ば感心した。


「さてどうする? これ以上の技量を持つ選手は山ほどいるぞ。それが束でかかってくるんだ」


「チームプレイっすか? ……いいっすよ。やりますよ」


 いやそうな態度は残ったが、晴れてメンバーが揃った。チームでの作戦を新たに練る翔陽であった。

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