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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第107話 国民の本音

 午後1時。校門付近では未だに報道陣が群がっていた。次の中継の打ち合わせをする者や中継を続けるリポーター。

 校舎の窓にはこちらを覗く生徒達の姿が見える。昔は来たとたんに騒ぐこともあったが、今ではそれがなく、静かにこちらを見つめるだけだ。


「っ、誰か出てきたぞ!」


 その声を聞くや否やカメラを向ける報道陣。しかし出てきたのは先ほどまで相手をしていた教師ではなく、


「……子供!?」


 黒髪黒目の少年だった。身長から中学三年生くらいだろうか。にしてはあまりにも落ち着きすぎている。

 昼休みだから外にいるのはあり得るか、彼らはそう思うことにした。


「君、先生はどうしたんだい?」


「先生達は職員室に戻りました。でも、またここにやってきたところで何も変わらないのは貴殿方もご存じでしょう。だから私が変わりに話します」


 リポーターやカメラマンはポカンとする。


「何でしたっけ、質問」


「じ、じゃあ聞くよ? この七神中に魔術師がいるって話だけど、本当?」


「本当ですよ。だって」


 その生徒はニヤリと笑うと、右手を天に掲げ、


「私がその魔術師の一人なんですから」


 黒の魔法陣を展開させた。

 報道記者はその魔法陣に目を奪われた。カメラを向けることも忘れて。


「ホントにいたんだ……魔術師……」


「非難しないんですか? 皆さんそう教えられたはずなのに」


「い、いや非難しようにも……」


「子供だからはばかられる、ですか?」


 特ダネを掴もうとやってきたはずの記者達。本当だった場合のシナリオも考えてある。だが今、この生徒のペースに乗せられているのは明らかだった。





 外で翔陽が何か言っている。窓から見ていた誰かがそう言うと、全員がそちらを見るようになった。


「ホントに翔陽だ。魔法陣だして何やってんだ?」


 既に知っている拳藤げんどう大輔だいすけがとなりにいる杖光寺じょうこうじ綾乃あやのにそう聞くと、


「さぁ? でも、あそこにいるのがマスコミだとしたら、自分の存在を公にしたってなるよな」


 綾乃はそう推測した。

 周りには魔法陣にみとれる同級生達。皆報道陣みたいに驚くような素振りはなかった。


「もしかしたら剣崎のやつ、ホントにやるかもしれないぜ?」


「やるって、何をだよ?」


「だーかーらー、『魔術師の共存』ってやつを、だよ」





「見てよSNS、魔術師が急上昇ランキング一位に入ってる!」


 目を輝かせるのは校門付近の茂みに隠れている侑宇里ゆうりだ。彼女も魔術師の一人で、青色の変身魔法を得意とする。

 一緒にいた美姫みきも侑宇里のスマホをのぞきこんだ。彼女は紫色の召喚魔法を得意とする魔術師だ。


「賛否両論あるみたい。やっぱり打ち明けるには早すぎたのかな?」


「でも見てよ。目立つのは『初めて見た』って投稿だよ? ボク達がホントにいるって信じてない人のほうが多いんじゃない?」


「言われてみればそうだね」


『そろそろ準備しろ』


 トランシーバーから鎌野秀一の声が聞こえる。


「鎌野くん。にしてもすごいね、ザキ君は」


『ああ。今奴が話してることも、全部奴のシナリオ通りだ。俺もまさかここまでとは思わなかった』


「そうやって考えると逆に恐ろしいよね、全部上手く行くなんて」


『だが、ここからは奴にとってもおそらく未知だ。俺達もそれを見届けよう』


「だね!」





「つ、つまり、君が魔術師を束ねる黒魔術師で、魔術師は悪ではない、ということを証明するためにこんなことをした、という解釈でいい?」


「問題ありません」


「それじゃあ国民は納得するのか? 現にまだ悪という考えが根付いている地域もあるんだぞ」


「じゃあ聞いてみましょうか、全員に」


 黒魔術師と名乗った生徒は指を鳴らす。彼の後ろに突如文字の書かれたホログラムが現れた。


「これも全て、私達が見せているものです。さ、早く」


 ホログラムにはこう記されている。


魔術師は排除されるべきか?

1,その通り

2,いや、容認すべき

3,正直どうでもいい


 この魔術師はどうやら投票させようとしているのだ。


「テレビは色ボタンで投票させましょう。上から順に青赤緑。ネット中継してるそこの記者さんも、これの表示をお願いします」


 今ここに、日本全国を巻き込んだ一大イベントが開始された。魔術師がルールを説明する。

 制限時間は五分間。この間に視聴者は1から3のうちひとつを投票する。テレビなら色のボタンで選択し、ネット配信はアンケート欄にクリックして投票する、という形を取った。対象は日本にすむ国民全員。それには隠れ潜んでいる魔術師も含まれる。

 なお、一度選んだ選択肢は変更することができない。どれを選ぶかを慎重に決めて欲しいという意図があるようだ。


「じゃあ、スタート」


 タイマーが作動し、投票がスタート。

 これはもはや世論調査にも等しいことだった。一大ニュースを放送させることで視聴者の関心を高め、それが最高潮に達したところで視聴者に選択を迫る。彼はこれを短時間のうちに済ませてしまったのだ。


――マジかよこの子、本当に中学生か?


 報道陣はそう疑わざるをえなかった。

 改めて校舎を見ると、こちらを覗いていた生徒達の姿はどこにもなかった。あちらもまた、投票に参加しているのだろう。





 五分後、投票結果が示された。


投票率  82%


1,その通り     17%

2,いや、容認すべき 09%

3,正直どうでもいい 74%


 つまり、過半数が可もなく不可もない、興味すら持とうとしていないことが明らかになった。

 この少年はまたニヤリと笑う。


「魔術師よ立ち上がれ! 怯えていたのは俺達だけだということが今分かった! もう隠れる必要もない! むしろ自分達についてもっと知ってもらうべきじゃないのか? 俺はそう思う!」


 声高に、届けるように発したその声には、信念とも呼べる覚悟の意が込められていた。

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