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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第105話 疲弊

 天使が去った数分後、陽軍の本隊が到着。各地で現場検証と事情聴取が執り行われる。

 天使や悪魔といった警察の捜査の範囲外にあたる事件に関しては、対天魔特別対策部隊がその公務を代わりに執行する。

 周りの人々の心情は様々。天使の被害に遭わず安堵する者もいれば、これまでの努力を阻害され、落胆する選手もいた。


「どうなんだろうな、今年の『戦闘』」


 チーム滝川の一人、涼馬がつぶやいた。他のメンバーが顔を向ける。


「中止……になるかもしれないわね」


 夏季が伏し目がちに言う。


「えっ、じゃあもうやらないってことか?」


「私達これから受験よ? 予備日なんて設けてたら勉強する時間が無くなっちゃうじゃない」


「お前……なんでそんな消極的なんだよ!!」


「原石。皆心がすさんでる。再戦しても力出せない。……どうやっても無理」


「恭介の言う通りだ。しょうがない」


「だけどさ!!」


「私だって悔しいさ! なぜ自分達の年に限って天使に邪魔されなければならないって、今ここで叫びたいぐらいだ!」


 あの冬我が、声を荒げて取り乱している。涼馬は理解できず、ただ放心して立ち尽くすだけだった。


「夏季も、侑宇里も、恭介も、剣崎達だって。皆苦しいはずさ。でもこらえるしかないんだ。結局私達は、天使相手に何も出来なかったんだから」


 この戦で多くの人々が、自分達がいかに無力な存在かを突きつけられた。その衝撃がしばらく収まることはなかった。





「親父、何してたんだ」


 翔陽が父親である雄治に問いかけた。

 翔陽が目覚めて外に出たときには、もう戦いは終結しようとしていた。今の彼は情報が欲しかったが、誰に聞いても話ができそうな状態ではなかったため、周囲と比べて落ち着きすぎている父親をあたったのだ。


「決まってんだろ? 観戦だよ」


「そっちじゃない。天使が現れてから何してたんだって聞いてんだよ」


「……魔術師達(あの子たち)に混じって戦ってた」


 雄治はこの、常人では言えないようなことを平気で言う。しかも全て事実だから問い詰めようがない。


「親父の強さは分かってるつもりだけど、さすがにそれで無傷ってのはどうよ」


「これでも苦戦した方なんだぞ。見ろ、すねをちょっと擦りむいてる」


「わかんねぇよ。てか、よく戦えたな」


「そうだなぁ。確かに俺は一般人で、普通にやってたら死んでただろう。でも、一度剣を交えてみたら分かったんだ。ソイツの太刀筋を俺は知っている」


「知ってる……? 何でそれが言えるんだよ」


 冬我と同じく、こちらも取り乱していた。雄治はここから情報を開示していく。


「何でって言われても……奴の戦い方に見覚えがあったから」


「見覚え? 知り合いでもないのに」


「んー、「見覚えがある」というよりかは、「知ってた」のほうが近いかな」


「親父の知り合い? ますます分からなくなってきた」


 翔陽の思考が停止しかけた。自分の親は一体何を言っているんだ。

 が、真っ白になった脳内にある考えが入ってくる。


「……待て。まさかそういうことか!?」


「やっと気づいたか。遅いぞ」


 ようやく雄治は全てを打ち明けることにした。


「そいつは俺の同級生、しかも元『平成の騎士団』メンバーだったってこと」





 一方こちらは魔術師達。『戦闘』公式戦の中止によるショックより先の戦の疲労が襲ってきてその場に座り込んだ。


「出しきったぁ」


「いや、姉さんなんかとくにじゃない? 僕と藍華は普通の刀だからそこまで使わなかったけど、姉さんは常に生命力を供給しなきゃいけないでしょ?」


「そうだけどぉ」


 姉弟同士で労い合う。そこに侑宇里が足を引きずりながらやってきた。


「ちょっとキツいかも。美姫背中貸してぇ」


「いいけ……うわぁ」


 美姫が了承する前にもうもたれていた。


「人守るのにここまでしんどくなるなんて思わなかったよ」


「でも何も言われないね。魔術師だってのバラしてるのに」


「いや、この後が怖いのさ。後で『ボク達がいたから』なんて非難されるのが落ちだ」


 その時、美姫のポケットが震えだした。何かと思って取り出すと、見覚えのある名前が目に飛び込んできた。携帯電話を操作し耳に当てる。


『花坂、無事か?』


「鎌野くん! うん、みんな無事だよ!」


『よかった。すまない、あのあと球場内で力尽きちまってた』


「気にしないで。それより、これからどうしよう」


『俺達の存在か。大丈夫、その辺は何とかして見せるさ』





 天使の襲来は日夜報道され、多くの報道関係者が学校にやってきては様々なことを聞いてくる。それは七神だけにとどまらず、あの時出場していた全ての中学校に言えることであった。

 そして数日後、恐れていた事態が起きようとしていた。

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