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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第100話 あるべき姿

 午前10時30分。警報のサイレンがこだまする国立競技場。火事のものでもなければ地震のものでもない異様な音に、場内が騒然とする。


「ご来場の皆様に、お知らせ致します。先ほど都内にて特別警報が発令されました。よって、係員の指示のもと、近くの神宮第二野球場に避難するよう、ご協力をお願いします。繰り返します……」


「慌てないで、さぁこちらに」


 アナウンスに続き、場内すべての観客、選手を係員が誘導。複数の出入り口を活用し、効率良く避難させる。誰もが危機感を抱いており、その目も震えていた。




「陽軍、陰軍はまだか!!」


「あと十分ほどで到着します!」


 運営委員会も対応に追われていた。誘導に駆り出される者、政府と連絡を取る者。そして、この男のように議員の応対をする者。


「だか、この競技場自体も避難場所のはず。なぜとなりの球場に移動しなければならない?」


「それが、魔法陣の展開位置に問題がありまして……」





「この感じ……!」


「ああ、おそらく天使だ。それもかなりの数」


 移動の最中、美姫と秀一がいち早く察する。

 魔術師は多くの生命力を持ち五感も人並み以上に優れているため、他の生命力を感じとることができる。


「て、天使!? あんときの奴か!?」


 大輔が尋ねると、秀一が、


「いや、奴はあの時倒されたはず。そしてこの異様な生命力は、奴よりもっと位の高い天使だ」


「うへぇ。どんだけいんだよ天使」


 近くにいた綾乃がそんなことを言った。

 天使。それは人間達の生活する世界とは全く異なる、天界に住まう者達の総称である。優れた頭脳をもち、集団戦を得意とする。


「でもたくさんいるって、やっぱり変だよ」


「花坂の言うとおりだ。集団戦を得意とする奴らが二十も三十もやってくるのは変だ。多すぎる。もしかしたら、襲撃とは別の目的があるのかもしれない」


「どっちにしろ、戦わなくちゃいけないよ。でも戦えるのって……」


「そう、俺、花坂姉弟、それから竜胆……立川と剣崎。六人の魔術師だけだ」


「そ、そういや翔陽は!?」


 大輔が声をあらげる。


「そういえば移動するときからいなかったよ!」


「……別のゲートにいると、信じるしかないか」





『やはりいない、か』


 魔法陣が競技場上空に現れ、次々と地上に降りる天使達。秀一の予想どおり、三十ほどの大軍を引き連れていた。

 先頭には白装束に三対六枚の翼を持つ天使。かなり位が高い。


『ここに多くいると踏んでいましたが、先を読まれましたね。全く人間は……』


『い、いえ! ご覧下さい! 誰か立っています!』


 天使達が競技場を見下ろすと、確かに誰か立っていた。黒髪の少年、背中には大剣を携えていた。


「やっぱりここか。運営委員の様子がおかしかったから、残ってて正解だな」


『あ、アイツ黒魔術師です!!』


 下級天使達がたじろぐ。


「でも、本当の狙いはあっちにいる人々じゃない。そうだろ、上級天使『コア』?」


 名指しでそう呼ばれた三対六枚の翼を持つ天使は、口をつぐんだ。


『……黒魔術師。今貴殿と戦うつもりはない。引いてくれ』


「そういうわけにもいかない。今ここで止めないと、向こうの人に被害が及ぶ」


 互いが互いを刺激しないよう、注意して会話する。周囲の天使達も、彼らか醸し出す雰囲気を敏感に感じ取っていた。


『……なるほど。貴殿らを差別し排除しようとした人間を守るのか』

――ここで足止めを喰らうわけにはいかない。早く打開策を……!


「全員がそういう考え方を持つわけじゃない。少なくとも同じ学校の皆は分かってくれるはずさ」

――という幻想を言ってみたはいいものの、気休めにもならないな。さすがにこの人数を相手できない。鎌野達を呼ぶか? いや、今いけば確実に隙を見せることに……。


 言葉を交わすも動こうとしない。いよいよ一触即発の様相を呈している。

 両者とも頭の回転は早く、相手の攻撃を上手く利用し、反撃を仕掛けることを得意とする。故に、「先に動いた方が負け」なのだ。

 このにらみ合いが、ついに五分経とうとしていた。





 ここで均衡が崩れる。

 動き出したのはなんと、翔陽であった。


「ぐっ、っっぁぁああ!!」


 言葉にならない断末魔をあげ、膝から崩れ落ちる。


――こんな時に目覚めるか、タイミングが悪すぎる……!


 激しい頭痛が翔陽を襲う。そしてついに、黒魔術師が動きを止めた。

 これには、いかなる状況をも想定してきた天使達も動揺した。慌てて武器を構える。


『一体何がどうなって……? 待てよ、この生命力……おい、あれを用意しろ』


 コアの指示通り、中級天使が魔法陣を展開。大きな棺が現れた。


『私の予想が正しければ、ここにアレがやってくるはず』


 すると少年の身体から、青白く丸いものがふわふわと現れ、棺に吸い込まれていく。

 しばらくして、ギギギ……と棺の蓋が開き、中から白装束の人物が姿を見せる。しばらく浮遊した後、背中の翼をバッと広げる。


『……お目覚めかい、「フトゥレ」?』


『……夢を見ていた。私が人間界で暮らしていたという、悪夢を』


『悪夢なら目覚めて正解だな。さて、行くか』

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