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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第99話 不穏

 国立競技場観客席。四万八千人を収容でき、今回の『戦闘』公式戦にはその八割が観戦している。

 チーム剣崎、チーム滝川の戦術・戦略は、多くの選手、観客達に注目された。

 相手の作戦をいち早く見抜き、それに対抗するための手段を素早く組み立てる頭脳。その指示を確実に遂行する行動力。息の合った連携と互いの信頼が、それらすべてを可能にした。


「やっぱり七神は強いな」


「でも圧勝したって話は聞かないから、俺らも負けられないよ」


 あちこちでそのような会話が聞こえる。そう、他の中学生も決して、彼らより弱いわけではない。誰もが自慢できる作戦を持ち、そしてそれを実行しうる能力を持っている。今年はそれが顕著であり、誰が優勝してもおかしくない。例年以上の接戦が期待されるのだ。

 観客のうちの一人、剣崎(けんざき)雄治(ゆうじ)は、これまですべての試合を見ていた。


――毎年きてるが、やはり今年もハイレベルだなぁ。わけも分からずやってたあの頃とはちげぇや。


 彼もかつては選手の一人だった。

 当時の『戦闘』はルールも数えるほどしか定められておらず、無法地帯に等しいものだった。身を守るものは防具のみであるため、防具の破損、身体への傷害なども珍しくなかった。雄治の所属していた七神中は、そんな無法地帯とも呼ばれた第一回大会を勝ち抜いたのである。


――彼らのうち何人かは後に、あの場所からスカウトされる。それも大勢。それだけは何としても避けたいが、親や先生から"洗脳"されていることもあり得る。


 だが彼は『戦闘』を定めた政府に疑問を抱いていた。憲法第九条「平和主義」があるにもかかわらず、国力をつけるとはどういうことか。なぜそれを達成するために子供を利用するのか。


――裏があるはず。早く突き止めなくては。





――彼女のためにも。





 『戦闘』公式戦が盛り上がる一方、天界は慌ただしい様子だった。天界暦4,084,441年、地界暦2021年。主神ロウド・シャインから急遽下った命令が、天使達をある準備に取りかからせたのだ。

 主神からの命令。それは、「大人数が集まる場所を襲撃せよ」というものだ。

 しかし、今に始まったことではない。もともとこれは数十年前から計画されたもので、本来ならもっと早く実行できた。しかしこの期間は、黒魔術師が存在する期間でもあったため、延期が繰り返されていたのだ。


「主神も無茶苦茶なことをおっしゃるのだな」


「仕方ないだろう。鬼神キシンが邪魔をしているのだから」


「それなら今もよ。反撃を喰らってしまうのが落ちだわ」


「それでもやらなきゃならない。それが主神のお考えならな」


 あちこちで様々な声が上がっている。

 天使達は揃って頭が良く、集団行動を得意とする。人間より優れていると全員が思っているため、本来なら威勢良く準備に取りかかるはずだ。

 そんな彼らが恐れているのは二人。魔界の王「クロウ・アルザレム」と、鬼神(キシン)だ。彼らの頭脳は天使と同等かそれ以上あり、敵に回せば厄介な相手となる。この二人は主神さえも恐れるのだ。


「ところで、俺の武器知らね?」


「レーダーで探知できないのか?」


「やってんだけど、反応がないんだよ。出撃前に見つけないと」


「そうね。武器がないと主神の恩恵が受けられないもの」


 彼らの身体能力はもともと高いが、武器を通して恩恵を受けとることで飛躍的に上昇することができるのだ。


『あと一時間。あと一時間で出撃せよ』


「やっべ、主神からの命令だ」


「早く思い出せ。一時間なんてあっという間だぞ」


「分かってる」




――あと一時間、とは言ったものの、現段階では勝てる見込みがない。上級天使を密かに送り込んだとはいえ、相手は黒魔術師だ。しかも厄介なのがもう一人。黒魔術師のとなりにいつもいる青紫の人間だ。やつからは異様な生命力を感じる。我らの作戦に影響しなければ良いのだが……。


 そう苦悩するのはロウド・シャイン。現在の天界を治める者だ。


――うまくいってくれよ……。これで厄介事が増えるのはごめんだ。特に……。


 主神は空を仰ぐ。


――あの女に気づかれるのだけは避けなければ……!





 競技場特別席。ここには重鎮やVIPなどが観覧する。ある一室には、議員達の姿があった。


「これはまた素晴らしいですなあ」


「ええ。有用な人材が多い。これならしばらくは安泰ですよ」


「対天魔特別対策部隊。今の隊員でも有能なのに、さらに彼らが加わりゃ鬼に金棒ですな」


「しかし、高校にも『戦闘』を指示するみたいですよ。今回のは序の口かもしれません」


「いずれにせよ、世界最高峰の部隊になるのは間違いないな」


 皆が笑い合う。そこに、『戦闘』の運営委員が数名入ってきた。

 と同時に、奇妙なサイレンが鳴り響いた。

 試合は始まっていなかったため、選手全員が辺りを見回す。


「何だ急に。そして何だこのサイレンは」


「はい、その事について参りました」


 運営委員は簡潔に事の次第を述べる。


「そ、それは本当か!」


「魔法陣を確認したとのことですので、間違いありません!!」


「くそ、続けるのか?」


「一時中断し、様子を見ましょう。陽軍陰軍には既に伝えてあります!」





 『戦闘』公式戦は一変し、非常事態へと移った。雄治も異変に気づき、すぐさま準備をする。


――邪魔はさせない! 特に彼らと奴らが遭遇したら大変なことになる!

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