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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第98話 刹那と耐久

 試合開始直後、一人の選手が犠牲になった。

 チーム剣崎の第一試合、相手は福岡の五鮫(ごこう)中学、チーム尾花だ。そのうちの一人が一分も経たずに戦闘不能にされたのである。


「まさかホントに来るなんて、ザキ君の読みって凄いなぁ」


 一人目を斬った少女、花坂美姫。リーダーの頭脳に改めて感心する。




 試合開始数分前、チーム剣崎の作戦会議中。


「これまでの戦績から、一番厄介なグローブ使いは右回りで前進する」


 翔陽は自作のマップを広げ、これまた自作のコマを用いて説明する。

 今回は秀一に指揮権を譲っているため、序盤の作戦を立てることに専念するのだ。


「つまり、時計回りってことだな?」


「そう。で、どうする鎌野?」


「なら花坂を迎え撃たせる。そのまま倒してくれても良い。そっから先はいつも通りにな」


「や、やってみる」


「OK。鎌野、後は頼めるか?」


 秀一は深く頷いた。




「『スタートと同時にスピードアップを使い、グローブと戦ってくれ』かぁ。確かにこれなら奇襲も可能だし、私の妖刀の能力との相乗効果もあって、あっという間に翻弄出来ちゃうな」


 彼女の武器『刀』は、ただの刀ではない。花坂家当主が受け継ぐ妖刀『夜桜』である。その能力とは、妖刀の持ち主、つまり美姫の生命力が半分以上あるとき、技の威力を高めるというものだ。


「よし、じゃ一旦下がって、他の援護にでも行こっかな」


 残り時間の少ない『スピードアップ』を駆使し、美姫は仲間のもとへと急ぐ。





 驚いたのはチーム尾花だ。いつも通り散開した後、再び一転に集まり総攻撃を仕掛けるという作戦が、これで使えなくなった。完全に読まれていたのである。


「くそっ、次だ! パターンB行くぞ!」


 しかし全国大会常連校は、他に作戦を三つほど用意するもの。切り替えて次の作戦に移る。


「見つけたぜ、リーダーさんよ!」


 その瞬間、何者かに襲われた。尾花は咄嗟にシールドを張り、身を守る。


「来た! チームいちのアタッカー、拳藤!」


 尾花の武器はハンマー。素早さでは劣るものの、持久戦に持ち込めば追い詰めることが可能だ。意を決して迎え撃つ。


「何だ、俺の名前知ってたんだ」


「以前の選抜試験で知ったんだ。ついでに君の戦い方も」


「偵察に来てたのか。てことは、俺が不利なのか」


「そういうことさ」


 尾花は『火炎弾』を発動、ハンマーで打ち込んだ。

 あまりの速度に大輔は身を翻した。


「やるじゃん。でも次は当てるよ」


 もう一度『火炎弾』を打つ。

 大輔は、今度は避けることをせずに拳に力を込めた。

 そして、『火炎弾』を打ち返す。


――マジか!?


 すかさず尾花もハンマーをぶつける。

 大輔が打ち返す。尾花も負けじと返す。

 こうして『火炎弾』の打ち合いに発展する。観客も選手も、その光景に釘付けになった。

 『火炎弾』はそう簡単には壊れない。それどころか、衝撃が加わる度に大きくなり、威力も上がる。


――長い!! アイツしぶとすぎだろ!


 大輔がしびれを切らしていた。一刻も早く倒して次へいかなければ。その焦りが、次の行動を起こさせた。


「こうなったら!」


 白魔法『パワーライズ』を発動。右足に集中させ、バランスボールほどの大きさになった火炎弾を蹴った。

 威力も高まり、速度も増した攻撃。


「まだかっ!」


 負けじと跳ね返そうとする。


「っ! 重っ!!」


 しかし、今の尾花にはそれらを対処するほどの技量はなかった。

 ハンマーが耐えきれず、破壊。

 そのまま直撃。一気に体力が0になった。


「っし、やっと倒した。ちょっと休憩」


 火炎弾の打ち合いを制し、見事相手のハンマー使いを倒した大輔。ビルの陰に潜み、次の行動を考える。


――つか20分は辛い! 10分間でさえ長く感じるってのに……。


 どうやら体力の限界を迎えていたようだ。あぐらをかくようにして座る。


――少し休んでりゃ疲れもとれるし、使用不可時間リキャストタイムも減る。秀一からの連絡次第ではあるけど。


 すると、通信機が振動する。何かと思い取り出してみると、


『拳藤何があった。マップをみる限りその場から全く動いてないぞ』


――ホントに来やがった……。

「お、俺は大丈夫。疲れて休んでるだけだ」


『そうか。次の作戦を決行してもらおうと思ってたが、その様子だと厳しそうだな。少し遅らせる』


「いや、大したことじゃねぇよ。体力もまだまだあるし、二分ありゃ疲れもとれる」


『……分かった。なら次は俺の手伝いに来てくれ』


「……ハハ。やっぱ秀一が後ろで指揮するってのはしっくりこねぇな」


『なんならすぐに俺のところに来てもいいんだぞ』


「悪かったって」


 そう言うと秀一は通信を切った。


――つっても……。遠いんだよな、こっからアイツのとこまで。





――花坂がそこにいるのか。とすると、少し動かしにくいな。


 通信を切った秀一。ビル屋上から周囲を見回す。

 ステージは市街地3。ビル群が建ち並ぶ都会の一角だ。目視ではどこに誰がいるのか把握することが困難だ。そのためこのステージにのみ、味方の位置が分かる電子マップが配布されている。


――前線に出るとは言ったものの、どうしても鉢合わせを警戒してしまう。早すぎるが、本当の作戦を始めるか。


 秀一はビル屋上から飛び降りた。

 落下ダメージは10。あまり推奨されてはいないが、秀一はそれを犠牲にした。こうすることで頭の回転が早くなるのではないか。そう思ったからだ。

 彼の勘は当たった。危機的状況に陥ることで次にやるべきことが次々と浮かんだ。


――良い子は絶対真似しちゃダメだ、というべきだろうか、この場合。


 そんなことも考えていた。

 そして、地面につくと同時に、自信の足に『パワーライズ』を発動。轟音と振動を生み出した。


「何今の!?」


「西の方からか!」


 遠くでは麗奈と健心の声。相手だけでなく味方も動揺している。

 その場で作戦が立案、実行されるというチーム剣崎の方針上こうなることを、秀一は分かりきっていた。


「これですべての準備が整った、あとは奴次第だ。頼むぞ」


 そういった秀一は、にやりと笑みを浮かべていた。





――そうきたか。


 観客席でじっくり様子を見る翔陽。黒く輝くその目を忙しなく動かす。


――ということは、彼が動きだし鎌野と対峙。その間に各々が準備する。でも見たところ、今の轟音の正体にはまだ気づいていない。スピード重視の鎌野にとっては一番避けなければならないが……。


 と、ある人物に目を向ける。同チームで唯一、轟音のする方、つまり秀一のもとへ急ぐ者だ。


――……そういうことか。


 翔陽はすべてを察した。





「ようやく見つけたぞ」


 轟音の位置をすぐに割り出し、辿り着いたのは、チーム尾花の参謀円山(まるやま)(ひかる)だ。中学三年、使用武器はグローブ。


「しかし君もバカだなぁ。乱戦の中そんな音を出せば、複数は寄ってくるぜ」


「……にしては少なすぎないか? 今ここにいるのは俺とお前だけだぞ」


「そ、そのうち来るさ。でもそれより早く、お前を倒す」


「持久戦に持ち込んでもいいんだぞ。知ってるだろう、俺の弱点」


「そうしたかったけど、今ここで素早く倒せば士気が上がるからな。それはしねぇ」


――せっかくのチャンスを捨てるのか。勿体無い。

「いいぜ、かかってこい」


 そう言うと大鎌の刃先を向け、臨戦態勢をとる。

 光は初めに秀一の腹に蹴りを一発。

 上手く受け身をとり、衝撃を和らげる秀一。

 もう一度蹴りをいれようとする光だが、今度は大鎌で防がれ、反撃を喰らう。

 光は再び蹴り主体の攻撃を繰り出す。


「何だ、グローブでは殺らないのか」


「切り札は最後までとっておきたいのでね」


 そのまま蹴り主体の攻撃を続ける。

 だがスピード勝負においては秀一の方に軍配が上がっており、ことごとく防御された。

 グローブ使いだけでなくとも、蹴りはダメージが入る。だが殴るよりも出が遅いことは自明だった。

 光はそれをあえて繰り出している。秀一はそれを察知しつつ防御を続けている。今この瞬間も、互いに次の一手を模索しているのだ。


「どうしても拳をぶつける気はないようだな」


「まだ使う時じゃない、て言って欲しいな」


「こだわり、か」


「そ、こだわり。こだわりのない人なんていないでしょ」


――こだわりのない人、か。

「そうか、それならこっちにもこだわりはある」


 すると秀一は突然防御の手を緩め、蹴りを喰らう。

 受け身もとらず、ただ地に突っ伏した。


「もらった!!」


 右手に炎を纏い、振りかぶる。





「今だ拳藤!!」


「よっしゃあ! ドンピシャの右ストレートぉ!!」


 『パワーライズ』レベル3を唱えていた少年が、渾身の一撃を顔面に喰らわせた。

 間一髪腕を交差させ、攻撃を防いだ光だが、大きく吹っ飛ばされる。


「な、何故……!」


「俺の居場所が分かったのがお前だけではない、ということだ」


 そう、秀一はあえて居場所をさらすことで、大輔との合流を可能にしたのだ。


「これで作戦を立てやすくなった。勝率は70パーセント、てとこか」


「そこはせめて90パーにしとこうぜ」

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