第97話 二対一
「急げ急げ!!」
選手達はダッシュである場所を目指す。はしごを登り、入り組んだ通路を駆ける。
そう、全員何とかして高台を占拠したいのだ。そこさえ占拠できれば、すべての範囲を狙うことが可能となり、また、指揮を執ることもできる。
高台の下、ついに二チームが顔を合わせた。互いに睨みをきかせる。
「やっぱりこうなったかぁ。こりゃ素直に行かせてくれなさそう」
牽制役の侑宇里は散弾銃を構え、ゆっくりと近づく。
「ねぇ、キミも散弾銃なの? ボクと一緒じゃん」
「そうだな、でもオレの扱いのほうが上手いに決まってらぁ」
そう返すのは鹿野良太。比較的小柄な少年だ。
「お、すごい自信だね。早く見せてほしいなっ!」
撃ち込む侑宇里。すかさず前に出る。
『シールド』を張り防御する良太。こちらも引き金を引き、迎え撃つ。
この隙に侑宇里の背後からハンマー使いが忍び寄り、一撃で決めようと力を込める。
侑宇里は散弾銃を連射。正確に腹を撃ち抜く。
今度は『シールド』を張り損ねた良太。苦し紛れに唱えた『ディフェンスライズ』でダメージを抑える。
「あれ、扱いがボクより上手いんじゃなかったっけ? その様子じゃハッタリだったのかな?」
「んの野郎ぉ!」
むきになった良太も連射した。侑宇里は『シールド』も張らずに避け続けた。避けることには自信のある侑宇里。華麗に、しなやかに回避し続ける。
「それと、そんな見え見えの攻撃じゃボクは殺せないよ!」
宙返りをしつつ、真後ろにむけて連射。力を込めていた選手にダメージを与える。
が直後、彼女の左肩に何が直撃。
そして、爆発した。
吹っ飛ばされ、壁に打ち付けられる侑宇里。何が起きたのか理解できず、ただもがくことしかできなかった。
「おっしゃナイス!」
良太がガッツポーズをする。その視線はどこかに向いていた。
『油断するなよ、そこまでダメージを与えられてない』
トランシーバーから佐吉の声が聞こえる。爆発は彼の仕業だ。どこかから魔法の込めた矢を放ち、命中させたのである。
良太とハンマー使いは倒れている侑宇里のもとへ歩み寄る。
「OK。さっさと止め刺してしま……」
瞬間、彼女の懐から銀の刃が二人の首元めがけて飛びだしてきた。
かろうじて回避したものの、切り傷を負う二人。
少女はゆっくりと立ち上がり、切っ先を向ける。
「惜しかったなぁ。ここで仕留めればゆとりが持てたんたけど。この剣も見せちゃったし、しばらくはこれでいこ」
「し、散弾銃に、短剣……!?」
二人は驚愕した。見たことのあるはずの武器に、通常ではあり得ないものが仕込まれていたことに。
「んじゃ、反撃開始だね」
侑宇里が突っ込む。いつの間にか『スピードアップ』を使用していたために、すぐに相手の懐に入り込むことができた。
これに反応できなかった良太。左腰から右肩にかけての斬り上げを食らう。
侑宇里はすぐさまハンマー使いにも飛びかかる。
しかしこちらはガードされる。侑宇里は続けて攻撃を仕掛ける。
彼女は一気に二人を相手取るようだ。
――馬鹿だ、どう転んでもこっちが勝つじゃねぇか!
良太の言うとおりである。ハンマーを相手すれば散弾銃の弾丸が飛び、かといって逆を相手すれば力強い一撃が待っている。
――てか、早すぎないコイツ!?
だが、それを見事に回避するのが侑宇里である。彼女の身のこなしは群を抜いており、一方を攻撃してすぐに他方を斬りに走る。
「対応が遅れてる! 俺が何とかしないと……!」
移動していた佐吉は弓を構える。そして。
「『デトネーション』!!」
白の補助魔法を唱えた。
「爆発」を意味する白魔法には、もうひとつ『エクスプロージョン』がある。こちらは攻撃用で、相手に直接爆撃を与えるものだ。
「食らえ!!」
矢をつがえた右手を離す。矢はきれいな放物線を描いて飛んでいった。
直後、弓を持つ左手が突然何かに貫かれた。痛みに耐えきれず手を離し、しばらく悶える。
「……一体どこから!?」
――残念だな。俺様にかかれば相手の場所などすぐわかる。
チーム滝川の狙撃手、市岡恭介だ。侑宇里が二人を相手している間に、いち早く高台に登り詰めたのだ。
――死角でギリギリだったが、魔法発動の瞬間がダダ漏れのおかげで気づけた。甘いんだよ、てめぇは。さて次は、と。
トランシーバーで連絡を取り、そのまま待機する。
「……OK。後はいつも通りで。うん、うん、じゃよろしく」
残り時間13分。チームのスタート地点から、チーム滝川のリーダー冬我は戦場を眺めていた。
『いつどんな時も冷静さを保ち、戦況を見極める』。チーム剣崎の司令塔、翔陽の言葉だ。これは、相手の動きから最善の手を打つ両チームには必須となるもので、これまで先陣を切りながら指揮していた冬我がチャレンジしているものでもある。
――涼馬も下についたようだし、しばらくは様子見だな。
この試合は早い段階で決着がつく。彼の確信は現実になろうとしていた。残り時間半分にして、三蛉中をあと一歩というところまで追い詰めるという、圧倒的な戦力を見せつけていた。
「何だ、もっと戦えると思ってたけど、張り合いがないじゃん。つまんないなぁ」
侑宇里がため息をつく。短剣を使用したことで攻撃に転じた途端相手が対応できなくなったのだ。結果彼女だけで三人を倒してしまった。
『そう言わないの。あっちも頑張ってるのよ?』
「……夏季は今回活躍しなかったクセに」
『余計なお世話よっ! まぁそんなことより、さっさと終わらせまし』
ズドン!!
夏季の声を遮り、一矢がどこかに突き刺さる。
「ごめん、もう市岡が終わらせた」
同時に、ブザーが鳴り響く。試合終了だ。
『あいっかわらず早いんだから。もはや仕事人じゃない』
「そうだね。キミもこれぐらいやってくれるといいのに」
『はいはい』
結果は、七神中チーム滝川の圧勝だ。
この試合は、周囲の人々に「強豪七神中」の存在を改めて実感させた。
そしてそれは、チーム剣崎の初戦にも起こることになる。
「次は、俺達か」
「半分で全滅させるだなんて、僕達も頑張らなくちゃね」
「でもザキ君『この試合は迎撃でいく』って言ってたよ。あそこまでする必要あるのかな?」
「ヤツの言葉の意味を自分で考えるしかないだろ。副リーダーの俺ですら教えてくれなかったからな」
「まあまあ。私は大体理解できたと思うよ」
「えっ、はーちゃんもう分かるの!?」
「うん。なんとなくだけど」
談笑しているように見えるが、これらはすべて緊張をほぐすためのものだ。トーナメントである以上、負ければそこで終わり。それは皆覚悟していた。
――さぁ勝負だ。初戦は任せたぞ。
午前10時20分。チーム剣崎、鎌野秀一を主体とし、一回戦に挑む。