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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第8章〜『戦闘』公式戦〜
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第96話 開会

 午前8時。出場者を乗せたバスが生徒達の見送りを背に出発した。

 朝の試合は、珍しく引き分けのまま幕を閉じた。朝早くということもあってか両者とも上手く連携がとれず、おおよそ『戦闘』とは言えないものだった。


「翔陽なんで朝早くからやったんだよ。半分以上眠たそうだったじゃねぇか」


「ここで狂うより本番で噛み合わない方が困る。だから今朝やったんだ」


「あっそ。てか、バスで20分かぁ。結構近いとこでやるんだな?」


「拳藤知らなかったのか? 今回の会場、建て直したことで有名な国立競技場だぞ」


「うっそ!?」


 叫び声がバス中に響く。一同が二人に注目した。


「声が大きいぞ」


「あ、ああ。悪ぃ」


「頼むぜ拳藤。チーム剣崎の特攻隊長がそんなんでいいのか?」


「同じグローブなのに全く攻めようとしない涼馬に言われたくねぇよ」


「あ、言ったな!? 俺はチームでは牽制役なんだよ!」


「ねぇ勝手にボクの仕事取らないでよ!」


 言い合いが収拾のつかないところまで来てしまった。


「お前ら落ち着け!! ここで意地張ってもしょうがないだろ!」


 冬我の一喝が入った。喧騒がピタリと止む。


「翔陽も翔陽だ。チームの輪を乱す気か?」


「俺はそんなつもりで言ったわけじゃないんだが」


「私からすればそうとしか見えないんだよ」


 また騒がしくなりそうだ、付き添いの先生は肩を落とすのであった。





 午前8時33分。国立競技場に到着。サッカーや陸上など、多くの競技を行うことができる。近年では『戦闘』の舞台や会場としても利用されている。

 全国大会出場校は32。東西南北、ありとあらゆる強豪校が集まる。


「うわぁ多いなぁ」


「そりゃそうだろ? 全国規模だとこんなもんさ」


 驚嘆する健心に対し、綾乃はこれといった驚きを見せない。


「知ってるの?」


「あぁ。去年のビデオがあったからさ。見させてもらったんだよ」


 受付を済ませ、控え室に入る。


「すぐに開会式始まるから、動きやすい服に変えるように」


 そういうと付き添いの先生はどこかへ行ってしまった。


「……じゃあさっさと着替えるか」





 午前9時半。テントを前に整列する生徒達。周りを見渡せば大勢の観戦客。学校ごとに固まっており、横断幕を持つところも。中には常連もいたらしく、決まって全体を見渡せる真ん中の席に座っている。


「ねぇ夏季。知り合いとかいる?」


「いるわけないでしょ。親にも何も伝えてないんだから」


「あ、いた」


「嘘っ!?」


 夏季が辺りを見回す。当然知り合いはいない。


「……あんたねぇ!」


「うわわ、ゴメンゴメン。あれ剣崎? もしかして誰かいた?」


「ああ。親父がいた」


「ザキ君のお父さん?」


「あぁ。七神中うちの卒業生らしくて、毎年行ってるんだ」


「へぇ。あ、あの人か。始めてみるけど、結構がっしりしてるね。ザキ君の顔は母さん似なのかな?」


「わからないし、変な詮索をするな」


 翔陽の父、剣崎(けんざき)雄治(ゆうじ)。彼の体格は学生時代に出来上がっており、かつての『戦闘』では「平成の騎士団」との試合を除くと無敗だったという。


「ところで、君の母さんは?」


 侑宇里がそんな質問をすると、彼は顔を曇らせた。


「母さんは……来てないみたいだ」


「そっか」


 侑宇里は彼の表情を読み取ったのか、それ以上詮索をしなかった。


「ゴホン、それでは只今より、開会式を始めます」


 午前9時35分。多くの生徒の夢、野望が渦巻くこの競技場にて、第三十回『戦闘』公式戦が,幕を開けた。





 公式戦は、序盤から白熱したものになった。各々が持てる実力を最大限に発揮し、互角の勝負となっていたからだ。

 破裂音がこだまし、終始突風が吹き荒れる。選手達の目はその必死さを物語っている。


「こ、これが、全国レベル……」


 一回戦目を待つ冬我は唖然としていた。彼だけではない。観戦していた選手全てがそう思ったであろう。


「その全国レベルに、俺達はいるってわけだな」


 涼馬は落ち着きを取り戻した様子だ。目の前で繰り広げられる試合をその目に焼き付ける。

 彼はグローブ使いでありながら、直接殴ることを良しとしない。そのため、(ロッド)や弓矢、魔法陣などの技をもとに、自らも遠距離攻撃を主体として戦うのだ。


「行くよー二人とも。そろそろ始まるから」


 侑宇里に呼ばれ、二人はフィールドへと向かう。チーム剣崎より先に試合をする、チーム滝川。今回も相手の作戦を利用するようだ。

 公式戦では通常のルールに、次のようなルールが加わる。「試合時間は20分、勝利したチームが次の試合に進む」というものだ。

 今回のステージは「公園2」。大きめの遊具が一つだけある、横長のステージだ。高台を囲むように配置された通路には、所々に滑り台が置かれている。また遊具下は空洞となっており、潜んで奇襲をかけることもできる。

 双方配置につく。対角線を結ぶようにと指示されているため、互いに相手が見えていない。


「いいか、最初は様子見だ。ここでじっくり観察するぞ」


 そう指示するのは宮城の三蛉(さんれい)中学校所属、リーダーの大内(おおうち)佐吉(さきち)。弓矢を武器とする少年だ。


「何せ相手は『俺達の作戦を利用する』戦術を使うらしいからな。下手に動きゃ簡単に負かされる」


 メンバーも「そうだ」と頷く。


「よし、行くぞ!」


 その言葉がかけられると同時に、ブザーが鳴り響く。第一セットが始まった。

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