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平成の騎士団  作者: 青原 樹
第1章〜7人の隠された力〜
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第4話 心を読まれる恐怖

 二回戦第一試合。ステージは都会。高さ15m以上の高層ビルが並ぶステージ。それ故に曲がり角が見にくく、鉢合わせになることが多い。

 健心のハンマーは、作業用の小さいものの10倍以上の大きさがあり、とても重い。叩くと地面が揺れるほどの力がある。

 対して相手は見たことのない武器を持っていたが、そのとき翔陽は、あまり気にしなかった。


「試合開始!!」


 と同時に、健心はハンマーで地面を叩いた。相手の動きを封じる、彼なりの策だ。見事に効いている。


――よしっ、見つけ次第一気に近づいて横振り! 吹っ飛ばしてやる!


 そしてその場で相手を探す健心。


「揺れを利用して攻めていくスタイルを取る鎚本選手。これは直ぐに決まりそうだ!」


 翔陽は相手をみた。翔陽と同じくらいで、青紫色の髪と瞳をしていた。


「そうだ、相手の名前名前……鎌野(かまの)秀一(しゅういち)? 左利きか……って、1組!? 俺らと一緒のクラスじゃねぇか!」


 今度は秀一の使う武器を見た。持ち手が剣より長く、刃の部分は大きく曲がっていた。あれはまさしく『死神の鎌』だと、翔陽は直感した。

 開始から1分30秒。突然秀一が、居合い切りの構えをとったままビルの角から飛び出し、健心に突っ込んでいった。

 とにかく速かった。健心も、翔陽も、皆驚かされた。

 秀一が飛び出してから健心の腹に直撃するまでの時間、わずか0.1秒。もはや人間業ではない。


「え……速すぎだろ……」


 健心の体力は一気に0になってしまった。

 2分も立つことなく、試合終了。初陣戦どころか、公式戦でも例を見ない、史上最短の試合となった。

 秀一はその場に倒れる健心の側まで歩き、こう言った。


「ステージの地形を利用すれば良かったな。あと、開始直後の地鳴らし。あれもお前の敗因だ」


 秀一は、健心の地鳴らしで発生したP波とS波で、位置を特定したのだ。さらには特定した後の、一撃で仕留めるほど力強い攻撃。そこにいると分かってないとできないことである。

 つまり、健心の作戦を逆手にとり、勝利したのである。


「おい、速すぎだろ」


「何者なの、あの生徒」


 あちこちからそんな声が飛び交った。

 健心が、翔陽達のもとに来た。先ほどの光景を目の当たりにし、目を見開いたままだ。


「あいつに、鎌野秀一に気を付けろ。一撃で仕留められるぞ」


 健心の顔は、恐怖の色で染まっていた。それだけ恐ろしい相手なのだと、翔陽達は感じた。


 その後翔陽は、剣と未来眼(ブルーアイ)を駆使してグループ内優勝、準決勝まで勝ち進んだ。

 試合の合間に対戦表を見ると、残ったのは翔陽、鈴菜、秀一だけだった。後の皆は途中で負けてしまったのだ。皆の分まで頑張らないと、と翔陽は思った。





 翌日。2日目の今日は、準決勝と決勝戦を行う。各グループの優勝者が、ここで争う。

 第一試合。翔陽は苦戦を強いられたものの、僅差で勝利し、決勝戦へと駒を進めた。

 第二試合。鈴菜と秀一の対戦だ。果たしてどんな戦いになるのだろうか、と翔陽はワクワクしながら会場に向かった。

 会場には、麗奈たちが既に来ていた。それだけではない。『最短で試合を終わらせた人間がいる』という噂を聞いた生徒たちがたくさんおり、満員だった。


 ステージは団地。丘に作られた家々が並んでおり、高低差がある。鈴菜のような狙撃手(スナイパー)が有利だ。


「試合開始!」


 始まってすぐ、鈴菜が動き出した。先に丘に着こうというのだ。


――丘の上のあのビルさえ取れば、ステージ全てがあたしの射程距離内。勝ったも同然ね。


「おっ、あいついきなり動いたぞ。やっぱり上は取るべきなのかな?」


「そうね、私もそうするわ。でも問題は鎌野君よ。彼、まだ何か持ってるかも」


 綾乃はワクワクしていたが、麗奈は鈴菜を心配していた。

 秀一について実況はまだなにも触れていない。いったい何をしているのか、そのときはまだ、誰も分からなかった。

 鈴菜が一番高いところ、全てが見やすい場所をとった。

 早速、狙撃銃(ライフル)を構える。

 後ろはステージの端だから、後ろから攻撃されることはない。彼女は勝利を確信した。


――なんとか位置は確保できた。後は奴がどこにいるのか突き止めて……。それか、のこのこやって来たところを、首めがけて打つ!


 生徒全員が彼女の勝利を確信し始めたとき、翔陽は考えていた。


――おかしいぞ。秀一が何もしてこないなんてあり得ない。何か策があって、どこかに隠れているのかもしれない。よし、地形から考えるか。曲がり角は見通しが悪く、鉢合わせになりかねない。でも鈴菜のいる位置からだとそこも射程内だから、潜むとは考えにくい。となると、一番狙われる心配がない場所……。ま、まさか……!?


――さぁ、出てきなさい。もっとも、あたしがここにいる時点で勝つことは決定事項だけどね!


「ここにいる時点で……何だ?」


 鈴菜はハッとした。後ろに秀一がいたのだ。振り向こうとすると、秀一は鎌の刃を鈴菜の首に突きつけた。


「動くな」


 そう低い声で脅しながら。

 生徒一同、今日も驚かされた。先に来たのは鈴菜だ。だがそれよりも早く秀一がやって来たというのだ。


「何でここって分かったの? 狙撃手(スナイパー)が確保できる位置って、他にもたくさんあるはずよ」


 鈴菜が理由を尋ねる。秀一はそれに対して、こう返した。


「あぁそうだな。昨日の対戦相手には使わなかったから、これが初めてか。教えてやる。何故ここにいるのが分かったかをな」


 秀一の目が赤く光りだした。見るだけで恐怖を覚えそうな色をしている。


「『心眼(レッドアイ)』。相手の心理、思考、感情……分かりやすく言うと、『人の心が読める眼』だな。相手の思いや考えが強いほど鮮明に読むことができる。先程の場合だと、『丘の上のビルさえ取れば、ステージ全てがあたしの射程距離内』か」


――ぜ、全部読まれてる……。何なのコイツ!?


「あとお前、『勝つことは決定事項』とか思っていたな? 自信過剰にも程がある。それもお前の敗因だ。その性格を改めない限り、俺には勝てない」


 そう言ったあと、秀一は突きつけてあった鎌で鈴菜の首を思いっきり左に斬った。鈴菜の体力は一気に0になり、彼女の勝利を確信していた生徒達は、固まってしまった。

 試合終了。こうして残ったのは、翔陽と秀一。彼らが、決勝戦で戦うことになった。





 数分後、鈴菜が戻ってきた。怒りを(あらわ)にしている。


「腹立つ! 何なの、『人の心が読める』ってさぁ」


「まぁ落ち着いてよ。今は何がダメなのか考えるときで……」


「よし、決めた! この3年間でアイツを見返してやる!」


 麗奈がなだめるも、鈴菜は絶対見返すと言って聞かなかった。


「そんなことより翔陽、次決勝だろ。ここまで来たんなら、鎌野をぶっ潰してこいよ!」


「そうだな。皆の分も背負っていかねぇとな」


 大輔に励まされ、翔陽は落ち着くことができた。

 4月20日、午後3時。決勝戦開始。

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