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発露3


 アルフレートがなにかを言おうとするたびに、レリアは叫び、言葉を遮ろうとする。それを面白がって何度もレリアを叫ばせては笑う男は、実に不愉快だった。

 けれどその不快感よりも、兄も姉もこのままずっと何も教えてくれないかもしれないという不安が勝った。

 リタは一歩、ふらりとアルフレートの方に足を踏み出す。


「――リタ!!」


 レリアは血を吐くように叫び、リタの腕を掴んだ。


「……行っちゃ駄目! あいつはリタを言いくるめて利用しようとしてるだけなのよ!!」

「それはお前達がしてきたことだろう?」

「違うっ! 違う違う違う違うっ!!」

「なにが違う? 騙してきたんだろう?」

「騙してなんか、ないっ!」


 リタにとってレリアはいつも冷静で、かつて一度もこれほど取り乱した姉の姿を見たことがなかった。

 だからこそ、なおさら、思ってしまう。


 真実を言っているのは、あの男だ。

 兄様と姉様は、知っていてずっと、隠していたのだ、と――


「今まで隠していたことは、認めるわ。だけどそれはあなたのためを想ってのことだった!」

「さぁ、どうだか?」


 嘲笑う男にレリアが歯噛みしたその時――ごぷ、と水音にも似た音がした。


「…………っ!?」


 続いて、こふ、こふ、と弱々しい咳、ひゅうと風が鳴くような息遣いも。

 はっとした3人の視線が、その音源であるホルコス王に集中した。


「カムイ様!!」


 次の瞬間、歓喜に叫んだレリアが光と風と水の3精霊達を一度に召還し始める。

 

「……ちっ、まさかこの傷で生きてるとは。さすがは神に愛された一族と言われるだけあって並の生命力じゃねぇな」


 忌々しげに呻いたアルフレートは、剣を握りなおして王に向かって駆けた。


 が。

 一陣の風がリネンを巻き上げ、絡み付く。


「くっそ!」

「リタッ! 救援をかき集めてきて! 治癒魔法が使える人を、大至急!!」


 絡みついたリネンを男が悪態をつきながら切り裂く間にも、リタは弾かれたように部屋を飛び出した。

 一秒の遅れが王の命を左右する、迷っている暇などない!と、頭を無理矢理真っ白にして大声で人を呼ぶリタの声が血に塗られた寝室にも響く。


「……ふん、これは分が悪いな。王の首とかわいい妹の身柄は後日回収に来るとしようか」


 まとわりついて動きを封じようとするリネンを切り裂きながら後退を余儀なくされたアルフレートはようやく自由を得た。

 けれど少しばかりひきつってはいるが余裕の笑みを浮かべ、つららを十本程まわりに浮かべて威嚇しているレリアにそう言うなり、ひらりとテラスに向かって身を翻した。


「逃がす……ものですかっ!!」


 レリアの命令に従ったつららが彼めがけて飛翔するが、アルフレートが閉じたガラス扉によって遮られる。

 可憐な音を立てて割れ行くガラス片に向かって飛び込みテラスに出ると、アルフレートは手すりの外に身を乗り出していた。


「リタをこれまで育ててくれた礼に、ひとついいことを教えてやろうか?」


 相も変わらず皮肉めいた笑みを浮かべたアルフレートが、フックのついた縄を握り調子を確認しながら言う。


「あっちの陽動部隊の指揮官は、そのガス将軍だ」


 レリアの爪先から脳天までを一気に寒気が駆け抜け、一瞬凍り付いたように動けなかった。


「姫君は単騎で乗り込んでくるだろうと踏んで手厚い歓迎の用意をしていたが、護衛がこんなところにいてもいいのかな?」


 再度戦慄し我に返った時には、黒い人影は闇の中へと飛び込み、消えていた。



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