第1章7話
ミリアが目を覚ますと、部屋は少し暗めであった。どうやら日が落ちかけているようだ。ミリアは欠伸をすると、立ち上がって、身体を伸ばす。
ミリアが窓から外を見ると、軍人が訓練をしていた。現在、帝国が主力としている兵器は魔力兵装エレクトロンという物で、初期型は強力な電気魔法を少ない魔力で繰り出すという物だったが、Ⅱ型は強力なビーム砲を出す兵器になった。Ⅱ型は初期型よりも強力なのだが、コストが上がって、本体そのものが大きくになって、両手持ちになってしまった。(初期型は片手持ち)そのためか、Ⅱ型は精鋭が使う兵器となっている。
帝国はエレクトロンを主力としているが、軍でエース級の軍人には専用の兵器が用意されている。無論、ミリアも専用の兵器を持っている。彼女は専用の兵器を2つ所持しており、1つが指輪型魔力兵装アンゲスト。これは指輪に魔力を流し込む事で使える物である。そして、もう1つがイヤリング型魔力兵装バイブル。バイブルは多くの機能を持っており、戦闘もこなせる。
ミリアは部屋の外に出る。そして、基地を歩こうと思った時だった。背後から首にナイフを突きつけられた。
ミリアが振り向こうとすると、犯人らしき男が言う。
「振り向こうとするな。こっちの命令通りに動け。そして、抵抗しようとするな。これさえ守れば、命は無事だ。だけど、どれか一つを破った場合は殺す。いいな?」
ミリアは黙って、振り向くのを止める。そして、指示に従い、歩き始める。
男の指示通りに歩いて行くと、新型兵器の開発室についた。どうやら、ここも占拠されていた。男の部下らしき者が巨大な木の扉を開ける。
中は完全に占拠されており、研究者達が縄で拘束されている。
ミリアは中央部にある巨大なクリスタルの前に歩かされる。クリスタルの中には2mくらいの鎧と、大剣、大盾が閉じ込められている。
「この兵器の解除するにはお前の魔力が必要だ。この兵器を解除しろ。それさえ、やれば解放してやる」
ミリアは迷う。自分はこれの正体を知っている。この兵器の名は自律型広範囲殲滅魔力兵器サイレンスという名である。
サイレンスは帝国が魔人との戦争の切り札として作り上げた兵器。この兵器自体が持つ魔力は魔王にも匹敵すると言われる。さらに、自然にある無限の魔力から魔力を供給するため、魔力切れになる事は確実に無い。さらにその無限の魔力から繰り出される攻撃は一国の軍隊を一瞬で消滅させるであろう。
これを起動させるには条件が必要である。それは開発主任とミリアと最高指揮官の魔力を小型のクリスタルに流し込む事だ。これで何時でも発動出来るモードに移行する。そして、その3人だけが知る暗号を言うことで起動する。
そして、ミリアは自分の命とこの兵器を天秤にかける。今、自分が死ねばこの兵器は永遠に起動しない。だが、本当に国のピンチの時に起動出来なくなる。ここでこの男達にサイレンスを渡してもいいのか? 否。悪用だけは絶対に避けなければならない。
男の正体を知ることが出来れば……と思うが、振り向く事を禁止されている。さらに部下も仮面をして、服も特定出来ないような姿なので何の手掛かりにならない。
ミリアは最後の手段、いや唯の夢物語に限りなく近い可能性にかけることにする。それは、このサイレンスが悪用された場合、何者かが破壊する事。あの報告書に書かれた危険と記された者ならば破壊出来るかも知れない。無論、彼に全てを背負わせる訳では無い。自分が出来る最大限のサポートをした上でだ。
ミリアは小型のクリスタルを触る。魔力を流し込むとクリスタルが輝きを増す。ミリアは光を見てわかる、後1人、誰かが魔力を流し込む事で発動出来るモード、フェイズ2に移行する。
魔力を流し込むのが終わると、身体が重くなる感覚がした。立つのが限界だ。視界がだんだんボヤけて、音も歪んで聞こえる。ミリアは必死に抵抗する。必死になって立つ。ここで意識が途切れたら、いけないと思ったからだ。
ミリアは魔力感知を使う。現在、最も魔力を出している人を探す。それは間近にいた。真後ろにいるナイフを突きつけている男。ミリアはアンゲストに魔力を流し込む。ミリアの周りに風が集まる。そして、集まった風を一気に解放する。
それは風の刃であった。吹き付ける風が1つの刃となり、男達を襲う。少し反応が遅れたら最後、無数の風の刃が全身を襲う。血を吹き出し、倒れて行く。
ミリアはアンゲストを発動した一瞬であった。攻撃に気が向いて、背後にいる人物の行動に気付くのが一瞬だけ遅れた。後頭部から背中にかけて、何か重い物が勢い良く当たった。
ミリアはその場で倒れる。そして、意識と記憶はそこで完全に途切れた。
少し遅れました。第1章8話は明日の朝か昼に投稿します