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ドラゴンの餌を買いに

おっさん視点です!

俺は、研究もそこそこに城下町に来ていた。

目的は、明日のドラゴンの食事の調達だ。


空は珍しく光が射していて、穏やかな昼頃だった。

息を思い切り吸うと、冷たい空気が入ってきたらしく鼻毛が凍る。うん、鱗の力が今はそんなに強くない証拠だろう。


そう思いながら雪の積もった白い道を踏みしめて歩く。


ふと、顔を上げると、大通りに見なれない厚着の人々がちらほら居るのに気が付いた。なかなか上手く歩けないのか動きが非常にぎこちない。


外人か、と俺はそれとなくその様子を観察する。


この国に住んでいる人々は一般でも大抵防寒の為の魔動機を持っている。

一般の物は雪原を渡れるほどの出力はないが、それでも町中やその他の道中等で使うには十分過ぎるほどの性能がある。その為、町中なら薄着でも十分だ。


しかし、外国ではそもそもそう言った防寒等は必要ないので、当然ここにくる外国人はそんなものは持っていない。故に外から来た人は大体厚着でくることになるのだ。

…というか、そんな機器が必要になるほど極寒で、おおよそバカンスには泣きそうなほど向かないこの国にそう言った外来の客が見られる事自体非常に珍しい。


何故、そんな…と思えば、料理店の店先に、ささやかに旗が掛けられているのが目に入る。

“平和条約成立150周年記念祭”

おぉ、そう言えばそんな物もあったな、と納得がいく。


“平和条約”とは大魔女ユミコ…魔法研究所初代所長にして当時の王妃である彼女が決めた、戦争ダメ、ゼッタイ!というこの国の決まりだ。

なんでそんなちゃらけたフレーズを採用したのかは謎だが、大魔女ユミコはその絶大な魔法によってこの国、ニクスの生き方を変えた最大の英雄にして偉人だ。


当然、大魔女ユミコのイベントとなるとニクス国の人間はそれは盛大に盛り上がる。

その中でも一番の盛り上がりを見せるこの祭を見ようと、他国の商人等の裕福な人間が少しずつ集まっているのだろう。


そういえば、その関係で近々他国のお偉いさんを呼ぶとかでとばっちりが来たらしく、所長が疲れて机で目を開けたまま寝ていたなぁ。

美形揃いの王族には珍しく、ぎょろりとした目が特徴な不気味な顔なんだし、そう言う事されると夢にでそうだからやめて欲しい。


そう思いながら俺は魚屋の扉を引く。

カチャリと小気味よい音がした頑丈な扉の向こうに、件のぎょろりとした目が途方に暮れたように頼りなさげに揺れていた。


俺はこの扉を閉めたい衝動を抑えつつ、ため息を付きながら中に入る。


「所長、なにしてるんですか、こんな所で。」

「みぃけぇぇええぇれぇえぇえ……。」


まるで地の底を這うような声で所長は俺の名前を呼び、ふらふらと覚束無い足取りで此方に歩いてきた。

その奥で、所長に捕まっていたらしい店のおやじが苦笑いでそれを見送っている。

大方この変態所長の扱いに困っていたのだろう。


「なにしてるんだ、は、こっちの台詞、だよぉ!ギュスを、どうしたんだよぉ!」

「はぁ、今日は書庫でドラゴンの資料をまとめて下さるとの話でしたが?」


どうやら、また王子を見失ったらしい。

俺はまたため息を付きながら、窓の外を見る。先ほどより、外が明るくなっている。珍しいこともあるものだ、と関係ないことをふと思う。


「それが、居ないんだよぉ!君は、ギュスと、ドラゴンについて、調べていたのだろう?研究も、ほっといて。」

「…別に、研究をほったらかしているわけではありませんよ、所長。ドラゴンと魔法の関係性について研究しているんです。

ドラゴンの鱗を持っていると、魔法の力が強くなるようなんです。それも、ドラゴンの側で使った方が、より強力で…。もしかしたら、ドラゴンにはそう言った魔力を強くする力があるのかも知れないと思いましてね。


それで、ギュスターヴォ王子はかなりドラゴンに関する伝承に詳しいので、本人様の希望もあって、協力していただいているんです。」


俺が力説すると、所長は甥を心配する地を這うモンスターの様な顔から、一瞬、研究者の顔になる。頬に手をやり、考える素振りを見せる。


「成る程、それで、ドラゴンマニアの、ギュスに…って、そうでなくて、あの子の行方を…」


そう所長が口を開いたとき、割れんばかりの悲鳴が響いた。

何事か、と思えばドラゴンだ、と言う声が悲鳴に混じって聞こえてくる。


まさかと思う。

まさか、あの子が腹を空かせて俺のいるところまで来てしまったのでは、と。


「所長!」

「…そうだね、行って、みようか、ね?」


俺は勢いよくドアを開く。

すると、冷たい風と吹き込むと共に、逃げていく人々目に入る。

こういう中に飛び込めば、逃げる人々にたちまち流されてしまうだろう。

所長と俺はその人々が去るのを辛抱強く待った。


やがて人が途切れ、さぁ、門の方へ…


と、思ったその時、人々が逃げてきた方から呑気な声と、とても焦ったような声が聞こえる。


「ねー!そんなやがんないでよー!僕の家広いからきっと君でも住めるってば!!」

「ーーーーー!!!ーーー!!」


扉からでてそっちを見て、俺たちは唖然とした。


「あっ!!ミケーレ!おじさん!!見てみて!!この子、僕に付いてきたんだよ!これって運命だよね!?これはもう、一緒に住むべきだよね!!?」

「ーーーーー!!!!」


ギュスターヴォ王子が、ドラゴンの首を掴んで引きずっている。

ドラゴンは明らかに嫌がっていると言うのに、引きずっている。


俺は叫ばずにはいられなかった。


「ドラゴンを捕まえてきてどうするんですか!!!」

「大丈夫、ちゃんと僕がお世話するからー!!」

「そう言って、最後まで、自分で、世話をしきった、子供なんて、いません!!」

「やだーー!!一緒に住むのーー!!!」


だだをこねる王子に、俺は眩暈を覚えた。

見上げた空はすっかり晴れていて、ドラゴンの側にいるせいか暖かい。


ふと、ドラゴンを見ると、助けを求めるように此方を涙目で見ている。

あぁ、なんか、ごめんよ。

俺はドラゴンに心の中で謝った。

所長は男性です。猫背の男性です。

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