変態ちゃんと、私。
ドラゴン好き乙女の視点です!
この世界に来て、数日がたった。私はオリオン座を探しながら珍しく晴れた真っ暗な空を見上げていた。
確かに私は異世界ファンタジーが好きだけれど、そのファンタジー達というのは得てして幾つかのパターンと、種類があって、魔法の法則も違ってくる。
今の私はドラゴンで、そう言った人間の所行には余り関係ない位置には居るけれど、せっかく、魔法ある世界なんだし、知りたいと思う。
でも、やっぱりドラゴンになったのは便利だけど、不便だ。
こうして無条件でほかの生物に一目おかれる存在になったのは便利だけれど、
でも、人里に迂闊に下りていけないのは不便だった。
そう、知っている星座のない星空を見ながら、私はしょうもない、と目を閉じた。
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その夜、私が見た夢は子犬を飼う夢だった。
可愛い可愛い、子犬達だった。
抱きしめて、これ以上無いくらい、暖かい気持ちになった。
目が覚めたときに、少し、がっかりした。
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私が火で溶かして作ったため池でのどを潤していると、元気な声が聞こえた。
「ーーー!」
笑顔で走り寄ってくるのはあの日フルメイルだったかわいこちゃんだ。
彼女は私に走り寄り、頬擦りをしてくる。
それだけならならかわいいのだけれど、鱗を一枚一枚撫でながら恍惚とした顔をするのはやめて欲しい。
せっかく、外人顔で若干アジア臭がする可愛い顔なのに、そんな表情をされたら引いてしまう。
それにしても、今日はこの子なのか。
おっさんがフルメイルとかわいこちゃんをつれてきたその日から、おっさんか、このかわいこちゃんのどちらかがいつもご飯を持ってきてくれるようになった。
おかげでこの方一週間、狩りという狩りをしたことがない。
正直、田舎でやや無作法に育てられた私でも、狩りなんてしたこともないし、この巨体では隠れながら接近、なんていうのも難しそうな私にはありがたかった。
大体、魚は捌けるけど、牛とか羊とかを捌け、なんて言われたら後込みしてしまう。その上可愛いウサギや恐ろしい鹿なんかをバリバリ食べろとか言われたらホントに申し訳ないけど、吐いてしまいそう。
動物愛好家としては非常に頂けないし、いくら田舎育ちで若干野性的な私でも、そんなサバイバルな事なんてしたことがない。
田舎にだって、スーパーも、コンビニも、あるんだよ。
そう薄く感謝しながら彼女を見れば、また恍惚とした顔をしていた。
だから、可愛い顔してそう言うことしないでよ…。
そういえば、何だか彼女に私はデジャビュを感て居たりする。
私はこんなドラゴンに頬をすり寄せて悦ってる様な変人を何処で見て?いや、仲間は皆ドラゴンが可愛いと私がどんなに主張しても首を縦に振ってはくれなかったし…。
………。
わたしだーーーーー!!!!!
そうだ私なら確かに突撃してすりすりもするね!!食われそうだけど!!
若干悦ったりもするだろうね!!食われそうだけど!!
そうか、この感じ、デジャビュならぬ親近感だったか…。
かわいこちゃん、君もなかなか変態ですなぁ…。
私の中でかわいこちゃんが、ドラゴン好き変態少女(略して変態ちゃん)にジョブチェンジした瞬間だった。
そうこう考えている内に変態ちゃんは後ろに会った麻袋をおもむろに持ち上げた。
顔の高さから麻袋をひっくり返すと、キャベツ1個と、鮭が5匹が雪の上に滑り出る。
いつも思うけど変態ちゃん、君は何処にそんな物を軽々持ち上げる力があるんだい?
…この世界では女の子も随分力持ちみたい。
そうは思いながらも、頭を下げてキャベツをもりもりする。
待ってましたと言わんばかりに変態ちゃんは頭を撫でてくる。
もしかしなくても、君はドラゴンとスキンシップしたいがためにご飯運びなんかしてるのかい?
ゆっくりもりもりしながら、考える。
一昨日、近くを飛んでみたが、この辺は氷や雪に覆われた岩場と、雪ばかりの大雪原しかないらしい。
しかし、この大雪原は障害物がほとんど無く、晴れてさえいれば遠くまでよく見える。
その遠くにはお城と、城下町のらしき建物群があったのが見えたけれど、町が大混乱に陥りそうなので、まだ足を運んではいない。
ちなみにこの岩場にはモンスターが居るのも確認済みだ。
幸い、この鎌倉近くにはいないけど少し歩くと二足歩行の犬に出会った。
会話が出来ないか試みようとする間もなく、神速で逃げていってしまったから彼の生態はよくわからず仕舞いだ。
あと、なんかでっかい角付き熊も見つけた。
おぉ、グリズリーって奴か!?それともベルセルク!!?と私がゲームにいそうなその存在に感動していると、こちらを見やるなり高速で逃げていった。
…厳ついモンスターにコンマ0.2秒で逃げられるとか、この世界のドラゴンってどんな存在なんだ、おい。
それ以来、なんか驚かせても悪い気がするので鎌倉でぐうたらしてるのだけれど、そろそろ運動しないとさすがのドラゴンでも太るかも、とちょっと怖い。
ベビードラゴンならぬ、ヘビードラゴン。別名メタボドラゴ。
でっぷりとした体でよちよち歩いて、小さな翼でふらふら飛んでは敵をプレスするドラゴン。
そんな、色んなモンスターをおせんべにするドラゴンのイメージが私の頭をかすめる。
見てるだけなら良いけど、自分がああなるのはイヤかも…。
すべての食料を腹に納めてから、ふん、と鼻息を飛ばして意気込む。
よし、運動するか!
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、変態ちゃんは私の鼻を撫でてくる。
何となく心地よいそれに、私は手に鼻をすり付けて、ついでに顔に顔をすり寄せた。
…私、段々ドラゴンとしての行動が増えてる気がする。
そう少し思うものの、当の変態ちゃんはきゃっきゃと嬉しそうにしているので、とりあえず良いことにした。
ふと、何かに気づいたように変態ちゃんは胸ポケットから何か丸いものを取り出してそれを覗くと、悲しそうに顔をゆがませる。
それから私の首に腕を回すとぽんぽんと叩く。
これは彼女なりの別れの挨拶だ。
余りに切なそうにしてるので、私はふと、一緒に行っちゃだめかな、と思う。
…人里には入らずとも、その近くまで見送りするくらいなら…。
きっと、この子の両親だって私のことを知っていて送り出しているのだろうし、きっと少しぐらい近づいても大丈夫。
そう思って、私はゆっくりと空の麻袋を振り回しながら走っていく彼女を追いかける。
私の足音に、驚いた顔で彼女は一瞬振り返るも、嫌な顔はせず、寧ろ笑ってくれた。
いつか見たスノーモービルに跨がって、彼女はまた手を振った。
きっとバイバイだと思ったけれど、私は、翼を広げた。
次もドラ乙の予定でしたが、諸事情により次回はおっさん視点です。