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カシマール雪原にて

おっさん視点です!

鼻歌を歌いながら、俺は魔動ソリを走らせる。

小型保温結界の調子もいい。魔動発熱機は既に暖かくなっている。

何も持たずに立ち入ればたちまち凍死してしまうカシマール雪原も、今となってはそう苦労せずにいつでも渡れるようになった。


コンパスを今一度確認して、俺は走り出す。

目指すは王都にある自分の家…と言う名の、魔法研究所。


ぐぐぐ、と雪を滑る音が聞こえる。


カシマール雪原は真っ白で、雪のある内は生き物なんて一匹も居やがらない。

木々ですら、雪の重さに耐えられないのかここには一切生えていない。

つまり、ここには目印、と言う物がなくコンパスがなければあっという間に遭難してしまうだろう。


短い春になればまた勝手は違うのだが…。まぁ、今はそんな事考える事はなかった

な。

ともかく、俺はカシマール雪原を深夜に走っていた。


まぁ、理由はなんてことない、里帰りだ。

なんか妹に帰らないでと泣きつかれ、何だかんだで遅くなってしまったのだ。

あの子もいい加減いい年なのだし、もう少しおしとやかにして、嫁のもらい手の一つでも探せばいいのに。


そうは思うが、かく言う俺も嫁さんがそろそろほしい。

が、魔法研究所にいては出会いは余りに少ない。


別に、研究所はむさい男ばっかりなわけでもない。

…寧ろ男女比は4:6と若干男性が多いだけなのだが…。


その研究者と言うのは皆変わっていて、性別以前に、性格に問題が多い奴らの集まりなのだ。

得てして、何故か若干変態の方が魔法が強いせいでもある。


俺はわりかし、まともな方だと思う。

変態の集団の中に居るのだから、少しは変態かも知れないが。


だいたい、あいつ等は…。


そう思って眉間に皺を寄せた瞬間、轟音と共に、辺りが一瞬明るくなる。

俺は驚いたのと、地響きに足を取られて転倒してしまう。


このカシマール雪原、実は魔力が生まれる場所の一つであり、そう言った場所は不思議な力が働いている。

ここの不思議なことはいくら雪が積もっても、重力でつぶれたりせず、足を踏み入れると驚くほど沈む。

その効果は、ここの場所を死の雪原へと変えた。


そう、ここ、一端落ちるとなかなか抜けれないのだ。


「~~~~!!!」


何かを叫んでいるようにも見えるそれは、首まで雪に埋まった、巨大トカゲだった。

いや、トカゲ?トカゲにしては、随分な魔力だ。

あれが言葉のように叫んでいるのを見ると、リザードマンの類なのか?

それにしちゃ、デカいな!

リザードマンは賢く、言わばトカゲ人間だがその分人間サイズしかないはずだ。

それに、先ほどの光…まさか、あれが、何かをしたのか?

え、何、アレ、全力でヤバい系統じゃないか?アレ。


俺は急いでソリに乗ろうとした。しかし、もがけばもがくほど雪に飲まれていく。

このままじゃ、マズい!

本能的に、トカゲを見ながらそう思っていた、その時。


彼方も雪に埋まってしまい、もがいている様子だった。

しかし、ふ、とした瞬間、それは翼を広げた。


コウモリのような、青と青紫の頑丈そうな鱗と、しなやかなに皮膜に覆われたそれは、あっという間に地吹雪を起こした。

ごう、と大きな風の音が鳴り、一面に雪をまき散らしていく。


ゆっくりと宙に舞い上がったそれは、その全容を表す。


それは、藍色のドラゴンだった。

大きく、恐ろしげで厳つい、それでいて、どこかきれいな色をしたドラゴンだった。

一色ではなく、微妙なグラデーションがかかっていて恐ろしい外見と相まってなんだか完成された芸術品の様な印象を受けた。…ただし、恐怖を表した芸術品だが。


そのドラゴンの深い青の目がしっかりと俺を捉えていた。

俺はあ、終わった、と思った。

相手は空を飛び、自由に動けるのに対しこっちは全く動けない。


ドラゴンというのはとても恐ろしい存在だ。

どんな強敵のモンスターだって、ドラゴンには決して勝てない。


それに狙われている、と言うことは、つまり、死を意味する。


ばさり、とその大きな陰がこちらに向かってくる。

羽ばたきの風圧で柔らかい雪が吹き飛び、その絶対的な存在に体がふるえた。

死にたくない…!!

俺はもがくが、無情にもその大きな前足はこちらに伸ばされて…



俺は固く目をつぶり、これから来るであろう激痛に身を震わせた。

…後から考えてみると、29歳にもなって涙ぐみながら体を縮めるその姿はさぞ滑稽だったことと思う。

俺の予想を遙か凌ぐ出来事だった。


俺の体が浮きいよいよ食われるのか、と思えばす、と何かに下ろされる。

ゆっくりとその手が放れたのを感じ、俺は恐る恐る目を開く。


そのドラゴンは近くに浮遊したまま、何かを言った。

「ーーーーーー。」

それは聞き取れない不思議な声で、何かの言語の様な気がした。

その鱗に覆われた顔は、よく見ると表情がありありと浮かんでいて、とても申し訳なさそうにしている。


俺の知っているドラゴンは、こんなだっただろうか?

こんなに、表情豊かで知性が感じられる存在だったか?

それに、ドラゴンとは、よくわからない言語だったとしても言葉を話すような生き物なのか?


少し落ち着いた俺を見て、ドラゴンは安心したのか手を伸ばしてくる。

一瞬、その意味をはかりかねたが俺が恐る恐る手に触れると、ほほえましそうに笑った気がした。


その手はほんのりと暖かく、大きな鱗は堅さの中にもしなやかさを含んでいて、その存在が生きているのを感じた。


俺は、目の前の絶対的な存在に魅入られていくのを感じた。

先ほどまで恐ろしく感じていたその姿もどこか神々しく、美しくさえ感じていた。


どれくらいそうしていただろう、ふと、ドラゴンが小首をかしげながら手を引いた。

なんだ?と思って疑問に思うと、途端に凍えるような風が俺の肌を刺した。

俺が焦って保温結界と発熱機を確認すると、転倒した際に壊れたのだろう、既に機能を停止した魔動機が目に入った。

やばい、これは国からの支給品でもあるから怒られる…じゃない、そもそも帰れない!

カシマール雪原は、保温結界と発熱機がなければたちまち凍死してしまう。

…どんなにこのドラゴンが見逃してくれたとしても、俺はきっとこの雪原を越えられない。

これがあと30分で王都につくならまだしも、ここは、走っていた時間を考慮すると、このだだっ広い雪原の三分の二を越えたか越えないかの地点のはずだ。後まだ、2時間はこの冷気に晒される事になる。


俺は愕然とした。やっと、こんなにも素晴らしい存在に出会えたのに、このまま俺はこの存在を誰にも伝えられないままこの雪原に埋もれるのだ。

それに遺した家族が、稼ぎ頭の俺を失ってどうやって生きるのか…。

酷く俺は悔しい思いに駆られる。

こうなっては保温結界と発熱機の存在にかまけて軽装で出てきてしまったのが悔やまれる。


そう、思って俺はドラゴンを見つめる。

ドラゴンは何かを迷っているような素振りを見せて、おもむろに自分の手から一枚の鱗をはぎ取り、その鱗を俺に差し出してきた。


俺は不思議に思いながらもその鱗を受け取ると、たちまち暖かい空気が俺を包んだ。この鱗、周りの空気を暖める力があるらしい。


そうか、だからドラゴンが離れるまで俺は故障に気がつかなかったのか。

転げ落ちたときは必死でそれどころではなかった、と言うのもあるのだろうが…。


あぁ、このドラゴン、俺を転ばせてしまったことを少なからず申し訳ないと思ってくれているのか。

だから、ソリを起こし、装置の代わりにこの鱗を…。

なんと心優しいドラゴンだろう。普通だったら既に食っているだろうに…。


俺が驚きと喜びを感じてドラゴンを見つめると、ドラゴンは満足そうに王都とは別の方向に飛び去っていく。

あれは、北の方角か…ごつごつとした岩と氷に囲まれた一体がカシマール雪原の北にはあるのを思い出す。

確かにあそこなら身を隠す場所もきっとある。凶暴なモンスターもいるが、その分人の出入りもほとんどない。

…成る程、ひっそりとあの岩壁で隠れて暮らして居たのだろう、余りに温和しいせいで、我々、王都の人間も気付かなかったのは無理もない。温和しいとは言えドラゴンなのだから、凶暴なモンスター達も脅えて手が出せないのだろうし、あそこはドラゴンが隠れ住むのに適しているように思えた。


…とにかく、俺も王都に帰ろう。

暖かいドラゴンの鱗を抱き抱えながら、俺は魔動ソリを走らせた。


不思議と魔動ソリのスピードもいつもより早く、予定よりも30分早く王都に帰ることが出来た。


真夜中を過ぎた城下町は、一部を除いて静かだったが、魔法研究所には明かりが灯っている。

こいつらは私も含め不規則な生活を送っている。

別に、休みを貰うときは申請をすれば大体通るし、いつ寝て起きてもいい。

そんな緩い規則でどうして研究所が成り立つのかと言えば、単純にここの研究員は暇さえあれば研究をしているような変人ばかりだからだ。

ともすれば2徹も我々にしてみると普通だったりする。


そんなこんなで余裕で起きていた本日3徹目の同僚には私用で出掛けて、装置が壊した事をどやされたが、ドラゴンの青く、美しい鱗を自慢してやると、驚いていた。


他にも、実家からのみやげの品を渡しつつ、軽く話をしたが、彼も眠気の限界だったらしい、お互いに一度休むことにした。

軽口を叩きつつ、個別に用意された仮眠室に向かいドアの前で別れると、俺は部屋に入る。


しかし…どうするべきか…散々その仲のよい同僚にあのドラゴンとの事を自慢してしまったが、上の人間にドラゴンの話をしてしまうと、マズい気がする。

装置が壊れた以上、報告しないわけにはいかないが、報告すればあのドラゴンが危ないのでは?

もしかすると、危険視されて討伐命令が出てしまうかも知れない。


…ここは少し卑怯だが、しばらくはこの鱗を装置の代わりにして、上の人間には黙っておこう…。


そう思って、俺は自分に割り当てられた研究所の仮眠室のベッドに潜り込んだ。

明日、あいつに口止めしとかなきゃなぁ…。


そう思いながら、俺はぐっすりと眠った。

おっさんは案外ドラゴンを気に入っていたようです。

もう一つ、おっさん視点で続きます。

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