部屋の外に外に出たい。
ドラ乙が頑張ります。
高橋さんは私に自分がチワ様であることを白状したあと、私に変身する魔法を教えてくれた。
ここで気になるのは私に魔法が扱えるのか、ということなのだけれど、道産子には大きな魔力が宿っているらしい(流石試される大地なだけはあるな)ので、大丈夫、との事。
そこで彼曰く、時間が来てしまったので、今日のところはお開きになり、彼は壁の隠し扉から出ていってしまった。
それから程なくして、私はドラゴンの姿で部屋で仁王立ちをしていた。
「チェンジ、とな。まんまじゃんね。」
私は教えてもらった魔法に思わずつぶやく。
それらの魔法は、彼、高橋さんが妖精に願った力であるらしく、言霊を使ってイメージを具現化させるとかそんな中二病的な事を言っていた。
…要するに、この世界における魔法とは4大何チャラがどうのこうのと言うより、イメージしたものを魔力を使って現実化する、と言った、いかにもゲームには向かない系統の物らしい。
つまり、変身したもののイメージを持ってチェンジ、と唱えるとそれに変身出来る、と言う事らしい。
まぁ、一回使ってドラゴンに戻っては見たけれど、何となく現実感が無いせいか自覚が出来ない。
地に足がつかない、とはこのことか…っ!
と、的はずれな事(しかも多分意味違う)を小さくつぶやきながら、私は目を瞑りながらもう一度人間の時の自分を思い浮かべながら口を開いた。
「チェンジ」
目を開いた時には、もう視界が低くなっていた。
全然身体が変わる感覚、っていうのが無くて、いつ変わったんだかさっぱりだ。
この調子では魔法なんて使える気がしない。
というか、こんな簡単で良いのか魔法。
誰でも息をするように使えちゃう世界なんだろうか、この世界。
「…まぁ良いや。」
とりあえずはこれだけ使えればいいかな、とも思う。
下手に大きな力を使って、人間であることがバレてしまうとこれ以上動きにくくなってしまう。
と、いけない。時間は無限ではない。
「まずは近場でも良いから探索を初めないとねぇ。」
夜の間のほうがきっと動き安かろう。
そう思って、隠し扉に手を掛ける。
正面玄関?の方は碓か兵士さんが居たはずだ。
それらに見つからないように行くには、多分こっちの道が正解だと思う。
なにせ、高橋さんが人間の姿でここに入っていったくらいだ。人目が少ないのは明らかだろう。
万が一、変態さんとばったり、なんてこともあるかもしれないけれど、そんなことを考えていたら先には進めないわけで。
「男は度胸で女は愛嬌、坊主はお経。
ドラゴンだって度胸度胸!!」
私は言っちゃァ悪いが頭が悪い。
そんなに考えてばっかでも何もわからないのだ。
そう思いつつ、ぐ、と力を入れる。が。
「んん?」
動かない。
もっと力を入れてみる。
「んんん?!」
が、ピクリともしない!
あれ、見た感じでは皆かるーく開けてたけど、これ、案外重いんだ!?
「...いや、まて、これ、引くのか?」
そう言えば変態さんはいつもこちらにドアを押して入ってくる。
もしかしなくても、引き戸?
いや、碓かさっきチワ様は押して入って行ったような?
...両側から押して入るとか、どんな構造してんだ、このドア。
しかし、こんな所で頓挫している場合ではない。
夜のうちに探索してしまわないと、おっさん達が来てしまう。
変態さんは今日は見ていない。
この時間帯に来ていないと言うことは、今日はこない。多分。きっと。
私は少し下がって、扉から距離を取る。
「ふおおおお!!!!」
バチン!と言う音とともに私は扉にぶつかった。
ご、と言う音と共に、扉はちょびっとだけ開いた。
「...。すっげー重いのな!この扉!!!」
魔法使いの高橋さんはともかく、変態さん、ほんとに力強いのな....。
思わず悪態ついちゃったじゃないか。
「あの細っこい身体でなんて馬鹿力なんだあの子...。」
そーいや私のこと、ドラゴンで引っ張ってこれるんだったな、あの子...変なところで伏線回収せんでいいわ、アホか。
しかし、これでなんとなく分かった。
「こりゃ、他の人には使えんわ...重すぎ...。」
私にはこの扉を使うのは無理だ。
早速挫折か、弱いなー、私...。
私は夜の闇の中、頼りないランプの光に揺られなから途方に暮れるのだった。
ーーーーーーーーー
どうにかこの部屋からは出られないものか。
私はどっかりと床に胡座をかいて腕を組む。
あの扉は駄目だ。重過ぎて私には動かせ...。
「いや、なんで人間の姿で開けなきゃなんないの。ドラゴンでやればいいじゃん。」
私はそう思い直してチェンジをした。
視界が高くなり、人間の時にはない背中の翼で伸びをする。
「あてっ」
そして、ベッドの天蓋の端にちょこっとぶつけた。痛い。
でも、いくら私がインドア派オタク女子とはいえ、これだけ身体が大きければきっと開けられるはず。
「よしっ」
私は再び隠し扉に手をかけた。
すると、扉は難なく押し開く。
「おお!」
私は喜び勇んで人間に変身してその扉に扉飛び込んだ。
中は薄暗く、何かが光っていて、そして...
「アツゥイ!!」
物凄く暑かった。
私はたまらずこの扉の奥から転がり出た。
なになに!?なんでここ、何があったの!?
そちらを見ると、ゆらゆらと空気が揺れている。
青白く光っている...なんだあれ。ガラス管?
そこはかとなく湯気が上がっているあたり、あの辺はひどく熱いんだと思う。
なんであんなことになってるの!?!!
成程、とまた別の意味で感心する。
あの隠し扉、もとい隠し通路が隠したり得たのはこの熱のせいか...!
「おのれセコム...!!」
なんだか間違っているような気もしたけれど、きっと突っ込む人もいないので、いい事にしよう(提案)
ーーーーーーーー
「で、どうしよう。」
あの後四苦八苦しながら扉を閉めた。
重い扉にあっつい空気により、私が使うには非現実的であると判断したのだ。
ありゃ無理だわ。セコムしてますわ。
私は結局先程と同じように胡座をかいて床に座っていた。
もはや疲れきって若干眠い。しかし、ここで寝てしまえば、次いつチャンスが来るかわからない。
(何せ昼間はおっさんとチワ様、夜間は変態さんと言うこの鉄壁の見張り。ゲームよろしくもうちょっとザル警備てもいいのよ...?)
しかし、正面は兵士、裏ルートは熱風。この鉄壁の守りにどうしたら対抗できるだろう。
ふぁ、と我慢できずにあくびが漏れる。
しかし、その音すら響きそうなほどこの部屋は静かだ。
静かにランプの火が爆ぜる音と、かすかに聞こえる風の音。外は当然吹雪だ。
......吹雪だ。
「そうだ」
もし、チェンジが高橋さんがチワワになるのに使っているのなら、もしかしたら...出来るかも?
私は目を閉じてイメージする。
人間に翼が生えてるのはちょっと目立ちそうだ。
ならば、
小さな、窓をくぐれそうな大きさのドラゴン。
大型犬くらいでもドラゴンなら、この吹雪でも風に煽られたりしないだろうか。
目を開けると、視界はもっと低かった。
背中を意識すると、人間にはない器官がある。
「成功...したっぽい?」
鏡が無いのでよく分わからないけれど、多分できてると思う。
私は羽で飛び、窓のところに行く。
外は見るからにごうごうと吹雪いていて、寒そうだった。
でも、ドラゴンの体には寒さは関係なんてない。
暑さは駄目だがな!!(さっき散々熱い思いをした。)
だって、この体は雪に埋まっても全然寒くないんだからね!
そう思って、私は窓を開いた。
「おっ、何ともない。」
やっぱり、私は寒さには強いらしい。さっすが灯油代けちって寒い中暮らしているだけはあるね!
なんだか虚しくなったのでそのまま出ることにした。
ごうごうという風も、ぺちぺち当たってくる雪も何のその。ドラゴンって良いね、と思わず拳を握ってしまった。
少し城の上空に飛んでみる。
激しい吹雪で全容は拝めないが、見る限り黒い。そしてとげとげしい。
「しっかし、見れば見る程魔王城っぽいなぁ。」
「それはそうであろう。如何にも魔王城であるからな。」「へぁ!?」
私は独り言のつもりだったのだけれど、それに返事が返ってびっくりして思わずバランスを崩した。
あら、と思って体制を立て直そうとする前に、私の体はその巨大な手に収まる。
何事。
そう思って私は上を見上げた。
「わぁお。」
そこには青く光を帯びた氷を纏う、透明の角をした青白いドラゴンがいた。
と言うか、私は青白いドラゴンの腕の中にいた。
と言うか、
「お綺麗ですね、おねぇさん。」
「ほう、嬉しい事を言ってくれる。いかにも、私は女性である。近年私を男と間違える不届きものが多いでな...。」
「あぁ、わかります。ちょっと髪が短くて眼鏡かけてるとのび○とか言ってくるんですよね。いくら気にしてないとはいえ、毎回言われると騒々しいですよね。」
「のび○とは何のことかわからぬが、言いたい事はわかるぞ、幼子よ。そう、奴ら私が気にせぬ様子であるからと言って、厳ついだの刺々しいだのと...言わぬだけで気にしておるのに...。」
「わかりますが、おねぇさん、私は23歳です。」
彼女はその鋭く小さな目を細めて小首を傾げた。色っぽい。
「やはり赤子ではないか。」
「......。」
私は何も言うことが出来なくなった。
そりゃそうだ。ドラゴンと言えば悠久を生きる伝説の生き物。
23歳なんて赤ん坊もいいとこだ。
お姉さんの腕の中、風は遮られ、このウロコで雪も冷たくない筈なのだけれど、この時ばかりは風が冷たく感じた。




