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いつの間に魔法がかけられたの?

ドラ乙でし。

初めての散歩が終わった。

私はチワ様とおっさんと共に城に帰って来たのだけれど、その後の変態ちゃんの包容が凄かった。

腹に食い込んでちょっと痛かった。力強いのね、変態ちゃん!


その後なんか変態ちゃんとおっさん達は難しい顔で話をしていたけれど、私には何のこっちゃなので休むことにした。


私がベッドに向かっても、彼らには何の問題もなかったらしく、自由にさせてくれた。

ベッドはあい変わらずふわふわで、程よく眠気を誘った。


......え、風呂入ってない?良いって。明日辺りリネン変えてくれる筈だし。

...ごめん、チワ様とE・コッカーのおねぇさん。でも、今日は久々に飛んだせいか、スッゴい疲れたの...。


私は心のなかだけで彼女に謝ると、目をつぶる。


眠る前、ふと思った。


あそこは、あまり楽しい世界ではなかったけれど、やることがある。

だから、帰らなきゃ。元の世界に。


私はなんとなしにそう思いながら、布団に顔を擦り寄せた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

夢を見た。

誰かに追いかけられている夢。

怖くて、逃げて逃げて、でも、足が重くて。


隠れて、うずくまったら、肩を叩かれた。

悲鳴をあげて飛び起きたら、夜だった。

まだ少し、眠かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよーございまーす...。」

しかし、辺りはまだ暗い。明らかに夜だ。


私は中途半端な時に起きた時独特の頭の重さを感じながら、何となく上を見つめた。


自分の家と違って、布団がでかい。天蓋が遠い。いや、そもそも天盖なんて私の家にはないけど。


ぼーっとしている私は、もう一度微睡もうと寝返りを打つと、うつ伏せになってうごうごと体をわずかに動かした。ひたすらに眠い。

しかし、少し、動きにくい。


その原因を探ると、なんと私はロングコートを着ていた。


…えー、私コート着たまま寝ちゃったのかー。ごわごわしてるし。寝心地良くないし。


そう思って私はコートを脱ぐために体を起こした。


コートを脱ぎ捨てると、何となく頭をばりばりかいた。


あーヤバい、この感じだと髪、ぐっちゃになってそう。

やだなー、シャワー浴びないと...。


手の甲で、目を擦るとぐり、とメガネの感触。あら、メガネもしたまんま?どんだけ疲れてたの。


そこまで考えて、私は違和感を覚える。


………?なんかおかしい。



あれ、私、人間?



…人間だぁ!!


私は一気に目を覚ます。ベッドの上に立とうとすると、ふかふかすぎて上手く立てない。

ぐらぐらとベッドに足を取られながら、私はやっとこさ地面に足が着くと既に若干つかれていた。

…このベッド、こんなに大きかったんだ…。

まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。今の装備を確認する。


服は花のワンポイントのついた灰色の服。それからいつものふんわりした青系のロングスカートに…わぁ、レギンスに靴だ。靴はいてるよ。申し訳ない。

…あの時、キャトられた後の服装だった…はず。此処だと暑い。


私は取りあえず靴を脱いだ。ついでに暑いからレギンスも。

…家の中はやっぱり素足に限る。

素足っていいよね、うん(?)


ともかくだ、なにはともあれ人間には戻ったわけか。

...いや、戻ってもどうすんの私。何すんの私


取り合えず情報収集、と私は部屋を散策しようとしたけれど、タンスや小物入れっぽいのは撤去さているため、どこぞのRPGの様に調べるタンスもなかった。


「うーん、良いタンスだ!すらできないとは。これいかに。」

しかし、調べて薬草とかが入っていても、私にはどうすることもできなくて困るだけだろうけれど。


それでもなにか出来ることは...と見回すと、ふと壁のことを思い出す。


私はあの壁に駆け寄る。変態ちゃんが出てきた壁だ。


そこを本当によーくみると、切れ目が見える。

言われなければ気づかないような切れ間だけれど、軽く押すと少し動く。こうしてみると、やっぱ隠し扉なんだなぁ。


私はそんな外人さんが見たら“ワーォ!ジャパニーズニンジャー!”と喜ばれそうなそれを見つめてふと思う。


…そう言えば、今の状態って見られたらヤバくない?だってドラゴンがいなくて、代わりに私がいるって、確実に問題だよね。

下手すればドラゴンに化けて王家に近づいた、なんて事になったら私の首がリアルでバイバイする事になるわけだが。


…わー。生命の危機だねー。

実感は全くないが、状況は結構良くない。困った。


ここを逃げ出した方がいいかなぁ。

でも、此処にいるのも安全な訳じゃないしなぁ。何せ、変態ちゃんの夜の出現率がマジ高すぎる。何か、此処最近結構な確率で出現している。

君は一体どんだけドラゴンが好きなのって言う。

いや、私も好きだけど、ドラゴン。かっこいいよね、ドラゴン。


…いや、そうじゃない。とにかく今はこの隠し扉をあかなくしなければ、いつ野生の変態ちゃんが飛び出してくるかわからない。


そう思って私はこの部屋ではベッド以外の唯一の家具であるテーブルを壁に寄せることにした。

ドラゴンの時と違ってダイレクトに重いそれを動かすのはなかなか大変だったけれど、その分信頼が置けそうだった。


ぐりぐりとそれを引きずり、若干絨毯が毛羽だったような気もするけれども、なんとかそれは壁に押し付けられた。

みた感じは此方からは引き戸になっているので、こうしておくだけで大分抑制にはなる...はず。

取りあえず、コレで良いか、な?


…このまま人間だったらどうしよう?いや、ドラゴンになれないなら、さっさと逃げた方が良いかもしれない。

逃げられそうか、様子見に物音を聞いてみよう…と思ってこっそり出入口のドアに駆け寄ると、ごん、という音が後ろの方から聞こえてきた。


思わぬ方向からの音にびっくりして、思わず声を上げて体を跳ね上げた。

私は、何事かと思ってその物音の方向を見てさぁ、と血が下がるのを感じた。


あそこの壁だっ!!確実に、変態ちゃんだぁぁっ!!


で、ですよね!部屋隣だもんね!


ヤ バ い 。


私はパニックを起こして、たまらず外に転がり出た。

(…愚策だ。確実に兵士が居るはずだったのに)

しかし、そこに居る、見張りのはずの兵士達は事もあろうにぐっすりと眠っている。

コレ幸いと、私は走り出す。自分で言うのも何だけれど、足は早い方だ。


命が掛かればなおさら、だ。


私はとにかくがむしゃらに走った。

ランプに火の灯る廊下を曲がり、階段をかけ下り、また廊下を走って、滑って、バランスを取り直して、また走って。


どこをどう走ったのだろう?ここはどこだろう?出口はどっち?なんで私はこんなことになっているの?


そういえば、どうして走っているの?


走って、息が切れて、しゃがみ込んだ。

月明かりはほとんどなく、怖いほどに薄暗い。泣きそうだ。


「ヤバい、なぁ、」


そうは言うもののどうしようと思えば思うほどに答えは出なくて。

でも、立ち止まっていたら、捕まってしまうんじゃないかって思うとおちおちゆっくりもしていられなくて。


(頭じゃ、立ち止まってても、走ってても同じなのはわかってた。

何より命が惜しければあの部屋に止まり、トイレ辺りにでも隠れば良かったんだ。それが一番の安全策だった。

でも、怖くて、走り出さずにはいられなかった。)


また走らなければいけない気がして立ち上がると、そこには、絵画があった。


それどころではないというのに、私は恐怖も忘れてそれに見入った。


それは、黒い髪の女性だった。

女性と言うよりはまだ若い印象のその人の服は、何というか、薄紫の魔法少女みたいな服だった。顔つきは可愛いので良くにあっている。…でも、

黒い髪、黒い瞳の暗い茶色の目、肌は私と同じ、肌色。

その、読むことの出来ない文字の下に書かれた文字は


藤崎 優美子


ふじさき、ゆみこ?だよね?え?日本人?

他は全く読めない文字の癖に、それだけはやたら綺麗な漢字で書かれていた。


この人の、名前…だよね。

もしかして、この人も、私と、同じ


そこまで思うとかしゃんかしょんと規則的な鉄の音が聞こえて私は驚く。

やけに音が響いていて、私はまた恐怖に駆られる。


逃げなきゃ…そう思ったその時、手を、掴まれた。

「ひゃあ!!ごめんなさ」「静かに。俺に任せて。」


あまりの驚きに声を上げた私に、その人は静かに、と指を立てて私を黙らせる。

私が次の言葉を吐き出す前に、素早く走り出した彼(だと思う)の顔は暗いのもあって良く見えなかったが、立派な服に、如何にもなファンタジーなマントが様になっている気がした。

走っていると、マントが翻り、内側の白い模様(花に見えた気がするけど、男の人だし、違うかも)がチラチラと見えている。

しかし、それ以上は観察は出来なかった。


何故なら...この人、無茶苦茶はやぃぃぃいいい!!!


それでも、私は問いかけずにはいられない。

だって、だって、もしかしなくても!


「あの、あな、たは、」


走りながらも問いかけたそれは途切れがちな言葉。


「…ごめんな、もう少し配慮するべきだったね。でも今は時間がない。信じて着いてきてくれ。」


それでも、返ってくるのは耳慣れた言葉...


久しぶりに聞いた、日本語だった。



私は相手が誰だとか、そんなことも知らないのに、それでも彼を疑う気にはなれなかった。

それだけ、知っている言葉を聞いて、とてもとても安心した。


彼を信じて、私は走る。


走って曲がって、また走って、どこを走っているのかとかここはどの辺だとか、そもそもどこに向かっているのかとか、そんなのは気にもなっていなかった。


しかし、と、どこかでふと思う。

普通の女の子ならこんなに全力疾走したらきっと力つきてしまうんでなかろうか?

…私は、割と体力派なので何とかついてきてるけど…。

…...女扱い、されてないのね…。


長い廊下、階段をかけ上って、まだ走る。


急な運動に、引っ付きそうになってる喉がひ、ひ、と音を立てる。

気付けば顎もみっともなく上がってしまっていて、見られたものではない。

それでも、と私は思う。


死にたくなんか、ないんだもの。


私は顎を引いて、唾をむりやり飲み込むと、足に力を入れる。

今は日本語男を信じて走ろう。だって、悪い人には思えなかったから。


きっとどうにかなる。

それに、もしかしたら、元の世界に戻る手がかりが掴めるかも知れない!

そう思うと、まだ走れそうな気がした。


走って、走って、曲がって、走って、

右へ曲がると、見覚えのある廊下に出た。

そこで足を止めた私達は取り合えず、息を整える。苦しい。


…それにしても、どこで見たんだろう?私にわかる場所なんて、ほとんどないはずなのに…


私は吹き出す汗を拭いながら、考える。


ランプに火の灯る廊下、いくつかの人間には少し大きい扉...

それから、床で無用心に眠るフルメイル。


…そうだ、私の、私の部屋の前だ。

いつの間に雲が晴れたのだろう、月明かりが差してキラキラしている。

そのせいもあってか初めよりも印象が明るくて、すぐに気づけなかった。


「戻って、きたんだ?」

私はあがる息を整えながら彼を見ていう。


てっきり、城外に逃がして貰えるものと思ったのだけれど…。そうではないらしい。


戸惑いを隠せず、日本語男を見ると、彼は難しい顔でこちらを見返してくる。


「…ごめんな。君を外に出すには、ちょっと問題が大きくなりすぎた。…残念だけれど、すぐには逃がしてあげられない。

でも、」


難しそうに寄せていた表情を和らいで、その人は言った。

どこか愛嬌のある顔つきなのに、とても低い声だった。


「きっと、君なら元の世界に帰ることが出来るよ。

…そのために、今はこの城を拠点にして少し情報を集めよう。

それに、俺の元に、今までこの世界にやってきた人たちが集めた情報があるんだ。

一気には渡せないけれど、少しずつ君に流すよ。」


その人はすらすらと長い言葉を話してくる。

私は上がった息を整えながら、ぼぅ、とした頭でソレを聞いていた。


「あの、えっと、私、」

私は思いの外混乱してしまって、言葉が出てこない。

帰れるの?人に戻るの?この世界はなに?あなたは、


「あの、」

「…いきなりこんな事を言って混乱させてしまってごめんな?…俺は君の味方だから。そう、」


私が顔をあげると、彼は真剣な目でこっちを見ていた。

私は意味もなく緊張してしまう。見目が良いせいだからだろうか。イケメンは爆発しろ。


「王子には気をつけた方が良い。」

「お、王子?」


そんなことを言われても...王子、なんてピンとこない。

私が余程理解して居なさそうな顔をしていたのだろう、彼は溜息をついた。


「…君の側をうろうろしている可愛い顔をした奴がいるだろ?あれが王子だ。」



な ん だ と 。



こいつぁゆゆしき事態だ!変態ちゃんは男の娘だと!?

まさかの、変態ちゃんは、変態さんだったのかぁぁあ!!


「えっ、あ、変態ちゃんが、王子!?てっきりお姫様かと…!」


私がそういうと、途端、彼は吹き出した。

訳も分からずポカンとしていると、日本語男は更に笑い出す。


「国の跡取りを掴まえておいて変態、とはね!君はなかなか面白いね。」


あ、と口をついて出た。しまった、この人には日本語が通じるんだった。

どうしよう、告げ口とかされたら…!


「あ、あのこの事は内緒に…」

「はは、秘密にしておくよ。そう、でもそれだ。“ーーーー”王子はあれで賢い。…気をつけないと、帰れなくされてしまうかも知れない。

…今の君の姿を、見られてはいけないよ。」


彼は真剣に、そう言った。

私は頷きながらも、どうやったら帰れなくなるのかが気になった。

その口振りだと、知っている様な様子だ。


「帰れなく…って、なにされたら帰れなくなるんですか?」

「それは……また今度教えるよ。うん、君は普段はドラゴンだから、そんなに問題ではないと思う。人間の姿で会わなければ大丈夫だよ。

そうだ、そろそろ行かなくては。ここで魔法がとけてしまうとマズい。」


私ははぐらかされた!と、思ったけれど、あっという間に肩を掴まれてぐる、と後ろを向かされる。

そのままほらほら、と背中を押される。


扉を潜りながら、抵抗するべきかを考えているとふと思い出す。

「あ、名前…」


そうだ、話が通じるんだから、名前だって分かるはず。

せっかくだし聞いておこう。


「俺は高橋 蓮司!じゃあまたな、龍のお嬢さん」


そう言われて、私もまた名乗ろうとする。

でも、その前に彼の言葉に遮られる。


「それから、今度は逃げないでくれよ!あの壁の中の通り道は、別に王子専用の隠し通路じゃないんだ!」

「え?」


そう言われて、一瞬何の事?と考えて、壁から聞こえたあの音は高橋さんだったんだと思い至る。


「ふぶぇ!?あれ、高橋さんだったん、で...?」


す、か?と尻窄みになった言葉は誰も居ない廊下に響いた。


いつの間にか、高橋さんは影も形もなかった。ワーォ、ジャパニーズニンジャー。


でも、私は一人ではなかったんだと少しだけ嬉しくなった。


高橋さん、それに、藤崎さん、だね。覚えておこう。


そう思ってテーブルをちら見すると、さっきと同じ場所にある。

高橋さんはあそこから入ろうとしたのか...ってことは、あの人、この城に住んでるのかな。


ぐっすり寝ている兵士を起こさないようにこっそり扉を閉めて、私は一息つく。

そうとう無理して走ったせいか、物凄く眠い。

私は即行で布団に滑り込むと、目を閉じる。


ふわふわと浮くような感覚がして、もう、それからは夢の中。


ーーーーーーーーーーーーーー


夢の内容は良く覚えていない。


でも、藤崎さんが心配そうにこっちを見ていた。

そんな気がした。


ーーーーーーーーーーーーーー


こいつ......走ってばっかだな......。

というのはさておき、どらおつでした。


............いかん、やっぱりあと一個挟むべきでした......。

高橋さんの登場ですね。

高橋さんはいったい誰なのかー?(棒読み)

......誰なのかー?

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