ドラゴンになる。
ふもっふ!そんな効果音がつきそうな程、深い深雪の中に私は突っ込んだ。
先ほどのキャトルキューティレーション?に心地よささえ感じてうとうとしていただけにビビった。
「ふもぉ!?」
意味のない私の叫びは、柔らかいサラ雪の中に溶けて、体は混乱から慌てて雪から抜け出そうとする。
しかし、長らく誰もとおっていなかったのだろうか、この雪は動けば動くほど中に沈んでしまう。
この年で雪ダイブをするなんて想っても見なかった!
「ふぉぉお!!!」
私は、何とか頭を出して落ち着いた。
ふぅ、と息をついた所でまた違和感。
雪がそこまで冷たくない。
感触はある。ひんやりもしてる。でも寒くない。
あれだ。スキーウェアで完全防備してるときみたいな。
でも、顔も冷たくないし、不思議な感じ。
なんで?とか考えていると、すいーと目の前を何かが通っていくのがわかった。
視界に小さく移ったそれに目を凝らすと、ソリみたいのにのったおっさんだった。
そのソリは機会音はしないのに、おっさんが押してるわけでも引いてるわけでもなく、かつ、動物が引いている訳でもなかった。
へぇ、随分と静かなモービルだねぇ。
微妙に光ってるので、電気で動いてるんだろう。
…こっちに気づいてくれないかなぁ。助けてほしい。でもこんな距離じゃ私がいくら叫んでも気づいて貰えないだろう。
そう思って私はため息をはく。
ぼ。
「!!?」
口元が少しだけ明るくなる。
そう言えば夜なのに、随分視界がクリアだ。
???なにかがおかしい。
大体この寒くない状況だって変だし(私コート着てたもの。いくらロングでも足下は冷たい筈じゃん)
キャトられてここは何処、私は自分だし(私はわかるわ、私は。)
大体私はいっつもMEGANEがあってもあんな遠くまで詳細には見えないし(しかも今深夜だ)
音もしてないことまでわかってる。(だって、ぐぐ、っていう雪を踏んづける音は聞こえるもん)
なんかおかしい、いろいろおかしい!
誰か、
「誰か説明してぇぇぇええ!!!」
思わず私が火を噴きながらヒステリーを起こすと、向こうのおっさんがひっくり返った。
あ、ごめん。
そう思いながら、私はもう一つ可笑しいことに気づいてしまった。
「わ、私は誰…?」
いや、むしろ私は何?
そう、この寒色系の大きな鱗がついた人ならざる手は、私の手のようだ。
顔はわからないけど、ぐる、と捻れるだけ首を捻ると、背中に、しっかりとした筋肉の上に鱗の這った、それでも形はコウモリのような羽があった。
この、この形には大いに見覚えがある。
は虫類の手、口から炎、背中にはコウモリの羽、そしてそれらに這う頑丈そうな鱗。
うわぁぁあああ!!!!これってもしかして!!!
「マイラヴァーどらごんちゃん!!?」
思わず口から言葉が漏れる。独り言怪しいけど気にしない!!
私がどれだけこの存在に憧れ、触れたいと想ったか…って。
「私がドラゴン!!」
っちょ、っとぉ、なんでドラゴンに拾われたーとかじゃないの!?
ドラゴンになっちゃったのー!!?
ドラゴンと恋に落ちるとかじゃないのぉぉぉ!!!!???
…い、いや考え直せ、私!これは彼等との間に障害がなくなったと考えるべきだ!
言葉も通じるだろうし、ドラゴンって割と顔厳つくても全然イケメン判定だしドラゴンとしてはそこまで悪くないはず!日系ジャフ○ー似のお父さん似だったけど!!
きっと、きっといける!!
「ひゃほおぉおお!!」
両手をあげて喜んでいる私をよそに、さっき転んでしまったおっさんはあたふたとしている。どうやらあのソリから落ちてしまうと私のように雪に沈んでしまうらしい。
おっさんはこっちを確認しながら悲鳴をあげながらそりに乗ろうと必死だった。
そりゃそうか。気付けば首だけ出てたドラゴンが自分の方向いて意味わかんないこといいながら火を噴いたんだもんね。そりゃびびるわ。
今、私はとても気分がいい。自分で言うのもなんだけれど、非常にムラのある性格でもあるのだ。
だから、気分がいいときはできるなら困っている人を助けてあげようかな、とも思う訳で。
私はとりあえず、この雪からの脱出を試みた。
背中に集中して、今まで無かった器官を探す。これかな、と、力を入れるとバサ、と羽が開いた。
こう、えい、と動かそうとするが案外難しい。羽ではなくて前足が動いてしまう。
そこで私は後ろを見ながら、羽に集中しながら何度か羽ばたいてみる。
風で、周りの雪が幾分かとんで、地吹雪になっている。おっさんごめんね。
しかし、そのかいあって更に取びやすくなり、かつ羽を動かす感覚を掴んだ。
私は思いきって羽を動かした。ず、と重々しく私の体(元53kg)が浮いて、雪のちらつく空に浮かんだ。
おぉ、結構きもちいい!
そうこうしてるうちに、おっさんは雪にうもりながら、腰を抜かして居るようだった。器用だ。
私は驚かせてしまった事への謝罪もかねておっさんを助けることにした。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
そう言ってから、慎重に手をさしのべると、彼は何かを喚きながら逃げようとしている。
おや、と思えば、ドラゴンと人間は言葉が通じないのか、それとも外人なのか、おっさんの言葉がわからない。
とにかく、こう言うのは早急に助けてしまうに限る。
じゃないとあらぬ疑いをもたれてしまうかも知れない。
ゆっくりと彼をすくい上げ、空いている手で倒れたソリを戻し、その上に乗せてあげた。
ごめんなさい、悪気はなかったんです。と、もう一度申し訳なさそうに言ってみる。
案外こう言うのは雰囲気で伝わるものだ。外人との会話だって半分はジェスチャーで成立するのだし。
その甲斐あってか彼は私に敵意がないのをわかってくれたらしい。恐る恐る私の手に触れる。
私にしてみると、比率的に小さい私の手も、彼にしてみるとごつごつとした岩石のようだろう。
それでも、彼は笑って、ぺちぺちと私の鱗をさわり始めた。
ドラゴンが珍しいのだろうか?まぁ、私だったら突撃して頬擦りするけれど。
うーん、こういう時は、どうするんだろう。
ついて行くのは流石にまずいよなぁ。あんだけ怯えたって事は、ドラゴンはそんなに身近なものじゃないのかも知れないし、下手に人里に出たら攻撃されそうだ。
あ、そうだ。
私はまた気まぐれに自分の腕を見た。そこにはびっしりとした鱗。
その中に、さっきの衝撃かくらくらしているとこがある。
まぁ、ドラゴンの鱗って、所謂鳥の羽とか羽毛みたいなもんだよね?と思ってそのぐらついた鱗をくわえて剥がした。
とれかけだったのもあってか痛みはなく、直ぐにはがれたそれを、私はおっさんの両手に乗せた。大きめだけど、そこまでかさばらないだろう。
まぁ、羽みたいなもんだけど、記念に取っといてよ、おっさん。
それで時間に遅れたりとかのいいわけにでも使いなよ、うん。
そう思って最後にバイバイ、と言って手を振って私は空を飛んだ。
休めるところ探さないとなーとか考えている私の視界には、おっさんがまた、すーとソリを走らせているのが見えた。
こうして、私の最初の異種間交流は幕を閉じた。
おっさんファーストコンタクト!