ドラゴンと外出を
お久しぶりです!何とか戻って参りました!
今回はおっさん視点でお送りします!
俺は今朝方、年甲斐もなく浮かれていた。
何といっても、今日はドラゴンと出かける日。
初めは手綱を見て酷く怒った様な顔をされたギュスターヴォ王子だったが、どうしてもそれを付けなければ、周りが納得しないことを説明すると、しょうがない、と承諾してくださった。
...そういやあの時、凄く怖かったな...本当に最近、あの人に腹黒さを感じずには居られない。
しかし、そう、あの子、ここに来て急に元気がなくなってしまったから…
先日も、此方を心配させまいと無理に笑っているのがわかって、何だかいたたまれない気分だった。
それも今日で終わるはず!
少しとは言え、遊び回ることが出来るとなれば、きっと元気になってくれると、俺の気分は晴れやかだった。
…だが、それもさっきまでの話だ。
今は一転、頭を抱える羽目になってしまった。
「えー!?なんで!!?ドラゴンは僕のでしょー!!?」
「…この子は大人しいとは言え、外に出て暴れ出さないとも限らないでしょう。
王子はこの国を継ぐ大切なお方です。安全が保障されるまではどうかご了承ください…。」
その原因、むぅ、とかわいらしくむくれたギュス王子は、間髪入れずにまた暴れ出す。
「やだやだ!僕、ドラゴンと一緒が良い!ドラゴンも、僕と離れたくないよね!?」
そう言って今度はドラゴンに抱きつくが、当のドラゴンは小首を傾げているばかり。
…どうやら状況の把握が出来ていないらしい。いや、理解しなくていいのだが。
どうしてこんなことになったのか、それは簡単なこと。
今回のドラゴンの外出は飼育係の私とサタトールスさんとで行うことになっているからだ。
それをギュス王子に伝えていなかったのは、それを事前に伝えれば、無理矢理にでも付いてくる可能性があるからだった。
僕は王子なんだからいいでしょ、と言わんばかりにやりたいことに食い込んでくることも少なくない。
…もっとも知らせなかったからと言って、付いてこない、と言うわけではないのだが。
しかし、知らせれば毎回ごねるだろう事は分かり切っていたし、それで押し切られてしまうこともあるし…
…いや、言い訳しても始まらない。
ざっくり言うとあんまり早く伝えると後処理が面倒くさかったのだ。
そんな目に見えた面倒を、わざわざ被る必要もない。
…多少失礼な気もするが、そも、それが所長の指示なので責任は俺にはない。
まぁ、そんなこんなで今回は王子が付いてこられない事を知らせていなかったのだった。
「お聞き分けください。あなた様に何かあってからでは遅いのですよ。」
「えぇー…僕、ドラゴンとらんでぶーしたい…。」
らんでぶー?…いや、王子の奇っ怪な言葉に惑わされてはいけない。
私は顔を引き締めて言う。
「ともかく、計画を今更変更するわけにも行きませんからね?
今回は留守番です。」
「ちぇー。」
口を尖らせる王子はわかったよ…と渋々うなずいて、ジョディに予定を聞き始める。
見る見るうちにいやそうな顔になる彼に、あぁ、と思う。
今日はグリゴリー様と一緒の授業か。
そう思えば、ため息がでる。
この人、グリゴリー様のこと嫌いだからなぁ...。
俺には、その授業が有る度に王子が所長の所に脱走してきた、苦い思い出があるからだ。
王子はいつも研究中の魔法に興味を抱いて、引っかき回す。
そのせいで魔法が暴発して研究室を真っ黒にしてしまう事数知れず。
暴発100回記念(仲間が言い出したことだ。何故記念?と仲間に聞いたところ、何となくキリがいいのはおめでたいこと、とよくわからない返答だった)を数えたときに、とうとう王子に甘い所長も彼を魔法に近寄らせなくなったと同時に、研究者の間でも諦めの空気が漂い俺も流石にそれ以上数えるのをやめた程だ。
…どうせ、今日も逃げる気なのだろう。
無駄かとは思うが、元副所長の身として、一言小言をくれてやっても罰は当たらないだろう。
俺は目に見えてむくれている王子に改めて向き直る。
「ギュスターヴォ様、今日はしっかりと授業を受けて下さいね?
良いご報告が出来るよう、私も身を尽くしますので…。」
「……わかったよ…。ちぇ、じゃぁ、一番に僕に報告してよ?包み隠さず、事細かに。」
「わかりました。…さ、ジョディが待っていますよ。」
そう諭してみると、意外にも(…不服そうな素振りはあったが)素直にジョディに付いていった。
子供らしい、と言うのは時に良いものだなぁ、と妹の幼い頃を思い出す。
……また近々手紙でもだすか。
そう決めながら、俺はドラゴンの外出の準備を進めた。
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外出は、意外にもすんなりと事が運んだ。
多少の抵抗は有るだろうと思われた手綱付けでさえも抵抗するどころか協力する素振りさえ見られ、さほど時間はかからなかったのだ。
どうも、この子はこちらの意図を汲み取ろうと言う意志が強いらしい。
城を出るときも手綱を持ってはいるものの、サタトルースさんが進行方向を指差せば、ドラゴンはこちらに合わせて無理のない程度の速度でゆっくりと歩いてくれる。
驚くほど素直で、それでいてこちらを気遣う様子すら見られるその行動は、まるでこちらの意図をわかっているかのようだった。
「本当に賢い子だ。」
「…まぁ、この位はね。でも、この子は本当に温厚な性格の様だ。
この調子なら港町まで行けそうだな。」
サタトルースさんが小さな指で港の方を指さすと、ドラゴンはゆっくりとそちらへ歩き出す。
お触れは先に出していたと言うこともあり、大っぴらには騒がないものの、国民たちはそのドラゴンをそっと気にしながら暮らしているようだった。
ドラゴンが道を歩くと、その大きさからやはり少し道を空けて貰わなければいけない。
道を空ける人々が好奇の目でドラゴンを観察しているのが目に見えてわかった。
…だからこそ、外出先は港町なのだが。
あそこは、漁師達が住んでいる町。大自然と戦う漁師は、細かいことを気にしない。
気性は荒いが、それだけ、懐も深いのだ。
「やはり、いきなり慣れろと言っても無理があるか。」
「仕方がありませんよ。普通はドラゴンなんてこんな間近にお目にかかる機会なんて有りませんからね。」
「それもそうだな。」
そんな会話をしつつ、ちら、とドラゴンを伺えば、彼女は少し居心地が悪そうだった。
当たり前か、と思いながらも申し訳ない気持ちだった。
やはり外出でも、彼女が羽を伸ばすことは難しいのか…
そう思って、溶けることの方が少ない雪を踏みしめていた時だった。
と、ふと、小さな子供が、こちらを期待を込めた目で見上げていた。
近づいては危ないし、群がられても動けなくなってしまうこともあるのであまり近寄らない様に、とは伝えてあるが、少女は元気に口を開く。
「どらごんさん!こんにちは!」
年場もゆかぬ小さな子供故の行動だろうが、それでも、なんだかうれしくなり、軽く手を振り返す。
すると手綱がくい、と無理のない様にではあるが、動いた。
疑問に思ってドラゴンを見上げると、少女をまねしてなのか、ドラゴンも笑顔で前足を振り返していた。
少女はますます顔を上気させて喜び大きな声で「どらごんさん、こんどうちのおみせにたべにきてね!!」と、声をあげる。
ドラゴンは言葉がわからないなりにも何となく察したらしい。笑顔で頷いていた。
すると、今度は苦笑いをしながら、その親御さんが頭を下げて、ご迷惑をかけてすみません、と子供に駆け寄る。
「いえ、その位なら構いませんよ。この子は大人しいので、少し大きな声を出したくらいじゃ暴れたりはしませんし。
…そうか、ヤマザキ屋のお嬢さんでしたか。道理で見たことがあるはずだ。」
「あら、うちのことをご存じでしたんですね。うれしいです。」
「いやいや、この国でヤマザキ屋を知らない人はいないと思いますよ。」
ねぇ、サタトルースさん、と言うと彼は、そうだな、と笑った。
親御さん…もといヤマザキ屋の奥さんは恥ずかしそうに笑いながら丁寧にお礼をして、失礼します、とお嬢さんと一緒にお店に戻っていった。
俺は胸が暖かくなるような気持ちになって、自然と笑うことが出来た。
行きましょうか、と俺が声をかけると、二人も穏やかに港町への道を歩き出す。
何ともなしに見上げた空は、これから一荒れ来そうな空ではあるが…それでも、
それでも、きっと歩いてゆける。
そう、思った。
いやぁ、間が空いてしまった…。
まぁ気まぐれ更新なのでまたがんばります!
…ここいらは繋ぎと言えば繋ぎなので、更新はやはりちょっと遅れるかもです。
予定としては次は変態ちゃんですね!
はてさて、残された変態ちゃんは何を思うのか!?
こうご期待…はしないでくださいw