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小雪のちらつく朝の日に

おっさん視点です。

やや晴れた空に、ちらちらと雪が舞う。

気温も、さほど低くない。

他の国はどうかはわからないが、このニクスにとっては絶好の外出チャンス、と言ったところか。

…日頃の行いが良かったのか、天使様はこの大切な日に、試練の如く大雪を降らせることはしなかったようだ。


俺は足取りも軽く、新品で細かい装飾のなされた手綱を手に、あの子の部屋を目指した。


と、ふと視界にかつての同僚が写り込む。

そいつは相変わらずのあっけらかんとした調子で片手をあげて此方に近寄ってくる。


「やぁ、ミケーレ!新しい職場はどうだい?」

「お陰様で充実してるよ。」


以前はドラゴンの事をこいつに伝えたが為に上に情報が行ってしまった、と言う前例はある物の、あれはお互い仕方がなかった、と許し合い、恨みっこなしで今も交友関係は続いている。

と、言うのも俺たちは大学の同級生なのだ。


いかに強い魔法を使えるかで、学校の人のあふれかえる共同魔法演習所にて二人で競い合い、頭から水浸しになったあげく、服が灰になりパンツ一丁になる、という訳の分からない珍プレーを披露した仲なので、若干怖いものなしだ。


「そういや、所長は寂しがってるよ。“ミケーレがいないと書類が纏まらない!”ってさ。」

「ははは、あの人自分の仕事もたまにこっちに回してたからなぁ。おかげさんでいっつもてんてこ舞いだったよ。」

「うわ、やっぱお前の時からなのか…正直勘弁して欲しいよ…。」


うなだれる彼に、俺は若干の皮肉を込めて言う。


「まぁ頑張れよ、新・副所長!お前、俺より若いんだからさ!」

「若いって、たった1つしか変わんないだろ!ちくしょ、これだから水の術者はスカしてていやなんだよ!」

「得意属性と性格は関係ないだろ。」


俺がそう言うと、彼は噛みつくように言った。


「いいや、あるね!俺、性格いや、感情と属性の関係性を絶対!突き止めるんだ!」

「…まぁ、確かにお前が炎って言われても凄く納得できるがな。今のところは噂程度で正確な理論や式がある訳じゃないんだろ?」

「ふふん、世界で一番最初にそれを突き止めるのがこの俺なのだよ、ミケーレ。」


彼は正に火がついた様にガッツポーズをすると、勝ち気に笑う。

その豪快な様に、あぁ、こいつは変わんないなぁ、と思う。

と、ふと気づけば随分話し込んでいたことに気づく。


まぁ、俺は割と時間にルーズでも構わない仕事だからこの位は平気だが、こいつはそうはいかないだろうと話を転換する事にした。


「そう言えば、随分話し込んでいるが、お前は暇なのか?」

「うぉあ!?そうだったっ!じゃあまた飲もうぜっ!」


そう暑苦しく笑った彼は、あっという間に廊下の彼方に消えていった。

本当にブリザードの様な奴だ、とそれを見送って、俺はドラゴンの元に歩き出す。


そう、今日は私にとっても彼女にとっても特別だ。


俺はそう思いながら廊下を歩く。

廊下は光が滲んでいて、とても明るい。


そんな陽気な空気の中、俺はぼんやりと先のことを考える。


…確かに、雷の術者はやかましい奴が多いし、地の術者はおっとりとしている奴が目立つ。それぞれ、イメージに合うような属性が多いもの事実だ。


だとしても例外はいるもの。ギュス王子は氷なのだ。

あいつの話が本当なら、ドラゴンへの愛は、持ち前の愛くるしいを通り越してもはや暑苦しい彼が、どうして氷なんだろう。


…やはり、そんなのは迷信にすぎないだろう。


俺はそんな下らない事を考えながら窓の外を見た。


そこには、屋根の上にふんわりと雪が柔らかそうに積もっていた。

何のことはない光景。そう、いつもの、どうでもいい光景だ。


そうだ、どんなに柔らかそうな雪だって、触れれば冷たい。

ギュス王子とは、似て非なるものだ。


俺はそう思って扉を開く。


すると急に、何ともいえないゴツい音とともに、世にも恐ろしい怖い顔がものすごいスピードで飛んできた。


何事だ。


そう思った瞬間、俺は見事に飛んできた所長と共に、廊下に吹き飛ばされた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ごめぇぇん!だって、びっくりしたんだもん!」

「ビックリ、しただけで所長が伸びるくらいの力で殴り飛ばすんですか貴方は…。」

その俺よりもずっと細い体のどこにそんな力があるのやら。

当のドラゴンは、今起きたばかりらしい。そんな騒動があった事なんてお構いなしに床にへばりついている。


…まぁいいか、と俺は話を進める。


「ともあれ、今日はドラゴンに試しに手綱を付けるテストをし、問題なければそのまま外出をする日です。

…一度外にでようとしたことはありましたが、それでもどんなに驚いても人に危害を加えることの無かったこの子のことです。きっと問題はないかと思いますが…。」

「そうだね、んー僕も用意しなきゃねぇ…。あ!ジョディ、サタトルース!!ご飯!ご飯ちょうだい!」


と、その声に驚いて後ろを見ると、朝食をワゴンに乗せたジョディとサタトルースさんが居た。いつの間に来たのだろう。

ドアは閉めていたはずだし、歩けば足音だって普通するだろうに開く音も、足音もしなかった。コボルトも弱いとは言え、やはり魔物か。怖いな、コイツ等。


ともあれ、ギュス王子が料理を見ながら楽しそうに跳ねている。


「ミケーレ!叔父さんはほっといて良いからテーブル…あ、いやいいや。」


しかし、一瞬、彼は真顔になる。

彼が上司になったときから時折見せるその顔は、今まで見てきた王子とはまるで別人の様で、未だに馴れない。

しかし、今日はなにかを期待をしているかのような…そんな含み笑いをしてドラゴンを見上げる。


「…ドラゴンと一緒に、床で食べるよ。」

「は?…何を仰るのですか!全く、いくら何でもはしたないですよ王子!」


思わず声を上げると、王子は冷めた目でこっちを見た。

しかし、口元は綺麗に笑っており妙に似合っている。

…成る程、どんなに脳天気な人でも、やはり王族は王族なんだな。


「良いじゃないか。彼女だって女性なのに、床で食べてるでしょ?はしたないなんて今更でしょ?」

「女性は女性でもドラゴンですよ、王子…。」


しかし、出てくる理論は滅茶苦茶だ。

才はあってもやっぱりまだ、王族としては若すぎるんだろうな。


「えぇ~良いじゃない!やだやだ!!ドラゴンと一緒が良い~!!」


そう思えば、彼は床にころがり始める。若干…いや、何でもない。

しかし、その子供の様な有様に、俺はため息を付くしかないのは仕方ないだろう。


俺は一瞬彼の属性を思い出しかけたのだが…頭を振って思い直す。


そんな、この人が案外、計算高くて冷たい人だなんて、そんなのあり得ないだろ。


「…はぁ…所長に怒られても知りませんからね…。」

「わぁい!ありがとうミケーレっ!」


結局、俺はその小さな子供宜しくだだをこねるその有様に負けて、ドラゴンの料理と共に、王子の料理も床に料理を置くことを了承した。

俺待ちだったのだろう、初めから彼に逆らう気のないジョディが手早く床に料理を広げている。


…ほら、ドラゴンもびっくりしてるじゃないか。


全く、とこぼせば、仕方有りませんな、とサタトルースさんが穏やかに答えてくれた。

今日はまだまだこれから大仕事が残っているというのに、どっと疲れた気分だった。

きっと本編には出てこないだろう事を想定して呟くと、この国の学校は、この世界で唯一の魔法を教えている学校だったりします。


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