4 ☆1
はじめての授業……何をしよう?
全生徒約50名のこの学園は、だいたいの年齢と実力別に3つのクラスに分かれている。ただし、このクラス分けは主に生活スキルや基礎魔法技術各論などの、個人の資質によって差があまり出ないものに使われる。
学園長代理のベルナーは、自身にあまり魔力が認められないため、上記の授業を受け持ち、魔力の行使を伴うような授業については、各資質によってメンバーを変えて外部講師に任せていた。
魔力の基礎体力を向上させることは可能だが、もって生まれた才能のほうが上回ってしまうことがあり、安定させる技術がつたない子供たちの面倒を見るのにはいささか不安があるというのが理由である。
授業の時間については、特に決まってはいない。大ざっぱに午前の授業と午後の授業に分け、その中で、50分4本や90分2本など、講師が自由に配分する。
本日の授業は、物質に魔力を注いで動かす魔道技術、いわゆる工作の時間だ。
何かモノを作るという作業は楽しい。
それが自分の魔力で動き出したりするとテンションは右肩上がりだ。
うっかり暴走しても学園を吹き飛ばさないようにという配慮で、シャルロットはピクニックもかねて裏山に登ることにした。裏山ならば、子供たちもよく登って慣れている。
物質に魔力を通して動かす才能をもっていたのは12名ほど。授業が楽しみなのか、簡単な打ち合わせをして学園長室から出てきた彼女の前には、すでにお迎えがきていた。
「シャルさん!工作俺得意なんだぜ!すっげーの作るんだぜ」
ワンドが頬を染めて嬉しそうにガッツポーズを作っている。
大暴れできる!とその顔には書いてあった。
慣れた裏山は標高400m程度なので、通常であれば頂上までそれほど苦労はしない。魔力による加速補助を使用すれば走ってでも登りきれるのだが、子供たちはそれどころではなかった。
山の入り口付近でシャルロットが作り出した泥人形に乗って移動しているからだ。
少しずつ燃料を与えるように魔力を注いでやると、主を担いで歩いてくれるのだが、体重が重くなるほどに壊れやすいので、形をとどめるように一定に注がなければならない。
魔力はコントロールと魔術に使う量が重要なのである。
「あー、走ったり止まったり、結構しんどいぜ~」
魔力の量が多いものの、一定に保つのが苦手なワンドは、これだったら走った方がましだとこぼしながら、汗だくになっている。
「ながれる川をイメージするとうまくいきやすい」
ムスリナが人形を撫でると、人形はてってってってと一定のリズムを刻みながら走り出した。集団の中で一番操作が上手い。
「ワンドに細かい作業は無理」
ぼそっとセブルスがつぶやいたのが聞こえたのだろう、聞きつけたらしいワンドが一定の速度で走らせるのをやめて、全速力で追いかけていく。
「もはや止まる必要なんてないぜええええ! セブルス諸共砕けてやる!」
「まだ元気じゃん。でも巻き添えはごめんだ」
とは、上手くタックルを避けたセブルスの言葉。
シャルロットは泥人形に乗りながら、つまづかないよう慎重に歩いているシックの横にいる。とことこと可愛い足音が聞こえる最後尾だ。
器用にピョコピョコ石や枝を飛び越しながら二言三言アドバイスをすると、かなり安定してきたようで、地面を見なくてもあやつれるようになってきた。
「そういえばシャルロットさん、フエレンジャーって知ってる?」
「えっ、知らない。何々??」
シックは彼女が興味を示したのがよほど嬉しかったのか、少し頬を染める。
「今流行っている戦隊ものなんだよ。みんなでハマっているんだ!」
ほら!とポケットからごそごそ取り出したのは、5色のレンジャースーツ(むしろ全身タイツ?)に身を包んだ大人5人のカード。……道で見かけたら間違いなく尋問されるに違いない姿だ。しかも怪しさ極まりないことに、全員腰に笛を装備している。
レッド ソプラノリコーダー
ブルー アルトリコーダー
ピンク オカリナ
ブラック オーボエ
イエロー 尺八
……どうしてこのチョイスなのか!?などと突っ込んではいけないのだろう。
渋い。
「でね、でね、ビュー―んんって合体が出来るの」
きらきらと目を輝かせて話すシックに、本当にフエレンジャーって人気なんだね、と彼女は頷いた。話を聞いているうちに、だんだん引き込まれてきたらしい。
「でっかくって強いんだよー」
フエレンジャーの話と聞いて、ムスリナとセブルスがやってきた。ワンドはまだ操作に手間取っているらしい。
「でも強いならなんで最初から合体しないんだ?って思うんだけど」
シックの説明によると、レッドは信頼のおけるリーダーポジション、ブルーはクールでメカに強く、技術力がある、イエローは力持ちでエネルギーを集めることができ、ピンクは分析力と精神のケアサポート、ブラックは感受性が強く、機動性のあるスピード重視派だそうだ。
1対1の試合なら、強力な1名の方が有利なのだろうが、組織戦となれば、この違う能力を持つ5人を上手く動かせば10人前、20人前の仕事に発展しそうだ。戦闘に限らず、ビジネスや街の運営に必要な能力とも置き換えられる。
子供の頃から、組織学を学ばせるために作られたのかどうかはわからないが、深い!と感心し始めるシャルロットの腕を、ムスリナがくいくい引っ張った。
「わたしたちもフエレンメンバー作ったの」
あ、フエレンはフエレンジャーの略。と、付け加える。
「あのね、ワンドがレッド、
ツンドラがブルー、
ファミィがイエローで、
私がブ「僕がブラック!!!」」
活き活きと説明するムスリナにシックの声が重なった。
「シックは…………ピンク!って決まったじゃないの」
「!!!」
どこからともなく現れる忍者のようなブラックは人気らしい。シャルロットは、ふんわりと可愛らしいムスリナはピンクが似合うと思ったけれど、なんとなく言いそびれて二人のやり取りを眺めていた。
「くじ引きだ。我慢しろ」
ばっさりと切ったセブルスをキッと睨み、
「そんなナンパな色なんかになれっかよーーー!!!!」
シックはものすごいスピードでダッシュしていってしまった。
「いやぁ、見事なコントロール。乗りはじめた初日とは思えないなぁ」
遠くなっていくシックを3人で見つめる。
「最後尾のスピードが上がったから、頂上まで早くつけそうだね」
無表情のままセブルスが付け足す。
ムスリナは早くご飯が食べたいなぁ、とふんわり微笑んだ。