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シャルロットの日常  作者: アルタ
ようこそいらっしゃいませ
5/64

2 ☆4

 この学園は全生徒50名近い学園だった。預かる子供の年齢は、6~12歳と幅広く、クラスも年少組、年中組、年長組とざっくりしている。年齢というよりは授業内容にあわせて振り分けるため、編入もしやすい。


 学園としては、まだ歴史が浅いらしいのだけれども、卒業生がアカデミーへ進学し、薬草の知識や道具類の作成スキルを身につけて故郷に帰ってくるため、地元でも評判がよい。


 しかし、やんちゃ盛りの妖精さん50人は大変だろう。

 なにしろ今も…………

「セブルス! 俺の唐揚げ食ったな???」

「ワンドのか?? 残したのかと思った」

「最後にとっておいたのにいいいいいいい」

「ふんっ!」

賑やかだ。確かに食べ物の恨みは深いが。


「ワンド、こらこら。セブルスももう年中組なんだから、間違って食べてしまったなら謝れるな?」

 あわててベルナーが止めに入っている。尊敬する先生にたしなめられて一応席に座り直すが、ワンドは不満そうだ。


「ごめん」

「……むう、俺の好物だったから。でももういい。

 だからベルナー、自分の唐揚げもってくるなよ!

 俺がすごい心の狭い奴に見えるし! 明日の朝、プリンもらうから!」

 本人にしてみれば真剣なのだろうが、なんだか素直じゃない反応に、初めてのお客さんで少し堅かった周りの雰囲気が柔らかくなった。


「ここ、いいところだよ? ベルナーさんも優しいし」

 じっとムスリナに見つめられて、

「うん」

シャルロットは彼らに目線を合わせて正直に答えた。

「ここにいなよ」


 いつのまにかジュースを取りに来ていたセブルスが横に立っている。

 魔法を見せて欲しい。話を聞かせて欲しい。そのかわり、こっそりいいことを教えてやるといって私に近づくと、



 ちゅ



 ほっぺにキスをした。


「――――!」

「……既成事実さえ作ってしまえばこっちのもの」

 表情を変えることなく、ウンウンと頷く青い髪の頭を見ながら、彼女は心の中で盛大につっこんだ。


――もしもし??


「あーーーっ!セブルスお前、腹黒いぞ!」

 ワンドの声でいっせいに何ごとかと皆こっちを向いて、てんやわんやの騒ぎとなった。


「さー、みんなもうひと押しだー」

 おーーー!

「良い先生が来てくださってありがたいですねぇ」

 などと、のんきにお茶すすっている場合ではありません!助けなさい!という視線をのせて送るが、ジュースをこぼしてしまった子供の始末で忙しく、こちらの状態に気づいていない。


「ぼく、ブーケさまのじゅぎょううけたいです」

「なあなあシャルロットお姉ちゃんって呼んでもいい?」

「フォルスーいい案ない?」

「いいって言うまでこの家から出さない?」

「セブルス!その案GOOD!!!」


 たちまち囲まれてしまって、大妖精が足し算してやっと自分の年齢と変わらないくらいの子供達に押されている。弱点を突いた見事な戦術というべきか。

――で、現在シャルロットは閉じ込められていた。


 確かに出ようと思えば出られるわけだけれど、膝にちょこんと乗っているファミィに「おねがいします」と言われて逃げられず、隣では、さっきまでケンカしていたはずのワンドとセブルスのコンビが横で契約書にサインするためのインクを用意している。


 これが確信犯的な行動だとすれば、ベルナーの「自分で考えて生きていく教育」は立派に根付いているに違いない。若干方向性を間違えているような可能性が高いが。


「だめですか?」

「そういうわけじゃ……」

 ただ、自由気ままな旅に出る憧れの隠居生活が。

「「ダメなの……か?」」

「こんなにいてほしいっていってるのに」

 フォルスと名乗った緑の髪の真面目そうな男の子が不器用に笑って、羽ペンをシャルロットに握らせる。

「これにさいんしろ」

 とどめにセブルスに契約書を突きつけられて、シャルロットは参ったというように両手をあげた。


「わかった。じゃあ……新しい学園長が帰ってくるまでよろしくね?」

「「「「「はーーい」」」」」

(その数分後。学園の回りに対新学園長用罠が張り巡らされた)




――次の朝


 風に揺られて音を奏でる木々の囁きに彼女がふと目を覚ますと、ふかふかのベットの周りにいくつかの寝袋があった。

「???」

 モゴモゴと動くそれらはまるで芋虫のようだが、こっそりと中を覗いてみると、グリーンのクマさんパジャマを来たファミイがすうすう寝息をたてている。

 これは……見張り?。

 そーっとドアを開けるとベルナーがもたれるようにして寝ていた。真面目で誠実そうな彼にも、案外子供っぽい一面があるようだ。こっそり出て行ってしまうとでも思ったのだろう。


 確かに、本気で抜け出そうと決めたなら、今この状況でもそれは不可能ではないが、みんなの寝顔が可愛らしかったので、

「大丈夫……ここにいるから」

と、部屋を見渡してシャルロットは小さな声で囁いた。


 こんなところで寝ていたら風邪をひきそうだと、寝袋を足蹴にして半分脱皮した状態のムスリナに毛布を掛けようとしたら、何者かに足をつかまれ勢いよく転倒しかかる……心の中で悲鳴を上げつつも何とかバランスをとったため、彼女の額が床と友達になることはなかったが。


 まだ捕まれた足首には、

「逃げちゃダメ」

むにゃむにゃ言いながら小さな手で一生懸命掴んでいるツンドラ。

 結局、ベルナーが起きるまで離してもらえなかった。

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