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シャルロットの日常  作者: アルタ
魔王復活
32/64

9 ☆3

「ベルナーさん、シャルロットさんはいつかえってくるの?」

 昼食のテーブルでムスリナがコーンフレークにたっぷり牛乳をかけながら問い掛けた。

「そういえば、まだ連絡ないな」

 セブルスもサクサクと食べながら首をかしげる。アカデミーを出たら、一度連絡が入るはずなのだが。

 学園ではなんとなく食事が質素になり、しばらくシャルロットがいないだけで元気までもいなくなってしまったようである。

 それはベルナーも一緒だったのか、珈琲を片手にしみじみと呟いたのであった。

「なにかあったんですかねぇ」





――その頃、空中都市マジックアカデミー 商業エリアでは


「うわーーーっ。また負けてもうたわ」

 商品の仕入れがあると言って宿を出たリラレと入れ代わりにルロロという商人が、ホテルの1室で子供達の対戦相手になっていた。

 以前、リラレと一緒に学園近くの街にやってきた商人である。目利きはリラレでないと難しいということで入れ替わったのだが、

「ルロロさん弱ーよ」

どうやら格闘ゲームの才能もないらしい。とりあえず、子供達が連戦連勝だったので。


 ルロロが一人で子供達の相手をしている理由。それはもうひとつある。

 つまり、この子供達の正式な保護者であるシャルロットとミカエリスの2人が不在であるからだ。


 ミカエリスはアカデミーに召喚されている。

 シャルロットは、「みかちゃんとなぜか連絡がつかないから、もしものときのために子供達と学園に帰る手配をしに行ってくるね」

と、勢い良く旅のお店である招き猫商会とは『逆の』方向へ去っていった。


 そんなわけで、子供達の面倒を一手に引き受けているわけだが、

「俺達ゴールデンスライムと戦ったんだぜ!」

「へええ!すごいなー」

「シックと俺なんかごっつい攻撃受けて気絶してよー」

「あ、お茶飲む?」

「おー、気ぃきくなぁ!サンキュー」

 彼らの冒険譚を聞いている姿を見る限り、どちらが世話されているのか分からない。

 けれど結構仲は良さそうなので、案外向いているかもしれない。本人には黙っているとして。




 外はいつも通りのにぎやかさだった。

「姉さん、今日はおいしい銀鯨の燻製が入ってるよ!」

 緑とサーモンピンクの縞々の屋根の魚屋さんが勢い良く声をかける。すると向かいの肉屋も負けじと

「金髪の兄さん、砂うさぎの骨付きフライが安いよ!」

揚げたてのフライのトレーを持ち上げて応じる。


 それに金髪のホビット、リラレは「またくるわー」と切り返しながら通り過ぎた。隣には可愛らしいピンク色の髪をした妖精をつれて。


 2人は商店街を通り抜け、セピア色をした街のちょっと外れにあるコーヒー店に入った。

 こぽこぽといい音をたてて、コーヒーがゆっくり抽出されている。

 店内に妖精の姿は無く、かわりに妖精の姿をしたジェルのようなものが沈黙のまま席を案内した。

 マホガニーの机に猫足の椅子。

 静かな雰囲気の店内で唯一聞こえるものといえば、小さく流れるジャズの音楽だけで、席も一つ一つ個室のように区切られているから話し声が聞こえることも無い。


「ここのギンガムケーキがうまいらしいで」

 メニューを見ながら金髪の青年が言うと、ピンク色の髪をした彼女は

「うーん、それも捨てがたいけど、今日は星蜜柑のコンポートがいいなぁ」

と呟いた。


 リラレは「それもうまそーやな」と相槌を打つと、慣れた手つきでサラサラと備え付けてあったメタリックブルーのペンを滑らせ、テーブルの番号がかかれている紙に注文内容を書き付けると、真横のブリキで出来たボックスに落とし込んだ。

 給仕に周ってきたジェル妖精がくねっとお辞儀(?)をして、その注文メモをカウンターのコルクボードにピンで留めるところを確認してから、シャルロットは少しレモンをたらした水を口に含んで話しはじめる。



「見張っているなんて、なんだか気持ちが悪いじゃない」

 みかちゃんがリロルに何か相談されて、アカデミーに向かったのは知っている。

 そして、彼は連絡を絶ったままだ。

「すまんなぁ」

 その相談内容は、この金髪の商人が知っている。

「一体何者なの?」

 なんだか何も知らされないところで動かされるのは実に気持ちが悪い。

 それが、自分に深くかかわりがあることであるなら尚更だ。

「半分察しはついてるんやろ?」

「商人じゃなくて、アカデミーの諜報部員だってことぐらいなら」


 アカデミーといっても只の学校ではない。

 この国においては政治も行っている機関のようなものだ。

 この世界に妖精国だけが存在するのでない限り、国を治めるに当たって一番重要なものは他国の情報になってくる。そこでアカデミーはこっそり優秀な人材を諜報部員として養成していた。

 商人なら世界各地を旅していてもおかしくない。まさにうってつけの隠れ蓑である。


「ビンゴ……といいたいけど、実はそれは1時間前までかなー」

「どういうこと?」

「つまり、1時間前までは俺はアカデミーの諜報部員だったってことだ」

 意味がわからない。シャルロットが首を傾げると、リラレは面白そうに話しはじめた。

「俺は“ある事件”のためにリロル共々アカデミーに召喚され、3つの任務を課せられた」


 ひとつは、ミカエリスをアカデミーに召喚すること。

 もうひとつは、シャルロットを見張ること。


「ミカエリスから都合よくリロルに依頼の電話がかかってきたとき、丁度俺達はどの役をとるか、酒場でアミダくじしてたんだ。ミカエリスを引き当てたリロルが、とっさにしばらくは自分だけで両方の任務が出来るからといって、俺は3つ目の任務につくことにした」


 三つ目の任務……それは

「シャルロットちゃんたちが連れてきた子供の能力を見ること」

「……」

「知ってたんやろ?。あの子ら普通じゃないってことくらい」


 只の子供の妖精にしては異常なくらいの魔力があるってことくらい。

 一体何者なんだろう?。

 シャルロットちゃんたちがアカデミーの門をくぐった時から、上部では噂になってたんだぜ?。

「もしかしたら“ある事件”と関係があるのではないかってことで、アカデミーは、子供達の見張りも一緒に任務につけたわけだ」


 そこまで話したところで、リン……と小さなベルが鳴って、ケーキとコーヒーが運ばれてくる。

 小さな砂糖の瓶とミルクを受け取って机の上に置きながら、シャルロットは話を促した。

「その事件って?」




「魔王復活」


 サラリと、普通の妖精なら仰天しそうな話を金髪の商人は、実にさらりと、コーヒーを飲みながら呟いた。

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