4 ☆3
そこには奇妙奇天烈な巨大粘土笛が5つ。
その横には逆光で黒い存在となった4名が、片手を斜め45度にあげての、ポーズを取って立っていた。ワンドは怪獣を勢いよく指さし、お決まりの台詞を口にした。
「ソプラノレッド見参!もう容赦しないぞ!」
まだ何もしていませんが。
「フ……表面積が大きくなれば壁の厚みは薄くなるはずでしょ。ちょろいね」
「くっ!なかなかやるな!ピンクがいない今では不利だ!でも俺たちは負けない!」
「セブルスの台詞とシックの台詞、むじゅんしてる」
ムスリナのやんわりしたツッコミも、念願のブラックの座を射止めた嬉しさで、シックの耳には届いていないようだ。
「行くぞ!皆!各縦笛を合体させるんだ!」
ワンドのかけ声によって、果てしなく必要性の不明な合体が始まった。
「「「「超縦笛合体!ホイホイッスル!」」」」
丘の上に立ち上がった4人が手をかざすと、さっきの粘土細工が合体というよりむしろ、
ぶつかり合って、
ただの土くれと
化した。
カラーリングが派手なだけに、何かの前衛芸術のようにも見えなくもないのだが、ここはジョイント失敗と素直に見るべきだろう。よく4人を見ればワンドの握りこぶしポーズがシックの顔面にヒットしたらしい。
しかし、残りの生徒たちは思いもかけぬビックリショーに大ウケし、やんややんやと声援を送っている。
怪獣ガムの持ち主も楽しそうだったので、シャルロットはとりあえず見守ることにした。どうなるのか興味津々といった顔なので、たぶん観客と心情的にはそう遠くなさそうだ。
ジョイントに失敗してしまった「ホイホイする!」……じゃなかった「ホイホイッスル!」はにょきにょきと形を変え始めた。
「やっぱり4人だと不完全で難しいな」
「……多分君が僕の顔面をパンチしなければ上手くいってたよ?」
「落ち着いて。まだチャンスはあるよ。あきらめたらそれで終わるの」
そして4人は再び同じポーズを取る。
「「「「超縦笛合体!ホイホイッスル!」」」」
変形してへろへろになった笛たちが一旦離れ、今度はきちんと背の高さに並んだかと思うと、ボキッボキッと音がして人型ロボットの形へと変形した。
さすがに二足歩行は厳しかったのか、4つんばいの状態であるが、倒れそうになったロボットが地に手足をついて顔を上げた瞬間歓声が上がった。
「おおおーー」
ヒーローの登場というのは、やはり違うらしい。
「ぶびょびょびょ~怪獣バイオラルいけ~!」
極限まで延びきったガムがフラフラしながら近づいていく。
いつの間にかすっかりフエレンジャー(キッズ)ショーと化していた。
「ね……ワンド。合体したのはいいけれど4人同時に操作したら分解しちゃわない???」
ヒーローは前足を動かしたり立ち上がろうとしたり大変なことになっている。
それにしてもフエレンの人気とは凄いものだ。皆手に汗を握り締めつつ夢中で見つめているのだから。ドキドキ頬を染めて目が釘付けになっている姿を見て、彼女はあたたかくなる胸に手を当てた。
あ、腕がもげた。
「あの、今どういう状態なの?」
「ロ○ットパンチが不発なんだな」
どうやら、4人で一斉に動かすのはあきらめて、1名が部品を飛ばす方式にしたらしい。方向性は悪くないが、攻撃は難しそうだ。
シックが直接もげた腕を拾いに走っている。
「「「ホイホイッスル、俺たちの力をお前に!!」」」
なぜだか観客席から片腕になった合体ロボ?に供給され始めた。
無駄に一つになった心のおかげで、
魔力が渦巻き、
緩やかに回転を始める。
ホイホイッスル!はゆっくりと立ち上がった。
ぷぺららぽらぺ~ぼふごふっぷぺれられ~などという力の抜ける効果音など観客の耳には入っていない。これからすごい必殺技が飛び出しそうな期待が胸にわく。
そして、ホイホイッスルは回転しながら、残った片腕を上方へと飛ばした。
空に暗雲が立ちこめ光の柱が舞い降りる。先ほどシックが拾った片腕のリコーダーがその手には収まっていた。
回転が速度を増し、全パーツがそろったロボは、
腕を前方に出し、遠心力で怪獣を一刀両断にした。
ぱぁんというガムの破裂音と、寄せ集めの魔力に耐えきれなくなったロボが爆散したのはほぼ同時。なんという割に合わない必殺技。
「はははははは!。どうだ!思い知ったか!」
「「打楽器かよっっ!!!」」
誰かのつっこみが、裏山をこだました。
―――限りなく自らを犠牲にして怪獣を止めたホイホイッスル
(この際怪獣が何もしていないことは別問題として……)
―――激弱のくせに必死のホイホイッスル
(やはり欠陥品だとしか思えない数々の機能は別問題として……)
―――もしかしたら、そんなホイホイッスル!に彼らは感動したのかもしれない。
などと無理矢理綺麗にまとめようとしたが上手く行かず、それでも夢中になれるものがあるならそれもいいか、と隣に座る小さなファンたちのファン魂を感じながら、彼女はしばらく空を見上げていた。
「……今日は楽しかったなぁ……」
ホイホイッスル!(の魂?)を乗せた雲が流れていく。
気がつけば授業時間はとっくに過ぎ去り、夕飯近くなってしまっていた。
思った以上に時間がかかってしまったが、とりあえずショーは大盛況のまま成功し、無事工作の時間は終わった。
急がないとベルナーが心配するだろうと思ったシャルロットは、魔法のじゅうたんを引っ張り出す。表地は青いビロードに星がちりばめられた夜空、裏地は金色の刺繍で風の属性と相性の良い魔法陣が縫い取られている。
「内緒よ?」
「「「「「はーーい!」」」」」
普段はなるべく使わないようにしているため、口元に人差し指をあてる。元気の良い返事が返ってきたが、きっとじゅうたんに乗ってしまえば忘却の彼方だろう。
なんとか乗せ終えると、じゅうたんがふわりと浮いた。
「すげー!」
ホイホイッスル!ショーでテンションが高い皆を乗せてじゅうたんは山を下りていく。実際にショーを繰り広げた4人は、疲れて寝てしまったようなので、シャルロットは彼らを抱きしめていた。
……優しい子達。きっと、授業が上手くいくように、楽しいように、失敗しても、無茶苦茶な展開でも……彼らなりの応援ショーだったのだ。
無性に可愛くなってしまって、優しく彼女が頭をなでると、小さな声が聞こえた。
「今度一緒に見てくれよな?」
「……うん、そうだね」
学園が見えてきた頃には夕方から薄闇へと変わっていた。
窓から漏れる明かりが柔らかくて、心が満たされた気分だった。




