Episode8 工場探索 2
ガシャンッ!!という窓ガラスの割れる音が辺りに響く。
「はぁはぁ、逃げないと」
そう呟く少女−長内は絶賛逃走中。急に消えた紅崎を捜していたら変な怪物とバッタリ遭遇し、逃げてるうちに迷子になってしまった。
(うぅ〜、私呪われてるよ)
ズカァンッ!!という壁が崩れる音がすぐ横から聞こえた。
「きゃっ」
粉塵が晴れると、そこには例の怪物がいた。それを見て長内は逃げ出そうとしたが、それは出来ずに座り込んでしまった。
原因は壁が崩れた時に飛んできた瓦礫だった。
(痛ぁ〜、瓦礫に躓いて脚を挫いたみたい)
これ以上逃げられない、と長内は悟る。
(私は……もう終わりかな………………)
当然こんな状況になれば弱気になってしまう。だからこんな事を考えてしまうのも自然であった。
(……でも……こんなところで終わりたくない!)
その想いが通じたのか分からないが、
パァンという乾いた音が聞こえた。
振り向くと一人の少女がいた。同年代のようだが、普通の少女ではなさそうだった。バイザーがあって顔はよく見えないが、二丁の拳銃を持ち、鎧を纏っていた。
その少女は発砲しながら、
「死にたくなかったら早く逃げなさい」
と長内に言った。その言葉に従い、痛みを堪えながら逃げていると紅崎が駆け寄って来るのが見えた。
紅崎が廃工場内に戻ると長内が倒れているのを見つけた。
「おい、大丈夫か?」
「うん、なんとかね」
意識はある。が、どうやら馬原達とはぐれた様子である。
「大丈夫、一人で歩けるよ」
と言って長内は立ち上がろうとするが、少しふらついている。怪我人に無理させる訳にはいかない。そう考えた紅崎は、
「少しじっとしてろ」
「ふぇっ!?ちょ、ちょっと悠一君!?」
「脚怪我してんだろ。運ぶよ」
「あぅ……ありがと……」
彼女を抱えた−−お姫様抱っこで。
が、運ぼうとしたところで彼の数メートル先にアルカナムが見えた。何故かボロボロの状態であったが。この状況での戦闘は避けたいところである。
すると、いきなり発砲音が聞こえた。音の出所を見れば、一人の少女が立っている。その少女は紅崎がアルカナムと闘った時と似たような鎧を纏い、剣の代わりに銃を持っていた。
『気をつけろ、悠一』
『なぁ、もしかしてあの子は?』
『恐らくコネクターだろう』
『なら、今はあの子に任せよう』
『その方が良いわね。私達もありがたいわ』
『ッ!?君は一体何者なんだ……?』
『詳しい話はまた今度。今は早く連れて行きなさい、悠一』
『……分かった。ありがとう』
ここはアルカナムを謎のコネクターに任せて紅崎達は逃げることにした。
外に出ると馬原達もいた。長内を降ろしたのは良いが、何故か顔が赤い。それに牧瀬は紅崎と長内を交互に見てニヤニヤしている。
「あらあら、愛しの悠一君に背負われてどうだったのかな〜?」
そして、爆弾を投下した。いきなりそのようなことを言われたら誰でも慌てる。当然、長内だって例外ではない。
「うぅ。からかわないでよ、玲奈さん」
「そうだぞ、玲奈。長内は怪我人なんだからあんまりからかうな」
慌てている長内と違って紅崎は至って冷静に牧瀬を咎めた。
「怪我って、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、軽い捻挫だから」
よく見れば脚は赤く腫れていて少し熱を持っている。この状態で帰るのは少しきついだろう。牧瀬も一目見て、
「確かここから一番近いのって、悠一の家よね。そこで治療した方が良いんじゃないかな?」
と提案した。その方が良いだろう。下手に動かせば脚が変になってしまう。が、先ほどから紅崎に迷惑をかけている長内にとってはこれ以上彼に頼るのは避けたいところ。だからこそ、
「ふぇっ!?……でも………迷惑じゃないかな?」
と聞いたが紅崎に、
「迷惑だったら最初っから助けねぇよ。さっさと行くぞ」
とあっさりと決められてしまった。決まった以上は従うしかない。
「あぅ……お願い………」
そう決めた長内は紅崎に抱えてもらった−−−再びお姫様抱っこで。それを見た馬原が後ろで「うらやましいぞ!!」と叫び、牧瀬にお仕置きされていたのを二人は見なかったことにした。