Epsode35 復讐の終わり
「我を失って闘う姫矢美咲をたった一言で立ち直らせる。これ程までの信頼関係とは………。ですが、何故彼女を助けるのですか?仮にも貴方の敵ですよ」
「関係ねえよ。人を護りたくてコネクターになったんだ。だから、美咲がコネクターであっても俺が護りたい想う人であることに変わりない」
「なるほど……利他的とは笑わせてくれますね」
「何とでも言え。俺が自分で選んだ道だ」
そう言い争いながらも互いに斬りあう。両者とも鎧などに亀裂が走っていて、どれ程の鬩ぎ合いだったのか窺える。
『悠一、このままでは……』
『分かっているさ、Emperor。今、新しい闘い方を思いついたところだ』
Emperorにそう告げると紅崎は新しいカードをスキャンする。
「Approve Justice」
その音声が鳴ると、持っていた剣が変化する。刃が剣先だけに付くようになり、そこから持ち手までは細い棒になる。
「ほう、先程までとは形状が違いますがそれでどうするのですか?」
「こうするんだよ!!」
そう言うと紅崎は思い切り振り抜く。
すると、棒の所々にあった節が外れて鎖に繋がれたまま、メーヤに向かって伸びた。
「なっ!?」
その光景にメーヤは反応できず、鞭のようにしなる剣に弾かれた。
『なるほど、Justiceの武器を自分の武器に組み込む、か』
『これならAce頼みだった遠距離攻撃にもバリエーションが出るだろ』
『ああ、悪くない』
Emperorとそんな会話をしていると飛ばされたメーヤが起き上がった。
「やってくれますね。まさかそのような方法で攻撃してくるとは」
「驚いてもらえて何よりだ」
憎まれ口を叩き、紅崎はメーヤに斬りかかる。
「馬鹿の一つ覚えみたく何度も突っ込んできてばかり………少しは他の方法を考えたらどうですか!!」
そう言って紅崎に向かって撃つが――。
「さっきまでと違って私と共闘中よ!!」
その銃弾を美咲が撃ち落とす。その間に紅崎は蛇腹剣でメーヤを縛り上げて、地面に叩きつける。その衝撃でメーヤは車輪を手放す。
「がっ、あっ!?っ、この舐めるなああああああ!!」
メーヤは激昂して紅崎に向かって車輪を投げつける。
それこそが紅崎達の待ち望んでいた事だった。今のメーヤにはもう武器が無い。その隙に攻め込む。それが紅崎達の策略だった。
「Approve Magician・Strength・Justice―Justi Breaker」
紅崎はコンボを発動させてメーヤに向かって駆け出す。メーヤは慌てて手元に車輪を取り寄せて盾にする。
「んなモノ、無駄だっ!!」
だが、紅崎はそれを物ともせずそのまま斬り裂く。車輪は紙のように引き裂かれ、メーヤは上へ跳ね上げられる。
そして、そこに美咲が止めを刺す。
「Approve High Priestess・The Chariot」
「散弾銃が駄目なら一点集中で攻撃するまでよ!!」
その言葉通りPriestessの力で急所をサーチし、Chariotで狙い撃つ。その作戦は見事に的中して、メーヤには封印の刻印が浮かぶ。
「何故………何故、私がこんな事に……?」
メーヤは自分の敗北が理解出来ないようで、混乱したままそのようなことを呟く。その呟きに対して二人の答えは、
「「お前の敗因はただ一つ、俺(私)達のコンビネーションを侮ったことだ(よ)」」
「そう……ですか………」
そう呟き、メーヤは目を閉じる。
それを見て紅崎は隠れながらもこちらを覗いている長内のところへ向かう。その意味を美咲は理解し、無地のカードを投げる。戻ってきたカードにはNo.10・Wheel of Fortuneと記されていた。
「凄い…………あれが、悠一君達のいる世界……なんだ」
戦闘の一部始終を見て、長内はそのような感想を呟く。やはり、自分とは居る世界が違うようで悲しみを感じる。
すると、紅崎がこちらへ近づいてきた。
「脚、大丈夫か?」
第一声は長内の脚を気遣う一言だった。その一言で自分の脚に注意が向くが、今は異常も無く思い通りに動く。
「大丈夫だよ。悠一君達がメーヤさんを倒してくれたから、心配してくれなくていいよ」
「そっか。長内が無事でよかったよ」
そう言って紅崎は隣に腰を下ろす。ここまで近づくのはあの時の事を思い出せばとても考えられるとは思えなかった。
「この前と違って俺はちゃんと長内を護れたのかな?」
「どうしてそんなことを聞くの?悠一君はちゃんと私を護ってくれたよ。もっと自信を持ちなよ」
「人を護りたくてコネクターになったけど、あの時はちゃんと長内達を護れているっていう気がしなくて、な」
自分の願いを叶えられずとても悔しい思いをした。だからこそ、自分の身を挺してでも長内を護ろうとした。
それは長内にとってとてもうれしい事だった。それと同時に申し訳ないという謝罪の念が募るものだった。
だからこそ――。
「その………ごめんなさい、悠一君」
ずっと言いたかった事を言った。元はといえば、自分が拒絶したから二人だけではなく周囲の皆も巻き込んで関係がギクシャクしたものになってしまった。その考えがあったから、長内は紅崎に謝った。
「何について謝るんだ?この前の件についてなら長内は何も悪くない。俺が皆に黙っていたことが原因なんだ」
「違うよ。悠一君は何も悪くない。悪いのは私だよ」
互いに自分が悪いといって譲らない。そんな不毛な争いに終止符を打ったのは美咲だった。
「それで、あなた達はいつまでそんな言い争いを続けるの?私達の用事はもう済んだわよ」
「ん?ああ、ごめん。じゃあ、もうこの件は水に流さないか?」
「うん、そう出来ればありがたいかな。それと美咲さん達もいろいろとアドバイスありがとうございました」
「気にしないで。だいだいこいつが悪いんだから」
「いや、その発想はおかしい」
互いに気が知れていているみたいで、その仲睦まじい光景を見て長内にある感情が芽生える。
長内は美咲に近づくと二人にしか聞こえない声で囁く。
「美咲さん、私、負けませんからね」
「えっ?何を言っているの?」
その言葉の意味が分からず美咲は混乱するが長内は気にせずに、
「帰ろう、悠一君」
そう言って長内は紅崎の腕を取る。紅崎は突然の事に成す術も無く言う通りに長内に着いて行く。
一人取り残された美咲は慌てて後を追いかけ、反対側の腕を取る。
『これは美咲には強烈なライバルの出現ね』
『だとしても貴殿のやる事は変わらないだろう?』
『当たり前よ、私達だって負けないもの』
そう会話するEmperorとEmpressには仲睦まじく三人で帰る紅崎達の姿が映っていた。




