Episode31 足りなかったモノ
「うぐぐ………駄目だ、眠い………」
なんとか遅刻ギリギリで学校には間に合った。そして放課後、紅崎は力尽きていた。
「大丈夫かよ、お前?」
「これで大丈夫に見えるなら、お前に行くことをお勧めするよ」
馬原の問いかけに対して、紅崎の返事はとても弱々しいものだった。
「最近、不審者が出現しているようなので出来るだけ集団で明るいうちに帰るように。聞いているのか、紅崎?」
「あぁ~………集団で不審者を暗い所に連れて行って撃退しろ、でしたか?」
「全然違う!!とにかく、自分から事件に巻き込まれないように」
青鬼も紅崎へ注意するのを諦め、生徒達に早く帰宅するように促し本日のHRは終了した。
「あの、玲奈さん!」
教室から出ようとしたところで、牧瀬は長内に呼び止められる。
「どうしたの、長内ちゃん?」
「あの、えーと、少し聞きたい事があるんです。出来れば………二人きりで」
「そう。なら、良い所があるわ」
長内の頼み事を聞いて、牧瀬はお気に入りの所へ案内する。
「その………ここって?」
牧瀬のお気に入りの場所に来て、長内は困惑する。
その場所は――。
「あなたが聞きたい事って悠一に関しての事でしょ。だったら、ここの方が良いんじゃない?」
先日、Priestessに襲われた公園だった。
「それで、聞きたい事って何かしら?」
「その……玲奈さんはどうして何事も無かったかのように過ごせるんですか?怖くないんですか?」
「怖い?どうしてそう思うの?」
牧瀬には長内の考えが理解出来なかった。少なくとも、彼女は長内のように怯えた様子は全くと言っていい程無かった。
「どうしてって………だって、あんな人外の怪物に襲われたんですよ!?それに、悠一君もいきなり変な姿になって闘いだしたんですよ!?それなのに………玲奈さんは何も感じないんですか!?」
長内の自身の思いを叫ぶような問いかけに対して、牧瀬の答えは――。
「確かにあれはちょっと驚いたわね。またあんなのに襲われるかもしれない。それでも、私はちっとも怖くなんかないわ」
だって、と言い牧瀬は続ける。
「あいつを見ていたらさ、そんな考えなんか吹き飛んじゃったのよ。あいつは他人の為に闘っている。
だから……私達があんなのに襲われたとしても、颯爽とヒーローのように駆けつけて来てくれると思うの」
牧瀬は紅崎を心から信頼していた。
たとえ自分がどんな危機に瀕しようとも、紅崎が助けてくれる。
その想いが自分には無かった、と長内は痛感する。
自分は彼を信じきれていなかったのではないか?
その自責の想いが長内を苦しめる。
「私は……悠一君を…………」
「大丈夫よ。あなたが自分を責める必要は無いわ」
自分を責める長内に対して、牧瀬はその必要は無いと言う。
「過ぎた事は忘れて、また新しく始めれば良いじゃない。あいつは私達を護る為に闘ってくれている。
だから、私達に出来る事はあいつに感謝の想いを伝えてあいつを支えることじゃない。自分から拒絶するんじゃなくて、歩み寄る。そうすれば、すぐに仲直り出来るわよ」
「そうですよね………私が信じてあげないといけないですよね。相談に乗ってくれてありがとうございました」
「気にしないで。私も自分の行いが間違ってなかったって事が再確認出来たんだから」
そう言って公園を去る二人には、迷いや不信感は消えていた。




