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Episode30 和解

 深夜、皆が寝静まった頃。紅崎に念話で呼び掛ける者がいた。


『ねぇ、悠一。今、起きているかしら?』


『う~ん、この声は………Empressか?』


『そうよ。美咲のところまでちょっと来てくれないかしら?』


『何かあったのか?』


『来れば分かるわ。ついでに濡らしたタオルを持ってきてちょうだい』


 Empressの指示に従って、濡らしたタオルを持って美咲が眠っている部屋を訪れる。


「失礼しまーす」


 自分の家で何をやっているんだ、と紅崎は自分の行動にツッコミを入れるが、今はEmpressの指示を優先する。


『Empress、何処にいる?』


『ここよ、ここ』


 その念話はベッドの近くから反応があった。目を凝らせば、脇においてあるテーブルの上に置いてあった。


『それで、こんな時間に呼び出して何の用だ?』


『あそこの眠り姫を見なさい』


 Empressに言われて美咲を見れば、苦しげにうなされていた。


「姫矢さん!?一体何が!?」


「静かに、美咲が起きちゃうわ。それと、あれはよくある事よ。対処法として有効だったのが美咲の手を握ることね。早く握ってあげなさい」


 Empressにせかされて手を握る。すると、荒かった美咲の呼吸が次第に収まっていった。

 紅崎は美咲の手を握ることで、ある事に気づく。

 美咲の手、いや身体全体が細く、儚げだった。そのような身体で今までコネクターとして闘ってきた事に、紅崎は驚愕する。

 そのように考えていると、美咲が小さな声で呟く。


「嫌だよ………行かないで、義兄(にい)さん。私を……一人にしないでよ。独りぼっちは嫌だよ……………」


 その声を聞き、紅崎は優しく美咲の頭を撫でる。

 ただひたすら、美咲を宥めるように。








「………そっか。私達、悠一の家に泊まったんだ」


 目が覚めて、美咲は自分が何処にいるのか再確認する。


「ええっ!!」

 

 ぼんやりしたまま横を向くと、そこには自分の手を握ったまま眠る紅崎の姿があった。


(お、お、お、落ち着きなさい、私!!昨夜は何も無かったはず。………それとも何かあったの!?)


 美咲が混乱していると、Empressが助け船を出した。


『落ち着きなさい、美咲。何も無かった………ような気が………』


『ちょっと待って、最後の溜めは何なの!?』


『大丈夫よ、あなたの考えているような事になっていないから。あなたがうなされていたのを宥めていただけよ』


 それを聞き、美咲はまた顔を赤くする。前々から発作のように起きていたが、まさか紅崎に知られることになるとは思いもしなかった。


「う、ん…………もう朝か」


 そうこうしているうちに、紅崎も目を覚ます。


「ちょっと、悠一!!変な事しなかったでしょうね!!」


 それを聞くと、紅崎は呆れたように溜め息を吐き、


「する訳ないだろ。それよりも、随分とうなされていたけど大丈夫なのか?」


「何か聞いたの!?」


「少しだけだよ。義兄さんとか…………」


「忘れなさい!!聞いた事全て忘れなさい!!」


 そう言って、美咲は紅崎に跳びかかる。が、運悪く紅崎が後ろに倒れてしまった為、第三者から見れば美咲が紅崎を押し倒しているように見えてしまう。

 そして運悪く、第三者――クローリーが来てしまった。


「なにやら騒がしいが…………美穂嬢の目に付かぬ所でやりなさい」


「「違うっ!!誤解だ(よ)!!」」


「分かっておるわ。からかっただけだ」


 そう言ってクローリーは笑いながら降りて行った。

 クローリーが行くと、二人とも深呼吸して落ち着く。紅崎もクローリーを追って下に降りようとしたが、立ち止まって振り替える。

 そして――。


「その…………姫矢さんがここに居たければ、ずっと居てくれても構わないよ」


「えっ!?どうして?」


「独りぼっちは嫌だ、っていうのが頭から離れなくてさ。こんな俺でも隣で支えるくらいは出来るから…………」


「そう………ありがと、感謝はしておくわ。それよりも、その『姫矢さん』っていう呼び方は止めてくれない?美穂も同じだから紛らわしいわ」


「とか言っといて、本当は呼び捨ての美穂が羨ま――あっ、ちょっ、待って美咲!!痛いから!!そっちには曲がらないって!!」


「あんたは黙ってなさい!!余計な事を言わないで!!」


「う~ん、どう呼べば良いかな?」


「美咲でいいわよ。『さん』とかもいらない。呼び捨てにしなさい」


「了解、姫…………美咲」


「最初は慣れてないから許してあげるわ。それよりも、何か言いたい事でもあるの、Empress?」


「ねぇ、悠一。時間は大丈夫なの?もう8時を過ぎているけど?」


 その一言で、紅崎は時計を見る。


「遅刻だあぁぁぁぁぁぁ!!」


 即座に家を飛び出し、学校へ駆け出す。


「バカな奴。でも………あいつは……………」


 美咲の呟きは近くにいたEmpressにも聞こえないほど小さな呟きだったが、彼女の想いがしっかりと籠っていた。

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