Episode27 災禍の札
「Approve Chariot」
その音声と共に美咲の持つ銃から大量の銃弾が放たれ、Hierophantのコネクターへ向かう。
だが。
「Approve Hanged Man」
男がカードをスキャンすると、男の前にHanged Manが立ち塞がり、男を銃弾から護る。
「面倒ね、あのHanged Manとか言うの」
「まったくよ、あれのせいでこっちの攻撃が全く通らないんだから」
こちらの攻撃を全てHanged Manに防がれていることに、美咲達は苛立つ。そんな美咲達に対して、男は煽るように語りかける。
「先程までの威勢はどうした。まさか、Empressの力はこの程度か?」
その言葉は更に美咲達を苛立たせる。
「舐めないで、Empressの力はこんなものじゃない!!」
そう言うと、美咲は新たにカードをスキャンする。
「Approve High Priestess」
その音声が流れると美咲は大きく飛び跳ね、空から銃撃する。
「馬鹿が。何度やっても−−うぐっ!?」
呆れたように男はその方向にHanged Manを発動させたが、今度は防ぎきれなかった。その事に一瞬驚愕したが、すぐに原因を解析した。
「まさか、お前!?」
「そうよ。Priestessの正位置−−知性と洞察力を利用したの。その厄介な盾の弱点はただ一つ。吊している縄には盾の機能が無いことよ!!」
Hanged Manの欠点を指摘されて、男は押し黙る。
が、次の瞬間には不敵に笑い出した。
「なるほど、ムカつくな。ちょっと痛い目にあってもらおうか」
その呟きと同時に、美咲の横から黒い影が突進してきた。とっさの事に美咲は防御出来ずに、弾き飛ばされて壁に衝突する。
「あっ、ぐっ!?」
衝突した時の衝撃で体内の空気を吐き出してしまい、一瞬呼吸が出来なくなる。
「かはっ、げほっ、はぁはぁ……」
呼吸を整えていると、美穂が泣きそうな表情でこちらに近づいて来ようとしたが、
「邪魔だな。消せ、Devil」
男によって召喚されたNo.15・The Devilが美穂に向かう。
「来ちゃ駄目、美穂!!」
美咲の制止の声も虚しく、Devilは美穂を斬り裂こうとし−−。
ギィン!!と。金属がぶつかり合う音が辺りに響いた。
それは、Devilの持つ剣と美穂の目の前に差し出された鎌がぶつかり合った為だった。
その鎌の持ち主はローブを纏い、フードで素顔が見えないまま美穂に、
「早く貴女の姉のところへ行きなさい」
と優しく語りかける。声の様子から女性のようである。
「誰だ、お前?」
男の問いかけに対してその女性は何も答えずに斬りかかった。男はそれを避けると舌打ちし、
「やれ、Devil」
自分に仕えるものに攻撃させた。
だが。
「Devil如きが私に敵うと思わないことね」
その言葉と共にDevilを鎌で斬り裂く。
すると、Devilは苦しみながら消滅し、男の下にカードとなって戻った。
それを見て男はある事に気付く。
「お前………人間ではないな」
その言葉を聞き、ローブの女は微笑む。
「あら、よく分かったじゃない。褒めてあげるわ」
「そんな事はどうでもいい。お前の正体を教えろ」
「私の正体?知らない方が身の為よ」
彼女の言葉は、この場にいる者達に理解出来るなかった。
「その言い方だと、あなたの正体を知った者には何かあったようね?」
「えぇ。私の正体を知った者は皆消えて貰ったわ。喋られると、いろいろと困る事になるからね」
彼女の喋り方は殺すことに躊躇いを感じなかった。その事に、美咲は若干の危機感を感じる。
「まぁ、今更隠し通すのも面倒ね。貴女には特別に教えてあげるわ」
そう呟くと同時に、ローブの女を中心にして風が吹き荒れる。
その光景を目の当たりにして、Empressはある存在を思い出す。
「まさか、あんたは!?」
「我、歓喜。捜し者、見つけた」
Hierophantは嵐が収まり、中心に立っていた者を見て歓喜した。
その者は−−。
「ははっ、なるほど。お前だったのか。災禍の札」
「えぇ、そうよ。でも、その呼び名はあまり好きじゃないわね。
私にはNo.13・Deathという正式名称があるんだから」
アルカナムの中でも、全ての者に災いをもたらすとして恐れられている存在−−No.13・Deathだった。
「あれが………Death」
「そうよ。まさか、この局面で来るとは思わなかったわ………」
呆然として、そう呟くことしか出来ない美咲達に対してDeathは、
「は〜い、久しぶりね、Empress。元気にしていたかしら?」
「えぇ、あんたに会うまでは、ね……」
明るい声色で語りかけてくるDeathに対して、Empressは嫌味たっぷりに返答する。
「よく分からんが、邪魔する者は全て叩き潰すまでのこと。罪人は吊されていろ!!」
「Approve Hanged Man」
スキャンされたカード−−Hanged Manによって、美咲は空中で逆さまに吊される。
だが、Deathが鎌を一振りすると、その状態は解除された。
「忌ま忌ましいな、その鎌」
「この子−−スコーピスの特性は生命力の削除。Hanged Manなんか使っても、この子の前では無意味よ」
Deathの自信の源はスコーピスだけではない、と美咲は感じる。少なくとも、さっきまで着ていたローブはあれ程激しい戦闘でも全く傷ついていなかった。
目の前の存在に不気味さを感じているとDeathが振り向いて、
「早く逃げなさい。これ以上貴女がここに居ても無駄よ」
その言葉に美咲は怒りを感じたが、Empressが抑える。
「何で止めるの、Empress。私はまだ闘えるわ!!」
「確かにあなたはまだ普通のアルカナム相手なら十分に闘える。けど、Deathは違うわ。あいつに戦闘なんて概念は存在しない。在るのは一方的な虐殺だけ。
幸いにも、あいつは私達を助けてくれると言っているわ。だったら、私達に出来ることはあいつの厚意に甘えて、Hierophant達から逃げるだけよ。あなたはようやく美穂を救えたんでしょ。それなら、こんなところで簡単に死んじゃ駄目よ」
「………………、分かったわ」
Empressの説得で、美咲は戦闘に介入することを思い止まる。
「Deathの厚意に甘えて、ここは引かせて貰う。けど、勘違いしないで。私は一度身を引くだけ。次は必ずあなた達を倒すわ、Hierophant」
「出来るものなら、な。期待はしておく」
「逃げるなら、紅崎悠一の所へ行きなさい。あそこにはクローリーがいる。その怪我も治療して貰えるわ」
立ち去ろうとする美咲に、Deathは小声で伝える。
「っ!?どうしてその事を!?あなたは一体何者なの?」
「謎の多い女って魅力的じゃない?早く行きなさい。あぁ、安心して。悠一の家を襲うつもりはないわ」
美咲の質問に答えず、Deathは言いたい事だけ伝えると、Hierophantに向かって駆け出す。
「行くわよ、美穂」
「えっ!?でも、あのヒトは?」
「あのヒトは強いから大丈夫。ここに居たら危ないから、安全な場所に行くわよ」
そう言って美咲達は逃げ出す。自分達の力が全く通用しなかった事に対して、悔しさを噛み締めながら。




