Episode16 邂逅
病院に行く道で紅崎とEmperorは互いの無事を確かめる。
『なんか随分と手を煩わせたみたいで悪かったな』
そう言う紅崎の心は罪悪感でいっぱいだった。自分が不甲斐無かったからこのような事になってしまった。
だが、Emperorも同じ心境であった。己の判断ミスで紅崎をこのような状態にしてしまった。己のコネクターのサポートも出来ないようではアルカナム失格だな、と心のうちで自嘲する。
『気にするな。あれは私の判断ミスだ。あのような状態でJusticeの力を使いこなせる筈がない。それに気づかずに使わせてしまった私の責任だ』
『それは違うな。Emperorは何も悪くない。全ては俺があの力に耐えられない程の弱いコネクターだったからだろ』
『いや、そうではない。私の責任だ』
『違う!!俺が弱かったからだ!!』
互いに自分の責任だと言い張り、埒が明かない。
『………もう止めだ。これ以上続けても話は平行線に終わるだけだな』
『そうだな。とにかく治療については気にするな』
『あぁ、ありがとな。そう言ってもらうだけで気が休まるよ』
議論も終わったことだし早く病院に行こう、と考え紅崎達は病院へ向かった。
結果から言ってみれば、紅崎は健康体だった。全身打撲等の怪我もEmperorの治療が比較的早い段階で行われた為、大事には至らなかった。
無事だったという事もあり、安心した様子で歩く紅崎。
そんな時、車椅子に乗りながら自動販売機に必死に手を伸ばす一人の少女の姿が彼の目に止まった。見たところ、少女が飲みたいジュースは一番上の列に並んでいるようで、とても彼女の手が届くとは思えなかった。
その様子にEmperorも気づいたのか、
『まさかとは思うが、手助けする気か?』
Emperorの疑問に対して紅崎は当然だ、とてもでも言うように答える。
『何だよ、駄目なのか?』
『そうではない。まったく、お前はお人よし過ぎないか?』
『馬鹿言え、俺には似合わない言葉だ。俺は他人に甘いだけだよ』
『はぁ、そうかい。それならば、悠一のやりたいようにやればいい』
『あぁ、そうさせてもらうよ』
そう言うと紅崎は件の少女に近づき、
「手、届かないだろ。手伝おうか?」
その声にビクリと身体を震わせ、少女は恐る恐る振り返る。だが、紅崎を見て危険な人物ではないと判断したのか、
「あっ、はい。その………お願いします」
「このジュースでいいのかな?」
「はい。って、いいですよ!!私、ちゃんとお金持っていますから!!」
「いいって。ほら、これ」
少女の制止も聞かずに紅崎は自分の財布からお金を出してジュースを買い、少女に渡した。最初は少女も戸惑っていたが、遠慮せずに飲むことにした。
そうして会話をしているうちに様々な事を聞いた。
少女は身体が徐々に動かなくなる神経麻痺で、今の医療技術で完治させるのはとても難しい難病であるという事。
また、その難病だった人は他にもいて、どのようにしたのかは不明だが治療してくれたヒトがいるという事。
そして、そのヒトを捜す為に姉や知り合いの人達が頑張っているという事。
「そっか。君もいろいろと大変なんだな」
「私よりもお姉ちゃんの方が大変だと思いますよ。お姉ちゃんは毎日のようにお見舞いに来てくれますから」
「家族…………か」
自分に優しくしてくれる家族がいる。それは紅崎にとってみれば羨ましいものだった。物心がついた時には既に家族と言える者はいなかった。残されたのは自宅と遺産だけ。
だが、紅崎は家族がいない事を寂しいと感じなかった。両親と交友のあった長内家の両親が親代わりになってくれた為である。
そんな彼も高校生になったので、自宅に戻り一人暮らしを始めた。最初は少し孤独による寂しさがあったが、最近はそうでもないと考えている。
(やれやれ、いつの間にか相棒が出来て一人じゃなくなったな)
そんな事を考えていると隣に座っていた少女が突然立ち上がり、
「お姉ちゃんっ!」
と叫んだ。叫んだ方向を見れば、
「美穂っ!」
という声が聞こえ、自分と同じくらいの年齢の少女が駆け寄ってきた。
が、紅崎は駆け寄ってきた少女がよく見えると驚愕し、また駆け寄ってきた少女も美穂と呼ばれる少女の隣に座る人物を見て驚愕した。
何故なら−−−。
「嘘………だろ……………」
「何で……あなたが此処に…………」
その少女は昨日、互いに譲れないモノを賭けて闘った相手−−−姫矢美咲だった。
という事で美咲との再会でした。
さて、紅崎は美咲とどうなるのか。次回もお楽しみに。