序章 第一話 羽ばたけない…
『人は飛べると思うか?』
僕はいつかに言われたその言葉を思い出す。
『翼のない僕らは飛べるわけないだろ…』
なにも好きになれなくて、心を閉ざしていたあの頃。
『そうだな、飛べないかもな…。だけど、無理だと思ってたらいつまでたっても飛びたてないさ』
僕は思った…
『君は知らないだけだ。空の飛び方を…』
翼はない。だけど…
『なら、教えてくれ。空の飛び方ってやつを』
見上げてるだけなのはもう嫌だ、と。
日の眩しい光に顔をしかめながら屋上へと出た。
そこは茜に染まり別世界のようにも感じてしまう。
誰もいないことを確認して僕はそのままフェンス越しに行きひとり茜に染まる街を見下ろす。
どうしてこんなとこに来たのかというと、気持ちを落ち着けたかったからだ。いつも嫌なことがあるとここへきては屋上からこの景色を見下ろして気を紛らわしているのだ。
ふと空を見上げるとそこには何匹かの鳥が羽ばたいていた。
「僕も…羽ばたきたいな…」
気を紛らわすどころかなんだかもっと深く考えるようになってしまっていた。
はぁ。と深くため息をつき茜の街を眺める。
「そんな深〜いため息をついちゃうと幸せ逃げちゃうぞ?」
「えっ?」
「こんにちは♪」
いつの間にか僕の隣りに女の子がひとり、僕と同じように街を見下ろしていた。
にこりと可愛い笑顔を僕に向けてくる。
というか、可愛いなぁ…
髪はセミロングでサイドポニーにしていて身長は僕が大きいのか彼女が小さいのかそれともその両方なのか、分からないがかなりちっこい。100人アンケートをとっても間違いなく9割以上が小学生と答えるだろう。いきなり話しかけてくるあたり見た目と同様、とっつきやすい性格なのだと感じさせた、
あまり人とコミュニケーションをとらない僕としたら女の子と二人というシチュエーションはなんとも辛いな…
「なんかね、ここの景色わたし好きなんだぁ。なんかね、空を見上げるのって気持ちいいよね?」
女の子は茜の街から僕へ顔を向けて話しかけてくる。なんだ…返答待ち、なのか?
「そうか、俺は見上げてるだけなんて嫌だ…」
言っている意味が分からない、といった感じに彼女は首をかしげる。
「まぁ気にしないでくれ。ただの戯れ言だからさ」
「あなたは、飛びたいの?」
「いや、もう僕は地に堕ちた。いまさら羽ばたけないよ」
「………」
「きみ、名前は?」
「澪だよっ。笹川 澪≪ささがわ みお≫!今は小学6年生で特技はバスケだよぉ」
どうして小学生が僕が通う高校にいるのかというと、ここ澄川学園は小学校から大学までエスカレーター式の学校でそれなりの進学校だからだ。
そうか、小学生か…
僕は唇を軽く噛みバスケという言葉を聞き入れる。
「そうか…。頑張れよ」
「篠崎先輩もバスケ、やりましょうよっ」
無邪気でそれでいてしっかりとした目で僕を見つめてくる。
この子、僕のことを知っているのか?
「わたし、先輩のこと知ってます。だけど、このままでいないで…」
「僕はもうバスケはやめたんだ。僕を知っているならわかるはずだろ? もう羽ばたけない…」
「………っ。明日も、ここで待ってます。先輩、必ず来てください」
僕はその言葉には応えずそのまま屋上から出て行った。
だけど、もう無理なんだよ…。
僕はもう羽ばたけない…
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