砂時計の惑星
惑星終末まで、残り280年。
中央評議会の最終宣言は、その一文だけで構成されていた。
地殻冷却の停止、磁場崩壊、恒星風暴露率の上昇。
理論値と実測値は誤差範囲内で一致し、この星が回復不可能であることを示している。
外惑星移民計画は進行中だが、輸送能力には限界がある。
月に一度の移民船が飛び立つたび、友人が、知人が、一人、また一人と消えていった。
人口は著しく減少し、惑星上の人類は統計的に消失過程に入った。
私は観測員として、地表データの最終取得に従事している。
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幼馴染は、星系外探査船団のクルーに選抜された。
17歳。
適性検査、耐放射線適応、長期低重力試験、どれも平均を大きく上回っていた。
「ウラシマ効果で時間がずれるだろう?」
出発前、格納庫で彼は言った。
光速航行に近い巡航速度。
帰還時、惑星側では数百年が経過する。
この惑星は、彼を迎える未来を持たない。
それでも彼は行くことを選んだ。
滅びゆく星にしがみつくより、未来の可能性に賭けるため。
出発当日、私は観測ドームから彼を見送った。
直接会うことは許されなかった。
感染リスクと心理的負担を最小化するため、クルーには隔離規定が設けられている。
通信越しの彼は、いつもどおりの顔で笑っていた。
「もしさ」
「生存可能な環境を見つけたら、そこが人類の次の橋頭保になる」
彼の声は震えていなかった。
それが、却って胸に刺さった。
「だから、無理に還らなくてもいいんだよな?」
私は、一拍遅れて、肯定信号を送った。
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探査船は恒星間加速に入り、通信は途絶えた。
彼の時間は、ほとんど進まない。
こちらの時間だけが、容赦なく前に進む。
私は惑星の最期を記録し続けている。
大気密度の低下曲線、海洋蒸発率、生物圏の縮退。
私は、この星で年を取った。
夜、星図を開くと、彼の航路が表示される。
光円錐の外側へ、ゆっくりと遠ざかってゆく線。
私は観測ドームの縁に腰かけて夜空を見上げる。
薄くなった大気の向こうに星々が瞬いている。
また逢いたい、と思う。
だが、再会は必ずしも最適解ではない。
もし、彼が、探査先で安定した磁場と大気を持つ惑星を発見し、
そこで大人になり、幸せな一生を送れるなら。
この星は、彼の記憶の中にだけ残ればいい。
私は、滅びゆく惑星の観測者として。
彼は、未来を生きる探査者として。
あなたは今、どんな空を見ていますか。




