余白
部屋の中は、静かだった。
時計の音が、一定の速度で続いている。
蛍光灯の白い光が、壁に淡い影を落としていた。
机の上にはノートが一冊。
ページの端がわずかに波打ち、紙の繊維が柔らかくほどけている。
カーテンの隙間から、風が入る。
その流れに合わせて、ページが一枚だけめくれた。
音は小さく、けれど確かに響いた。
誰もいないはずの部屋の中で、
空気だけが、何かを覚えているようだった。
外では光が動いている。
雲の形が変わり、道を歩く人の影が伸びていく。
遠くから笑い声が聞こえ、
それが窓の隙間をすり抜けて、部屋に届いた。
その音に反応するように、
机の上のマグカップがわずかに揺れた。
中には何も入っていない。
けれど、その底に残る輪の跡が、
時間の形を残していた。
風が止む。
ページも、影も、音も、静かになる。
それでも光だけは動いていた。
壁の上を、床の上を、ゆっくりと移動していく。
やがて、
光は部屋の中央を抜けて、
誰もいない椅子の脚を照らした。
そこにはもう、形も声もない。
けれど、確かに“いた”という記憶だけが、
空気の中に、淡く残っていた。
そしてまた、静寂が戻る。
時計の音が、一定の速度で続いている。




