光の方へ
朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。
部屋の空気は少し冷たく、夜の名残をまだ残している。
机の上には、開いたままのノート。
ページの端が波打っていた。
指でそっと触れると、かすかにざらついた。
髪を結ぼうとして、ゴムが見当たらなかった。
昨日まで机の上にあったはずだ。
探すのをやめて、指先で髪をまとめる。
その感触の中に、何か柔らかい記憶が混じっていた。
息をひとつ、静かに吐く。
ドアノブを回す。
わずかな音が、部屋の中に残った。
湯を沸かす音も、時計の音もない。
代わりに、朝の外気が足もとを撫でていった。
廊下を歩く。
靴の音が、遠くの方へ吸い込まれていく。
部屋を出た瞬間、背中に光が触れた。
少しだけまぶしくて、目を細める。
何かが終わった気もしたし、始まった気もした。
駅までの道を歩く。
風が頬を撫で、髪がほどける。
そのまま、まとめ直さずに歩いた。
通りの向こうで誰かが笑っている。
遠くの音が、少しずつ混ざり合っていく。
信号が青に変わる。
立ち止まらずに渡る。
影が足もとをすり抜けていく。
あの部屋のことを思い出しかけて、やめた。
息を吸う。
空気の中に光が満ちていた。
目を閉じる。
瞼の裏にも、光の方へ向かう道が見えた。




