100%マリアージュ・番外編
『100%マリアージュ』本編完結後の、未来のお話です。
こちらは暁視点となっております。本編のネタバレはありません。
鳳城家の次期当主として、暁は多忙な毎日を送っている。
会社が都内にあるため、平日は都内のマンションで過ごし、週末には必ず本邸に戻って、新妻の絵留と休日を過ごす。
今までは、仕事が忙しければ週末に帰ることもなかったけど、結婚してからは変わった。
どんなに忙しくても、金曜の夕方には会社を出て帰宅する。
終わらなかった仕事は家に持ち帰り、休日のどこかでサッと済ませることもあった。
しかし土曜日の今日、どうしても外せないオンライン会議が入ってしまった。
仕方なく、その時間だけ仕事をする羽目になる。
そのことを絵留に謝ると、すんなり頷いてくれた。
「お仕事? いいよ。おやつは一緒に食べられるんだよね?」
「うん。おやつの時間には終わるから……ごめんね」
「大丈夫だよ」
始めの頃はよく寂しがってくれたけど、最近は慣れてきたのか「待ってるね」と笑顔で返してくれる。
機嫌を損ねられるよりずっといいけど、あっさり許されるのも、ちょっと寂しい。
……でも、おやつの時間までに終わらなかったら、拗ねて口きいてくれないだろうな。
絵留との約束を破ったことはないが、恐ろしいことになりそうなので、気を引き締めた。
そんなわけで、三時のおやつまで、それぞれの部屋で過ごした。
オンライン会議は長引きそうになったが、暁は強制的に打ち切って終わらせる。
その後は、急いで絵留の部屋に向かった。
暁の部屋から北側へ向かって二つ目の部屋が、絵留の自室だ。「ERU」のプレートがかかったドアを、三回ノックした。
「絵留、入ってもいい?」
わりと大きな声で呼びかけたのだが、返事はない。
そこで、もう三回、ノックしてみた。
「絵留? 入るよ?」
ドアに耳を寄せて確認するが、やはり何の音もしない。
スケッチしてるのか?
絵留はお絵かきを始めると、集中するあまり、声を掛けても気付かない。
暁はゆっくりドアを開けて、中に入った。
……寝てる?
ベッドの上で、絵留が横向きに眠っていた。もう冬が近いので、長袖のシャツとニットを着ている。
絵留は眠っていたけど、その腕には、テディベアのクッキーを抱いていた。
「絵留?」
足音を忍ばせて、ベッドに近づく。
元々長かった黒髪は、この数ヶ月でさらに伸びた。フワフワしてツヤもあり、暁のお気に入りの髪だ。
絵留は男の子だけど、可愛い物が好きなので、正直レディース物を着せてもよく似合う。髪が長ければなおさらだ。
肌もすべすべだし、顔立ちも幼い。
子どもみたいにクリクリした瞳を輝かせて、あどけなく笑いかける姿が、たまらなく愛おしく感じる。
ああ……寝顔も可愛いな。
暁がいない日も、こんなふうに昼寝をするのだろうか。
想像すると、可愛らしくて笑みが浮かんだ。
「絵留、おやつだよ」
呼びかけてみたが、目を覚まさない。
代わりに、クッキーが暁を見てニッコリ笑っていた。
「いつも絵留を守ってくれて、ありがとな」
暁は、そっとクッキーの頭を撫でる。
絵留とは離れて暮らしているから、その間、クッキーが絵留の寂しさを埋めてくれる。
暁にとっては、ありがたい存在だ。
クッキーの頭を十分に撫でた後は、絵留の肩を揺すって起こした。
「絵留、起きて」
「……」
「絵留っ」
強めに肩を揺さぶると、やっと瞼を開ける。
「ん~、なにぃ?」
「絵留、おやつの時間だよ」
「おやつ……あ、おやつ!」
絵留が目を瞬かせて、パッと笑顔になる。
「あ、暁! もうおやつ?」
「そうだよ。食堂に行こう」
「うんっ!」
絵留はベッドから起き上がって、クッキーの頭を撫でる。
「クッキー、今からおやつだって~」
嬉しそうな絵留に、クッキーもニコニコ笑っている。
その様子が可愛くて、暁は絵留の頭を撫でた。
「楽しみだね、絵留」
「うん! 今日は何かな!?」
「絵留の好きな、アップルパイじゃないかな」
「アップルパイ!!」
絵留の目が輝いた。
「俺も好きなおやつだよ。楽しみだね」
「うん! 早く行こう!」
絵留はぴょんとベッドから降りて、暁を急かす。
ベッドに座ったクッキーは「いってらっしゃい」と見送ってくれる。
ニコニコしてる絵留と手を繋いで、仲良く食堂へ向かった。
(終)




