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新学期 2

 一方、千紗は、友人の山田奈緒の家に向かって、いつもの通学路を走っていた。あまりに一気にパンを飲み込んだせいか、胸のところでつかえている。走りながら胸をとんとんと叩くと、パンの塊は、気持ちよくすっと千紗の胃袋の中に落ちていった。すっきりした体で、一気に坂を走り下りると、すぐ先の一軒家の前で、いつものように、山田奈緒が千紗を待っていた。


「ごめ~ん、山ちゃん、お待たせ」

「ぎりぎりだから、このまま走るよ、ゴンちゃん」

「うん」

 制服のスカートを翻し、二人は、並んで走り出す。晴れの日も雨の日も風の日も、二人は必ずこうして待ち合わせて、一緒に学校へ行く。


 行きはたいてい、千紗の寝坊のせいで、ろくに口も聞かずに学校までダッシュなのだが、山田奈緒は、一度もそのことで怒った事がなかった。だから、千紗はいつも心の中でこう思うのだ。あたしたちの友情は、山ちゃんの辛抱強さによるところが、大きいことよのぉと。これではいけない、自分が奈緒に甘えてばかりではいけないと良く分かっているのだが、どうしても、朝、起きられない千紗だ。


 春の柔らかな日差しに照らされて、街には、薄桃色が溢れている。四月に入って急に暖かな日が続き、この数日で、桜が一気に開花したのだ。日当たりの良い場所では、花が散り始め、それを追う様に、新緑の緑がぐんぐん芽を伸ばしている。


 それらの景色を横目で見ながら、千紗は、ああ、いよいよあたしは、今日から三年生なんだと、改めて思った。今日から始まる新しい一年が、どんな年になるのか、まだ想像もつかないけれど、でも、いいことがたくさんありますように。千紗は、ちょっとだけ本気で神様にお願いをする。


 はらはらと桜の花びらが舞う中、学校へと急ぐ二人の頭の中は、新しいクラスのことで一杯だ。きっと校庭にはもう、新しいクラスの名簿が、でかでかと張り出されているだろう。そのことを思うと、自然と口数も少なくなる。

「ゴンちゃんとあたし、今年もクラス分けられちゃうんだろうね」

 言葉少なく、山田奈緒が言った。

「う~ん、その可能性は高いね」

少し考えてから、千紗が答えた。


 中学生になって、千紗と奈緒は、一度も同じクラスになったことがなかった。それを思えば、今年こそ同じクラスになっても良いと思うのだが、不思議なことに、学校というところは、すでに仲良くなっている生徒同士は、同じクラスにならなかった。どうしてわかるのだろう、いつ見ていたのだろうと思うのだが、教師というのは、案外良く生徒を観察しているらしく、そこのところは、本当に抜かりがなかった。


 それにしても、あたしと菊池は、同じクラスになれるだろうか。学校の先生たちが、ついうっかり、あたしと菊池のことを、同じクラスにしてくれないかな。教師だって人間、たまにはミスもするだろうし。


 校門を通り抜け、校庭に一歩踏み出した途端、千紗の心臓は、ドドンドドンと祭太鼓みたいに、派手に鳴り出した。遥か向こう、校舎前の掲示板に、でかでかと張り出された、クラス分けの白い模造紙が見えたからだ。見えた途端、千紗も奈緒も、物も言わずに駆け出した。縦長の校庭を一気に駆け抜け、掲示板の前に走りこむ。




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