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保健室

 理沙を、持ち上げなきゃ。足を踏ん張って、持ち上げる最初の一瞬に、全身の力をこめるんだ。でも、あれ? うまく体に力が入らない。体って、どこから力を入れるんだっけ? そもそも、体に力を入れるには、どうすればいいのか思い出せない。というより、これって現実? もしかして夢?


 次の瞬間、千紗の目に飛び込んで来たのは、真っ白な天井だった。ここは、どこだろう。白いついたて、消毒液のにおい、壁掛け時計のカチカチという音。少したって、やっと千紗は、自分が保健室のベッドの上に寝ていることを理解した。


「ゴンちゃん、目、覚めた?」

身じろぎをする物音を聞いたのか、白いついたての向こうから、山田奈緒が顔を出した。

「山ちゃん。あたし、どうしちゃったの?」

「ゴンちゃん、体育の時間に、貧血起こして倒れちゃったんだよ。中西さんが、保健室まで担いで連れてきたの。それでね、あたしに知らせてくれたのよ」


「やっぱり、あたし倒れたんだ。生まれて初めてだよ」

千紗が、ちょっとばかり嬉しいような気持ちもしながらそういうと、

「中西さん、自分のせいでゴンちゃんが倒れたんじゃないかって、すごく心配してた。無理をさせてたんじゃないかって」

「違うよ。そうじゃないんだ。だってあたし、ランニング終わった時に、もう気分が悪かったんだもん。すごく暑くて、日差しがきつくて…」


「うん。だから、あたしも中西さんにそう言っておいた。今日は、急に暑くなったから、それでゴンちゃんは、ばてたんだと思うって。でも、彼女、自分のせいじゃないかって、自分を責めてね」

「違う、違う。全然違う」

「やっぱり、柔軟は先生とする方がいいかもしれないなんて言うから、もしそんなことしたら、ゴンちゃんきっとがっかりするから、絶対にやめてねって言っておいた」

「そうだよ。その通りだよ。馬場猪木コンビは永遠だよ。次の体育でも、あたし絶対に中ちゃんと柔軟やるよ。次はばっちりもちあげるさ。ところで、今、何時? 山ちゃん、ここにいていいの?」


「うん、いいの。先生に頼んで、五時間目、抜けさせてもらっちゃった。うちちょうど、田坂先生の保健の授業だったから。それより、ゴンちゃん、気分どう? お昼ごはん、食べられる?」

「もう、大丈夫。起きられそうだし」

そういって、ゆっくりと上半身を起こすと、奈緒は、枕をずらして、千紗がベッドに寄りかかりやすいように直してくれた。


「それなら、よかった。あのね、田坂先生が、特別よって、ゴンちゃんにスポーツドリンクとお茶、買って来てくれたんだよ。今もって来る。それから、お弁当も食べるといいよ」

「ああ、それがさ」

千紗が、渋い顔で言いにくそうに言った。

「今日に限って、お弁当、忘れてきちゃって、ないんだよ」

「大丈夫。ゴンちゃんのお母さんが、ちゃんと持ってきてくれたみたいよ。下駄箱にお弁当置いてあったんだって。これも、中西さんから預かったんだ。あと制服もね」


 そう言って、ついたての向こうに姿を消すと、今度はお弁当の包みと飲み物のペットボトルを2本持って、入ってきた。千紗は、スポーツドリンクを受け取ると、蓋を開ける時間ももどかしく、一気にごくごくと飲み干した。その間に、奈緒は千紗の膝にナプキンを広げお弁当箱をそっと置いた。


「はい、どうぞ」

「わぁ、助かった。ほんと、今日、どうしようかと思ってたんだ」

千紗は、「いただきまーす」と威勢良く叫ぶと、さっとお弁当の蓋を開けた。豚肉の生姜焼きにブロッコリー、ポテトサラダが彩りよく盛り付けられ、ご飯にはごま塩が振ってあった。全部、千紗の大好きなものだ。しかし千紗は、しばらくそのお弁当を眺めると、名残惜しそうに蓋を閉めた。

「やっぱり…、やっぱり食べられないや」

ため息と共に千紗が言った。



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