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千紗の新しい相棒

 そんな最低な出だしだったにもかかわらず、なぜか千紗は、投票で再び学級委員に選ばれた。

 ま、学級委員なんて、結局は他人がやりたがらないような雑用ばかりだし、ましてや、受験を控えた三年生になって、やりたがる人間もあまりいないわけで、おっつけられたと言えばその通りなのだが、何しろ、初日からあのようなへまをやらかした身としては、思ったより嫌われてないのだと、胸をなでおろしたわけだ。

 だって、いくらなんでも、すっごく嫌いな人間を、学級委員に推薦したり、投票したりしないわよね、そうよね、と、学校の帰り道、かなりしつこく、山田奈緒に同意を求めはしたが。


 そして、本心を言えば、千紗は、再び学級委員に選ばれたのが、嬉しかった。なぜなら、きっと菊池もまた、学級委員になるだろうと、思っていたからだ。学級委員にさえなれれば、再び同じ教室で、机を並べる時間が持てる。

 だから、三年生になって学級委員だなんて、ただの貧乏くじとか、ダサいとか言われても、菊池との逢瀬と引き換えなのだから、千紗はへいちゃらだった。


 しかしながら、一つ問題があった。

 なんと、千紗の新しい相棒である、男子の学級委員が、あの、新学期初日、千紗に向かって、鋭い言葉を吐いたライオン狸(命名千紗。ちなみに、彼の名は、藤原新平といったが、それを知った途端、千紗は、け、随分洒落た名前じゃないか、完全に名前負けじゃんと、またまた腹の中で毒づいた)、だったのだ。


 大体、なんであんな、小柄でむっちりボディーの、ライオンのたてがみに狸の顔をつけたような、獅子っ鼻でぎょろ目で態度の悪い男が、学級委員に選ばれたのか、千紗にはさっぱり分からなかった。が、どうやら向こうも、思いは同じだったらしく、初日から無様な遅刻ぶりをクラスメートに見せつけ、図体ばかりでかくて、がさがさどすどすと少女らしさ欠ける、こんな目も当てられない女が、どうして学級委員になんぞ選ばれたのか、納得がいかない様子だった。

 とはいえ、選ばれてしまったものは仕方がない。半年間、とにかく協力してやってゆくしかないのだ。


「それじゃ、学級委員に決まった二人、ここに来て、最初の挨拶をして」

 ハンガー山本に促され、のろのろと席を立って教壇に立ったとき、千紗は、改めてこの新しいコンビの、ちぐはぐさに気がついた。ま、簡単に言ってしまえば、藤原新平より千紗の方が、背が高かったのだ。

 自分のことは棚に上げて、

(藤原君と並ぶと、あたしが余計大きく見えるな)

と、千紗は苦々しく思った。正直、並んで立つのは気が進まなかった。それは相手も同じだったらしく、教壇の端と端に、二人は離れて立つこととなった。


「おい、なんだい。これから二人で、協力してやっていかなくてはならないのだから、もっと近寄って」

見かねたハンガーに促され、渋々二人が並んで立つと、どこからか、

「あ、俺、知ってる。こういうの、ノミの夫婦っていうんだぜ」

と言う、意地の悪い声が聞こえた。


 くすくす笑いが、あたりに響く。千紗は、声のした方を向いて、片眉をあげて見せたが、一人一人睨みつけて、誰が言ったのかを、確かめることまではしなかった。

 どうせ、意気地のないやつのつまらない野次だ。真正面から言い争う度胸のないやつに限って、その他大勢の立場を利用して、他人の肉体的欠点を突いてくる。

 あたしたちの何が気に入らないのか知らないけど、文句があるなら、直接、言って来い。いつでも相手してやる。


 しかし、同じ言葉をぶつけられて、隣の藤原は、ずっと敏感に反応をした。藤原は、まるで画鋲でも踏んだかのように飛び上がり、千紗から離れるように、大きく一歩跳び退ったのだ。それを見て、また、意地の悪いしのび笑いが響いた。

「はい、下らない事は言わない。自分たちで新しく選んだ学級委員に、みんな、拍手」

 珍しく厳しいハンガーの声に、クラスメートが、ぱらぱらと拍手をした。


 千紗は、藤原とともに、

「よろしくお願いします」

と、あまりやる気のないお辞儀をしながら、腹の中で、藤原を苦々しく思っていた。

 この程度の野次で、びくついてどうする。もしかして、見かけと一緒で、肝っ玉も小さいんじゃないだろうな。千紗は、早くも黄色信号が点滅している二人の関係に、(これから半年間、一緒に学級委員がやれるだろうか)、と、不安になるのだった。



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