わかんない♡
「ここはねぇ」
最近隣のお姉さんが何時も勉強を教えてくれる。
学校が終わると家へ来てくれて、一緒にいてくれる。
暗くなっても両親はなかなか帰ってこないから、お姉さんが一緒だと嬉しい。
お母さんは仕事で忙しいし、お父さんは遠くで働いているからあまり会えない。
友達と遊びたいけれど、みんな塾や習い事で忙しい。
「ごめんね。ちょっと電話出るね」
「うん」
「……彼氏君? どうしたの? え? 今? うん。知り合いの子供の所。今から? うーん。ごめんね。今からは遊べないかな。うん。うん。ごめんね。また明日ね。うーん。ごめん。今はちょっと話せないかな。ごめんね。うん。きるね」
スマホからは相手の大声が少し聞こえていた。お姉さんは最近彼氏とあまりうまくいってないみたいだ。恋人って不思議。ボクの両親も良く喧嘩するけれどお互いに折り合いをつけて謝りあっている。
「貴方がいなかったら、もっとお父さんとはうまくいってなかったかもしれないわね。何時もありがとう」
お母さんはそう語りながら頬にキスをしてくれる。最近ちょっとキスをされるのが恥ずかしいのでやめてほしい。でも嫌がるとなぜか母は喜ぶ。
「お父さんはお前の事が大好きだよ。お母さんの事も。だから心配しなくて大丈夫だ」
お父さんはそう優しい眼差しをくれる。頭を撫でてくれる。でも頬擦りをするのは恥ずかしいからやめて欲しい。ヒゲがあると痛いし。そう告げると父と母はなぜか笑う。本当にヒゲは痛いからやめてほしい。
またスマホが鳴る。でもお姉さんは着信をきってしまった。
恋人って、夫婦と違うのかな。仲良くしないと、ダメじゃないのかな。
「お姉さん。ボクなら大丈夫だから……だから遊びに行った方が」
本当はお姉さんに傍にいてほしい。ボクはお姉さんが大好きだから。
「どして? ボク君はお姉さんがここにいたら嫌?」
「……ううん。ボク、お姉さん大好きだから。だから、でも、恋人って夫婦と同じだから。喧嘩は良くないって、思うし」
「そうなの? お姉さんの事大好きなんだ。大丈夫。いいの。お姉さんね。ボク君の事大好きだから。だからね? 今日も一緒にいようね」
「いいの? 大丈夫なの?」
「大丈夫よ。お風呂入ろっか」
「うん」
「お姉さんが綺麗綺麗してあげる」
お姉さんは何時もボクを優先してくれる。
ボクが風邪を引いた時もお昼にお見舞いに来てくれてずっと寄り添ってくれた。ボクが寂しいと何時も側にいてくれる。でもお姉さんに少し申し訳なくなる。こうして何時も何かお姉さんの都合を邪魔してしまう。でもお姉さんと一緒にいられるのが嬉しくて、それを口に出したくなくてモゴモゴしてしまう。
「お姉さんが……ボクの恋人だったらいいのになぁ。そしたらずっと一緒なのになー」
そうだったら本当に嬉しい。お姉さんの手が目の前に寄せられる。背後から包まれるの好き。お姉さんは柔らかくて温かい。お姉さんに抱きしめられると胸がじんわりする。じんわり温かくなる。手が心臓の辺りに添えられると、心臓がドクドクして心地良くなる。
「じゃあ……お姉さんが今日から恋人ね。ほらっお服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
「ほんとに? いいの? でも……恋人の人が……」
「大丈夫。お姉さんもう恋人の人とは別れるから」
「そうなの? でも……」
背後を見上げるとお姉さんは笑みを浮かべていた。手を挙げると上着が空へと浮かんでいく。シャツもパンツもポンポンと飛んでゆく。
「いい子だね。今日から、ボク君が私の恋人ね」
「でも……そんなにすぐ別れるの? 仲良くしないと……」
「あのね?」
そう告げるとお姉さんは耳元へと口を寄せて来た。きっと秘密の話をするんだ。お姉さんの吐息が耳にかかってちょっとこそばゆい。
お姉さんはスマホを持ち出して、ぼくに彼氏の写真を見せてくれた。
体格が大きくて浅黒い、かっこいい金髪のお兄さんだ。
「なんかね。彼って……お姉さんの……お胸とか、お尻とか、良く触ってくるの」
「そうなの? なんで?」
「わかんない……。それでね……耳元で、お〇んちん大きいよって擦りつけてくるの」
「なんで?」
「わかんない。こことかに……指を這わせたり、舐めようとしたりしてくるの」
「なんで?」
「わかんない。うふふっ。だから……そんな変な人とは、別れた方がいいよね?」
「うーん……変な人とは別れた方がいいかもね」
「うんうん。それにね。私以外にもセ〇レがいるのよー」
「セ〇レってなに?」
「わかんない……」
「そうなんだ」
扉を開けてタイルを踏む。ボク、タイルは硬いからあんまり好きじゃない。転んだらって想像をすると少し怖い。でもお姉さんにそれを知られたくなくて我慢する。
「うーん……でも恋人の人が。日菜子ちゃんも浮気はダメだって言ってたよ」
「……日菜子ちゃん? さぁ、座って頭をごしごししましょうね」
「うん。一番仲がいい友達なんだ。日菜子ちゃん。ボクの事好きなんだって」
頭をワシワシ。お父さんは頭を洗ってくれる時、何時も変な髪型を作ってくれる。それが好き。お姉さんはお母さんと同じで洗い方が優しかった。
「そうなんだ。ボク君も好きなの? さぁ流すから目を閉じましょうね」
目と口を閉じ、耳を塞ぐとシャワーが雨みたいに降り注ぐ。頭を洗ったらその泡で全身覆われるから、体洗わなくても良くないかなってたまに考える。でもお母さんはダメだって言ってた。不潔はダメなんだって。
「はい。流れました。次は体を洗いましょうね」
「うん。日菜子ちゃんとは一番仲いいんだ。何時も手を繋いでる」
「……お姉さんよりも? 脇を上げて」
お姉さんは何時も頭と体を洗ってくれるけれど、本当はもう自分で洗えるんだ。お母さんはそれでも洗ってくるけど。両手を上げる。
「前もごしごししましょうね」
お姉さんの手が胸やお腹、全身を洗ってくれる。
「ここは特に丁寧に洗わないとダメよ」
「お姉さんよりも? お尻とか?」
「うんうん。ごしごししてあげるね」
「お姉さんよりも? うーん……」
「さぁ、あわあわ流しましょうね」
どっちと聞かれて、ボクはすぐに答えられなかった。全身泡がとれてすっきりとする。次はお姉さんの番。
「お姉さん。背中ごしごししてあげる」
「ありがとう。でもいいのよ? 湯冷めしちゃうから」
「はい。お姉さんごしごししますよー」
「はーい。お上手お上手」
お姉さんの背中はお父さんよりも小さくて、お母さんよりも小さい。
「はい。ごしごししました」
「ありがとう。じゃあ、こっちもごしごしして欲しいな」
「前も? いいけど」
振り返ったお姉さんの体をごしごしする。指先までちゃんとごしごしして綺麗綺麗にする。お母さんとお父さんは背中しかごしごししない。前はいいって。お姉さんは前もごしごしする。
「はい。ここも綺麗にしないとダメだよね? お姉さんもごしごし綺麗にして欲しいな」
「お尻? わかった」
お足の裏までちゃんとごしごしする。ごしごしが終わったらあわあわを全部流して湯船に浸かる。
お父さんもお母さんも100数えないとダメだって何時もなかなか上がらせてもらえない。お姉さんも10分は浸からないとダメだって上がらせてもらえない。
「温かいねー」
「うん」
湯船に浸かるとお姉さんはコチョコチョとかしてくる。
「お姉さん。ダメ‼ ダメだってば‼」
「ほーらこちょこちょこちょこちょ」
「もー‼ お姉さん‼」
ボクもお返しでコチョコチョする。
「あははっ。やったわね‼」
暴れるから何時もお湯が零れて減っちゃう。
お風呂から上がったらぐったり。お姉さんにタオルでグルグル巻き。
「ちゃんと拭かないと。湯冷めしちゃうからね」
「うん。お姉さんも」
「ありがとう……ボディクリーム塗ろうね? ほらっハチミツのとってもいい香り」
「ハチミツのかおり?」
「うんうん。全身にヌリヌリしましょうね」
「うん。なんか変な感じ」
「うーん。とってもいい香り」
「髪には塗らなくていいの?」
「うんうん。髪には塗らなくていいのよ。さぁ……じゃあ、お布団行きましょうか」
「お洋服は?」
「今日はぁ……お洋服はぁ……いらないかなぁ」
「なんで?」
「お姉さんもハチミツぬりぬりして欲しいし……。ここだと……湯冷めしちゃうからね」
「わかった」
「大丈夫よ。お姉さんも初めてだから」
お姉さんがペロリと舌で唇を舐めた。
「うふふっ。元彼にぃ見せつけてあげましょうね。ぼく君が初めてだって。うふふっ。あの人、私の初めてを楽しみにしてるんだって。どんな顔するのかしらね。日菜子ちゃんにも送ってあげましょうね。うふふっ。ちゃんと教えてあげないと可哀そうだものね」