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第17話 ヒュメリエイション(humiliation)

「お父様!」

「どうした、急に。そんな真剣な顔をして、何かあったのか?」

「わたし、セラフィーロの王子と婚約したいです」

「そうか! それはよかった! 家出をしたときにはどうしようかと悩んでいたんだよ」

「はい。それでお願いがあります」

「ん? お願いって――もしかして二人の王子うち、婚約したい王子がいるってことか?」

「はい、わたし――」


 ◇◆◇◆


「親父、急に呼び出しなんて何なんだ――って、兄貴もいるんだ」

「遅いぞカイン――まあいい、そこに座れ」


 自室で魔導書を読んでいた俺は、急に親父に呼び出され少しイラついていた。


「お前達二人を呼んだのは、ザビンツの皇女との婚約の話だ」


 ほう、そうかそうか。実力がないバカ兄貴を婚約者するのを諦めたのか。そんなの当然だろ。


「アベルを婚約者としてザビンツの帝王と話を進めることにした」

「はっ?」


(何だって? どういうことだよ。何でバカ兄貴を選ぶんだよ)


 バカ兄貴を見ると、驚いた表情もなくただ静かに目を閉じていた。


(ちっ)


「親父。納得がいかない。兄貴は魔法も使えないし、冒険者をしているけどまだ実力が足りないだろ」

「カイン。よく聞け」


 親父が口にした言葉は、俺にとって屈辱的なものだった。


「皇女がアベルと婚約したいと言ったそうだ」


 俺は思わずバカ兄貴を見る。バカ兄貴は力強く真っすぐに俺を見ていた。まるで、「お前には譲らん」と言わんばかりの表情だった。


畜生ちくしょう、何でバカ兄貴を選ぶんだよ)


「カイン」

「何? 親父」

「お前、儂に断りもなくトワール子爵令嬢を婚約者だと言いふらしたそうだな」


 俺が言葉に詰まっていると、親父は続けて言う。


「儂は、お前との婚約を望んでいる令嬢の中から婚約者を選べと言ったはずだが、何故婚約の希望が無かったトワール令嬢を選んだんだ? しかも聞くところによると、トワール令嬢には婚約者がいて、お前が言いふらした後、その婚約者と逃げたというではないか」

「っ!」


 事実を告げられ、何も言い返せない。


「儂に恥をかかせよって。もうよい、お前に言いたかったのはそれだけだ。少しは反省しろ。下がってよいぞ」


 俺はバカ兄貴と共に部屋を出る。バカ兄貴に何か言われるかと思いきや、何も言わない。「お前にかける言葉など無い」そう言っているように感じた。


 ◇


「ふざけんな!」


 自室に戻り、物に八つ当たりをする。イラつきが収まらずに数分が経った頃、扉をノックする音が聞こえた。


「入れ」

「失礼いたします。殿下」

「それで俺の言ったしなは手に入ったんだろうな?」

「いえ、まだ一つも手に入っていません」


 何だと? それじゃあ、ガリ勉に呪いをかけられないじゃないか。期日を守れないなんて、こいつ使えねぇ。


「もうよい」

「はっ」

「では、失礼い――」


 俺は使えないヤツを蹴り飛ばす。


「な、何を――」

「もう、俺にそのつらを見せんじゃねぇぞ。クビだ、クビ。お前の仕事は違うヤツに任せる」

「――そうですか……、失礼いたしました」


 目障りなヤツが部屋を出たあと、俺は再び八つ当たりする。


「何なんだ。ガリ勉といい、バカ兄貴といい、俺をコケにしやがって」


(絶対に王になってやる。王になってバカ兄貴を処刑して、皇女を奪い取ってやる)


 腹の虫が収まらなかったが、俺は魔導書を手に取り、「この呪いも使えるな」と中に書かかれている記述をまた読み返した。


(バカ兄貴、今に見てろよ。ガリ勉同様、お前を不幸のどん底に落としてやる)


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