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70.静かなる夜

 

 パーティーの後、キチンとしたディナーをいただき、みんなと同じちゃんとした部屋を用意してもらえた。

 風呂にも入った。

 はい、いいお湯でした。

 温かい身体で早めにベッドに入る。

 明日も早いのでおやすみなさい。



「―――グリムさん、起きてますか!」



 レイナさんが飛び込んできた。



「うわぁぁぁぁっ!!」

「うるさいですよ」

「飛び込んできておいてひどい。 あと、お嬢様がこんな夜に男の部屋に来ちゃいけないだ」

「信号通信機を貸してください! マリアさんにご相談があるんです」


 

 鬼気迫る様子。

 目の前のおれじゃなく、マリアさんに相談なの。

 寂しい。


「そうすか、どぞ」


 素直に手渡した。



 レイナさんはマリアさんと会話している。

 どうやら、クーデターを恐れている。

 


「レイナさん、ぼくもマリアさんと話したい」



 無視された。

 どうやら、衝撃的な話をされたみたいだ。

 やるなら今夜とかかな。

 やれやれ、マクベス君を呼んでくるか。


 隣の部屋のマクベス君はすでに戦闘態勢で準備済みだった。


「用意いいね」

「なんで寝間着なんだ? 着替えなよ」

「なんかクーデターなんだって」

「だから、言っただろ? 屋敷の中も外も空気がおかしいって」

「だから言ったじゃん? 『じゃ、任せた』ってさ」


 まさか、クーデターなんて思わないじゃないか。

 てっきり、ジルがレイナさんに夜這いを仕掛けるとか、報復に来るとか思ってた。



「だからって、寝るか普通?」

「マクベス君、ぼくはエンジニアだよ? 荒事ではお役に立てませんので」

「それで、寝るっていう精神がおかしいよ」



 二人で雑談していると、レイナさんがおれに信号通信機を手渡してきた。マリアさんがおれと話したがっているということか。


「マリアさん、そちらはディナーのお時間ですか」

《ギルバートよ》


 その一言でお察しだ。


「うん……あれ? これってちょっと、なんかぼくのせいでもありそうな予感が」


 シュラール地方の件で味を占めたな。


《『ヘカトンケイル』だったかしら? 奴は機士としては優秀よ。あなたか、あなたのギアがもっと欲しくなったのかもね》

「あちゃー」



 まぁ、クーデターなんて一朝一夕で起こせるものじゃない。計画自体はずっとしていたんだろう。

 たまたま、おれたちが来たタイミングがお得なだけで。

 いや、それだけではないか。


《援軍はすでに送ってるわ》

「マリアさん、未来でも見えるんですか?」

《あなたたちが帝都に戻る前に、迎えに行く人を手配していただけ。まぁ、北部に近づけば何か起こることはわかっていたけど……まさかね》

「ラオジール公は出来る人だから、皇子には邪魔なのでしょうかね」

《ギルバートは力で解決する男よ。けれど、そう単純ではないわ》



 ふぅむ。

 結末が予想できた。


 このままいくと、また機体を奪われそうだ。


 マクベス君がクーデターを潰したとしても、ギルバートが前当主陣を支持し、ラオジール公の家督簒奪と騒ぎ立てると、おれたちが謀反人に組したと罰せられる。



「軍と領主の関係から言って、ギルバートには強い発言権があるわけですね」

《そうよ。パルジャーノン家の支配するカロール地方には北西部最大の駐屯基地がある。そのカロール軍はギルバートの指揮下にある》



 軍と領主は相互契約のようなものを結ぶ。

 領主が領内での軍事行動を認可し金を出す。軍は領内の法と秩序を守ると約束する。

 権限としては領主の方が上だ。

 しかし、軍は領主の部下ではない。

 時にその行動を監視し、逸脱することがあれば、中央行政府の指令により、命令を拒否することもできる。

 そして、ギルバートは北部方面軍総帥。

 ギルバートが「ノー」と言えば、それはカロール軍司令の「ノー」になる。


 軍司令がラオジール公ではなく、前当主を領主として支持する。


 前当主は晴れて、軍事力を背景にこの地の支配者に復帰する。


 こういう嫌なことを思いつく奴に心当たりがある。

 

 そろそろ、旅の成果が気になってきた頃か。

 レイナさんがいるから、おれがラオジール公に味方することは予想できる。

 そこからギルバートと対立させれば、おれがギアで対抗することまで読んでいる。


 フェルナンドめ。



「マリアさん、ぼくら、盾突いて良いですか?」

《ギルバートに言うことを聞かせるにはどうすればいいのか、わかる?》

「『力』ですね」

《フフ、さすがね》



 ギルバートは単純な奴だ。

 自分より弱い奴には強い。だが、強い相手には強く出られない。


 だから、クラウディアの言うことを聞いて、ルージュに対戦を挑まず、フェルナンドの指示を無視できない。



《ただし、懸念材料がある。ギルバートは一流の機士を抱えている》

「マーヴェリック少尉ですか」



 原作最強キャラ3人の内の1人。

 機士としてはルージュ、マクベスに並ぶ天才。



《マクベス1人で対処できる?》

「それは大丈夫です」


 通信を終えた。

 やることはシンプルだ。



「さぁ、皆さん。動きますよ」



 ◇



 こちらのギアと列車を押さえて、ギアを用いた脅しをかける。

 これが敵の作戦だ。


 反ラオジール勢力が強襲を仕掛けた時、すでにおれたちは動いていた。

 アイゼン侯たち要人たちを退避させる。抜け道を使い、事が起きる前に屋敷を脱出した。


 立ちふさがる相手はカール王の護衛に静かに無力化してもらう。

 兵はラオジール公の身柄を拘束できないし、おれたちを武力で制圧することもできない。


 強襲に失敗した時点で、計画は半分破綻している。 


 ならば列車とギアを確保しようと考える。


 だが、グレート・ガイナ・エンパイア号にはダイダロス基幹が搭載されている。


 遠隔操作が可能だ。

 列車は無人で動く。

 大金を掛けてそろえたギアの部隊で、列車を制圧に追ってきた。

 だが、それまでの時間のロス。判断の迷いが勝敗を左右する。

 車で市街地に来た列車と合流。格納されているギアにマクベス君が到達。

 おれたちもエンパイア号に乗り込んだ。



「本当に大丈夫なのかね?」

「重要書類や証書は持って来られたんですよね?」

「その心配ではないよ。7機相手に、こちらは2機ではないか?」



 カール王の護衛隊長ユリアさんもギアを着装する。線路は塞がれているから列車を背に護ってもらうしかない。

 まだギルバート軍は姿を見せない。

 敵の機体は7機。

 こちらは2機。


「そうですね……でも、ギアの戦力は数ではありませんから」

「向こうにはジルもいる。機士正の天才だ」


 機士正は機士長の上。

 対するマクベス君は三等機士。

 天才ねぇ……



「重要なのは肩書ではありません。機士の機乗力と、それを引き出すギアの、相乗効果です」



 照明で威嚇される。逆光で敵機の悪役感が増した。


 その内の一機が、宣言する。意匠から見て、屋敷にあった当主専用の『カスタムグロウ』だ。



「パルジャーノン家の正統なる当主は私だ!! このギアがその証!! 家督簒奪の陰謀を企てた我が弟ラオジールを引き渡せ!! さもなくば、全員共謀者とみなすぞ!!」



 実の娘もいるのに。

 どうでもいいのか。

 悪党め。


「マクベス君、やっておしまいなさい」

《了解》


 列車を背に、対峙する。

 7機対2機。


 敵機体は距離を詰めず、横並びで腕部兵装の機関銃を構える。

 マクベス機がその射線上から姿を消した。


 敵機は光魔法の照明から闇へと消えたマクベス機を視覚装置で追えず、出遅れた。

 直後、真横から現れたマクベス機が敵機の横っ腹に蹴りをお見舞いし、吹っ飛ばした。


 ピンボールのようにはねた敵機がもう一機を巻き込んで沈黙。

 

 列車内の遠隔視覚装置『モニター』で観ていたおれは振り返る。


「ね? これで、5対2ですよ」


 ラオジール公は目を丸くして、答えた。


「いや、すでに3対2だ」


 見逃したようだ。立て続けにもう2機撃破。

 おれが視線を戻したときに、さらに一機倒していた。


 2対2。

 ジル機がマクベス機と対峙していた。


「ただの天才が怪物に勝てるかな?」


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― 新着の感想 ―
ギルバート名前の強者感の割に小物だなw
[一言] おのれクーデター兄弟め
[良い点] 今のマクベス君は絶対原作より強いでしょ。 変態にどんだけ無茶振りされまくってるとwww
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