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65.ロデリン市

 

 リッドフォードより西へ西へと進み、お土産でやや重くなった列車はいくつかの都市を経由し、高層建築が乱立する大都市に到着した。


「皆のもの、歓迎しよう。我が都市『ロデリン』だ」


 神殿のような堅牢な造りをしたガラス張りの巨大なロデリン駅は、『鉄道王』の名に相応しく豪奢で厳かな雰囲気に包まれていた。


 きっといつもは市民の利用者で賑わうこの巨大な空間に、おれたちしかいない状況が異様なのだ。


 出迎えるのは駅員ではなく、役人と貴族と衛兵たちだろうか。

 列を成し、道をつくる。

 彼らは目を伏せ、微動だにしない。


 一人の老齢な貴人が歩み寄り、恭しく静かに声を掛けた。


「大旦那様、長旅ご苦労様でございました」

「うむ。ハワード、長く留守にした。変わりは無いな」

「はい」


 まるで王の帰還だ。


 ハワード翁はちらりとおれたちを見て、礼をする。

 おれはメアリー先生仕込みの礼で返す。

 スタスタとカール王とマークスが先を行く。

 無礼なり。


 レイナさんが「ちゃんとできて偉いですね」みたいな顔で頷く。おれを何だと思ってるんだよ。



「大旦那様、お連れの方々は?」

「宿敵であり同好の士であり……化生の類よ」

「それは愉快な会でございますね」


 誰だよ、化生って……

 まぁ、カール王は70歳近いのに謎にエネルギッシュだし、マークスは研究技師としてちょっと抜きん出過ぎている。

 いや、シンプルにマクベス君のことか?


「一般人はぼくだけか」

「いや、お前だよ、一番のバケモンは! お前本当に人間か?」

「マークス、貴様は人のこと言えんだろうて。この儂まで騙されておったわ」

「カール王、御身は違うとでも? ここに並の人間は居らんよ」


 そういうアイゼンフロスト辺境伯という男こそ、並みではない。

 肩書や爵位のことではない。


 

 鉄道会社は帝国各地にあるが、軍基地に採用されるのは全てアイゼンフロスト家が経営するロデリン社製。

 おれたちが乗ってきた列車は皇族専用列車よりも振動が少なく、速い。その上、積載量も大きい。

 鉄道は流通の要。

 それを牛耳ることは流通を支配するに等しい。

 西方はアイゼンフロスト家が管理するこのシュトッツガルド地方を中心に栄えている。


 さらに当たり前のようにつながっている鉄道網も昔はバラバラだった。各鉄道を各社が管理しており、未開拓の山や深い渓谷、河川で遮られていた。

 そのメンツや地理的問題を解決して土地と土地をつなげたのがこの男だ。

 その過程で貴族間の調停もこなしたというのだから、やっていることはまさしく王。



「駅を開放せよ。利用者が滞っては意味がない」

「直ちに」



 おれたちと入れ違いで人がドッと駅に流れ込み、止まっていた時が動き出したようだった。


 おれたちは外に用意されていた8人乗り大型魔動四輪車で移動した。


 ロデリンという都市は帝都のように発展している。

 帝都よりもごみごみしておらず、道は広く整備が行き届いている。

 窓の外には高い生活水準が伺える建物が続いた。時計塔もある。

 道行く人々の格好もどこか先進的。

 ガイナ人と言っても人種は様々。多種多様な人々がいる。

 彩り豊かな服装は、ここが流通の要である証だろう。


 などと感慨にふけっている間もほんの僅か。

 なにせ道をただ真っ直ぐ進んで、ロデリン駅の真正面の大通り突き当りまでの距離だ。

 目と鼻の先に、やり過ぎなくらい横にも縦にも大きい建物があった。傍にあるロデリン市庁舎が小さく見える。


「我が家だ」


 悪戯っぽく笑うアイゼン侯。


「やり過ぎですって」

「歩いて来られるじゃねぇか」

「この見栄っ張りめ」

 

 思惑通り度肝を抜かれたおれたち。


 今日はこの大邸宅で一晩休み、旅の疲れを落とす。


 旅の始まりからそろそろ20日が過ぎようとしている。

 この西方ではここロデリン市、カール公王のナズル公国、パルジャーノン家の治めるザルタス工業都市を巡れば、後は一度帝都に帰還する予定となっている。


 それでようやく全行程の半分。

 体調管理も仕事だ。


 メイドさんたちは珍しいウェール人に対しても嫌な顔一つせず、客人としてもてなしてくれた。

 屋敷内で迷わないよう付きっきり。

 久しぶりに静かに睡眠を取れた。





 翌朝、例のぶっ飛ぶものを見せるというアイゼン侯。


 敷地内にある巨大な工房か、それともロデリン駅の車庫に行くのか。


 想像していたら連れていかれたのは郊外だった。

 車で二時間半。

 山や丘を二つ三つ越えたところまで走らせると景色が一変した。


「荒野……というより砂漠?」

「治水の影響で荒廃したのでしょうか」



 見事なまでに何もない。

 だだっ広い空間が広がり、唯一ある建物は軍事基地だ。

 それもたぶん秘密基地。

 こんなところに基地があるなんて聞いたことが無い。

 おれ以外は。


「『聖域』さ。噂には聞いていたけどな」

「まさか本当だったなんて。中央政府から独立し、宰相と皇帝、それから一部の軍人以外その存在を知らないアイゼンフロスト鉄道の秘密部門」

「儂らはともかく、あれらは良かったのか?」



 管理庁の人間や情報部までいる。

 彼らも入れてもらえると思っていなかったらしく、戸惑った様子だ。



「大げさなものではない。もう引退した身ゆえ、私の趣味を集めただけの実験場。危険が多く命の保障は出来ぬので、人の立ち入りを制限しておるがな」



 アイゼン侯はにやりと笑う。

 うっかり勝手に動くと、あっさり死ぬかもしれないという忠告にも聞こえる。


 しかし、本当に何もないな。


 てっきり爆速超特急列車でも見せられると思っていたが。



「鉄道も列車も無いのに、何の研究ですか?」

「うむ。まぁ、見ておれ」


 おもむろにアイゼン侯が手を挙げた。

 直後、大爆発が起きた。



「うわぁ!!」



 遠くで爆炎が空まで立ち上る。


 衝撃波がこちらに伝わった。おれとレイナさんはマクベス君の盾に隠れる。



 なぜ軍基地がご隠居の趣味とやらに付き合っているのかわかった。



「秘密兵器部門……それも爆発物の?」

「フハハ、ぶっ飛んだであろう?」


 アイゼン侯は面食らったおれたちの反応を見て満足そうに葉巻をくゆらせる。


 秘密より危険が勝る。

 おれたちはこの鉄道王の裏の顔を知ることとなった。



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― 新着の感想 ―
[一言] カッコいいw
[一言] 葉巻もってるアイゼンさんめっちゃ様になってて笑っちゃった 想像でしかないけど
[一言] ここで明かしたのはいいタイミングだったからとかもあるのかな。 爆発物って変に隠してたら謀反を疑われそう。
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