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58.視察?×潜入?×至高の業

 作業をしたら職人に引っ張られ事務所に連れて来られた。


「おい!! 工場長!!」

「え? な、何があったんですか?」

「こいつよぉ!! 見込みがあるぜ!! 天才だよ、天才!! 今よぉ、バリ取りやらせてみたらよぉ。やたらできるもんだから、切削もやらせてみたら、見ろよこれ!! 上出来だぜ!! 売りもんにできるぞ!! どこで見つけてきたんだよ、こいつ!?」



 おれは工場長の眼をまっすぐ見た。

 レイナさんの眼が見られないからだ。



「グリムさん? 何を、しているんですかっ!?」

「し、仕事ぉ……」



 めちゃくちゃ怒られた。

 強面の職人も退散するほどの迫力。

 美人が台無しとフォローしたのがまずかったか。

 美人は怒ると怖い。


「この件につきましてはマリアさんに報告致しますので!」

「えぇ、止めて!!」


 最近レイナさんは事あるごとにマリアさんに報告すると脅してくる。


「マクベスさん、あなたがいながら、もう!」

「面目ない。重機の作業を手伝ったら、断れなくて」

「マクベス君は悪くないんです。不可抗力です」

「グリムさんは黙っていてください!」

「はい」


 言い訳をさせてもらえないので仕方ない。

 おれは職人の技をただ眺めていたのではない。

 めぼしい職人をリストに載せていたのだ。


『状態検知』と目視で能力のある人材は記録しておく。おれにとって通常営業だ。



 リストに載っている職人のパーツは出来が違う。

 精密さを求められる基幹部品において、パーツ一つ一つの正確さは出来上がりを大きく左右する。



「工場長、この方と、この方のパーツは黒タグ。この方のは白色、あと、この人のは赤つけて優先して送って下さい」

「え? はぁ……? わかりました。そのようにしますが。何のために?」

「パーツの品質を分けたいんです」



 黒は完璧。大きさ、厚み、角度、寸法はもちろん、一切の歪み無く高い精度を誇る。

 白は神業。誤差無し。表面処理は芸術の域。部屋に飾っておきたい。インテリアにもなり、記念日の贈り物としても喜ばれる。

 赤は独創的。普通なら不良とされる。設計に無い加工が施されているからだ。

 おれの設計には無い、より合理的でスマートな加工だ。無論、精度もピカイチ。「なるほど、できるんだ、それ」と感心させられた。



 ちなみに今日、おれの作ったパーツは黒タグ。

 レイナさんを始め、『鉄の友の会』にも黒と白の違いが分からないと言われた。


「現場に手間を掛けさせるのは得策ではありませんが」

「うーん。全然違うんですけど」



 それを証明するためにおれは七日間で12か所の工場に潜入し、タグ付きをつくれる職人を探して歩いた。


「―――ねぇ見てよ、主任さん!! 逸材見つけたわ!! この子に成形やらせてみたらさぁ、見てこれ! 20年やってるうちの野郎共よりずっと良くできてるだろ!?」


 いつも通りの作業を見るために新人になりきったのだが、作業するとデジャブのように途中退場させられる。


「―――あり得ねぇ……こんなガキが、おれより上手ぇなんて……ふざけんな!! もう一回やれ!! 何が違う……?」


 職人探しどころではない場合もあった。


「―――騙したってのか、おい!! てめぇ、なめてんのか!!」



 サプライズがお嫌いな人には思いっきり拳骨を食らったり……



「―――お前、誰に習ったんだ?」

「故郷で親方に……」

「そうか、良かったなお前。感謝しろよ、その親方に」

「常々そう思ってます」



 各所を巡り終え、得たパーツでタグ無し版、黒タグ版、白タグ版、赤タグ版を組んでみせた。


 試すのは自動セレクターだ。

 受信した魔力を動力炉か機士へと自動で切り替える基幹装置。

 小さい箱型の精密機器。

 単純な魔力は燃料へそのまま流れ、魔法情報が含まれる場合はその信号に反応して切り替わる。


「これだけの手間をかける必要があったのでしょうか? 視察だけしていれば、これだけの騒動にならなかったのに……」

「急がば回れって言うでしょ?」

「グリム語で話すのはグリムさんだけです」



 簡易的に魔力を有線でつなげ、魔力、魔法で切り替わるか試す。


 タグ無しもキチンと動く。タイムラグなく、カシャ、カシャと内部で動力ラインが切り替わるのがわかる。

 黒タグ版はシャラシャラと静かだ。

 白タグ版は耳を付けないと音がしない。


 赤は音がしない上に若干切り替えがスピーディな気がする。それに、こっちの方が耐久力ある。

 効率化が叶い、パーツ点数が2つも削ってある。


「驚いたぜ、グリム。人事もできるとは。なぁ、アイゼン侯よ」

「完璧の概念すら覆すか」

「パルジャーノンの娘よ、振り回されただけの価値はあったのう?」

「おっしゃる通りでございます公王陛下。失礼しました、グリム支部長。タグ管理の件、マニュアル化に盛り込みます」

「お願いします」



 色々と勉強になった。設計も、量産と特別仕様で今後分けると良いな。



 これでウェールランドで組み立てる際、タグ分けしたパーツだけのスペシャルをつくれる。


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― 新着の感想 ―
主人公以外見分けられない以上量産機でこのタグ分けは使えないな。あくまで主人公が作る専用機限定だろう。
[一言] 親方が居なかったらここまで偉くなれなかったんだよな…
[一言] 現代だって製造の現場では量産性の為に設定されている許容交差だが手間やこだわりを惜しまないのなら精度は倍どころか10倍にだってできる、だがそれで向上する性能はコストに見合わないからやらないだけ…
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